- オフィスインタビュー
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目指したのは“人が集まるためのオフィス”。「CO-EN」をコンセプトにしたリクルート本社オフィス・CO-ENフロア見学ツアー
2021年4月に会社を統合し、新「リクルート」になった株式会社リクルート。そのタイミングで10年後の働き方を踏まえた人材マネジメントポリシーを設計。会社が約束するものとして、能力をいかんなく発揮するための機会・環境の提供を挙げています。その“場”として作られたのが、グラントウキョウサウスタワーに位置する本社オフィスです。2021年9月に取材に伺った九段下オフィス以来、2度目となるリクルートのオフィス見学に伺いました。
1990年新卒入社。人材領域の情報誌・情報サイトの制作スタッフとして17年間従事。大手メーカーを中心に様々な企業の採用・人材開発・インナーコミュニ―ション活性化等のクリエイティブ・プランニングを行う。その後、人事、経営企画、労務、総務を経て、2019年より現職。働き方やワークプレイスの戦略策定やコンセプトメイキング、及び災害等の有事対策・BCP策定と実行を担当。
新卒で化粧品メーカーに入社し、流通営業担当を経て、2006年に入社。総務部門として、本社・事業総務の両側面から全国の事業所のファシリティマネジメントに従事。その他、自然災害・感染症などの各種リスク対策や社内イベント対応等、総務業務全般幅広く担当し、現在に至る。
目次
「働く場所はどうあるべきなのか」「どういう働き方でありたいのか」を考えた
リクルートさんのオフィスには、以前、九段下オフィスの見学ツアーをさせていただいて以来の訪問になります。西田さんはそのときぶりですね。九段下のオフィスも内装が印象的でしたが、こちらの本社オフィスもおしゃれな雰囲気ですね。御社ではオフィスをどのように捉えているのでしょうか。
オフィスについて考える前に、「働く場所ってどうあるべきなのか」という問いがあり、さらにその奥に「リクルートはどういう働き方でありたいのか」という問いがあります。さらに、「どういう働き方でありたいのか」の根底には、弊社の人材マネジメントポリシーが存在しています。
人材マネジメントポリシーは昔から存在していたものですが、一時分社化したのち、あらためて株式会社リクルートという形で統合された際、刷新されています。内容は大きく変わっていませんが、あらためて「我々の価値の源泉は人」だという概念が定められ、一人ひとりに期待するものとして「自律・チーム・進化」の3点を定め、会社は個々が能力を発揮できる機会・環境の提供を従業員に約束しています。それが働き方と働く場所です。
リモートワークや出社、ハイブリッドワークなどさまざまな働き方がありますが、どのような働き方を是としているのでしょうか。
会社統合の際に「出社を前提としない働き方」とすることを決めました。働く場所について会社として特定の場所の優劣をつけたり推奨をすることはしていません。働く場所にはオフィス・自宅・サテライトオフィスなどサードプレイスの3種があり、それらから自分にとって1番パフォーマンスを出せる場所を選びましょうという方針にしています。
コロナ禍が落ち着いた以後も、会社としてオフィス回帰する意図はないですし、かといってリモート優先だというわけでもない。個人・チームが、それぞれ多様な選択肢のなかから自律的に最適な働き場所を選びましょう。一方で、その選択は成果やパフォーマンス、生産性、自分と組織にとって最適なものである必要があります。自由に選ぶ権利はありますが、同時に成果につなげていく責任もあるよね、というのが弊社の考え方です。
なるほど。今回の本社オフィスについてもお話をお聞かせください。
今回、都心オフィスを再編し、このサウスタワーの本社オフィスを中心に3拠点に集約しました。本社オフィスのコンセプトは「CO-ENのような場所」です。「CO-EN」は2021年の会社統合時に新たに定めた人材マネジメントポリシーの一つで、「公園」と「Co-Encounter」という2つの意味を持たせています。リクルートという会社を、好奇心を起点に多様な個人とチームが出会い、協働・協創が生まれる場にすることを目指しています。先ほどお話したように、働く場所はどこでもいいのですが、オフィスを選ぶとするなら、集まる場所として良き場所でありたいよね、という想いがあります。
オフィスに来てくださいとは言っていませんが、オフィスで「ちょっといいですか」から始まる会話はリアルだからこそ生まれるコミュニケーションだと思います。偶発的な出会いはイノベーションの起点になります。オフィスは人が集まるためだけの場所ではありませんが、自宅やサードプレイスと比べると、集まる場であり、リアルコミュニケーションを担保する場だといえるでしょう。そこで、公園でもあり出会うための場でもあるとして、オフィスのコンセプトも「CO-ENのような場所」と定めたんです。
以前はサウスタワーの23~41階が弊社のオフィスでしたが、今回21、22階を増床し、21~41階となりました。そのうち、22階と41階を「CO-ENフロア」としています。今回は西田と一緒に22階を中心にご案内いたします。
よろしくお願いします。
ありがとうございます。よろしくお願いいたします!
サウスタワー・リクルート本社オフィスの「CO-ENフロア」見学ツアー
「CO-EN」がコンセプトの本社オフィスのうち、「CO-ENフロア」と名付けられた22階、41階。22階をメインにご紹介いただきました。
夜にはアルコールの提供も。「カフェスペース」
ここはカフェスペースです。ちょっとした相談や少人数での会話、休憩に使われています。
朝から夜までやっていて、17時半以降はお酒の提供も行っているんですよ。
テストマーケティングの場としても活用。「テンポラリー」
この棚は何ですか?
「テンポラリー」という名前の空間です。自由に使える場所で、自社製品を置いてテストマーケティングに使ったり、お客様の依頼を受けて、ここで同じくテストマーケティングをしたりしています。
地域の物産展が開催されていることもあります。物産展をきっかけにオフィスに出てくる従業員もいますね。
アプリでオーダー・決済が可能。食器にまでこだわった「ダイニング」
ここは社員食堂ですか?
弊社では「ダイニング」と呼んでいますが、一般的に言うと社食ですね。「集う」「出会う」にとって重要な場所で、集まった場での体験をいかに良質なものにできるかを考えて設けました。
「同じ釜の飯を食う」と言われるように、食を共にするのは大きな要素になりますね。
そうなんです。ただ、かつて設けていたダイニングは利便性に重きを置いていました。忙しく時間がないなかでも、社内であればサッとすぐに食事をとれるという場だったんですね。でも、今は出社がマストではありません。であれば、利便性を追求するのではなく、オフィスに来た従業員たちが「美味しかったね」と言い合える場を目指したい。そうした想いから、器やメニューを選びました。
「おなかでつながる」がコンセプトで、共通の食体験によりコミュニケーションの質を上げることを大切にしています。メニューはAとB、ボウルとヌードルの4メニューを提供。このなかでAが特にこだわりのメニューで、会計を済ませてから作る出来立てなんです。
昆布とかつおで取る出汁・かまどで炊いたご飯、バランスの取れた主菜副菜が基本。とはいえ、時には急いで仕事に戻らないといけないときもあるため、作り置いておくことですぐに出せるB、ボウルやヌードルも出しているという感じですね。ボウルは丼、ヌードルはパスタやうどんなど、いろいろな麺類を提供しています。
高価格帯メニューの食器は陶器なんですよ。その他のメニューに使われている食器はメラミン製ですが、こちらも見た目にこだわって選びました。食器選びまで従業員が行う例はあまりないと言われましたね。選定の際には、食器屋さんに来ていただき、ずらりと並べていただいたんですよ。
今、西田が高価格帯といいましたが、エリア単価を考えると相対的には安価なんですよ。高くても1000円いかないくらいなので、外で食べるくらいならここで食べようと考える従業員もいるでしょう。メニューはアプリで配信していて、注文や決済もスマホで行えます。自宅で先のメニューを確認し、「この日はランチを食べるために出社しよう」と考える従業員もいるでしょう。それもありだと思っています。
使われている様子はいかがですか?
複数人で食事をしている従業員がほとんどですよね。
そうですね。圧倒的にグループ利用が多いです。社食でグループ利用は珍しいと言われたこともありますね。作った意図通りに使われていてうれしいです。
壁がないワーク&コミュニケーションスペース「パーゴラ」
ここは本日お話を聞かせていただいた場所ですね。遠目に見ても目に入る印象的な場所だなと思いました。
ここは「パーゴラ」です。由来はイタリア語の「ブドウ棚」で、格子状の棚を指した言葉です。
確かに、この柱がブドウ棚っぽさがありますね。
出入りしやすいよう、あえて壁を作っていないんですよ。大きく3つ空間があり、それぞれを借りても良し、3つをまとめて貸切っても良し。カーテンでゆるく仕切れる作りは、九段下オフィスのファシリティの進化系といってもいいかもしれません。
会議に使われることが多いのでしょうか。
そうとも限らないですね。仕事以外の集まりにも使われていまして、部活動の活動場や、懇親会の場としても使われています。
人気ですよね。予約の競争率が高くて、どこかが何かしら予約されている印象があります。
色も印象的です。
バーガンディーですね。ダイニング側から見たときにアクセントになり、かつ空間に馴染む色を選びました。ダイニングが木目など落ち着く色合いが中心なので、良いアクセントになっています。
セミナー前後の時間も考えた「ラウンジ」&「セミナールーム」
1番奥にあるのがセミナールームで、その手前にはラウンジを用意しました。ラウンジは予約不可で、他拠点の従業員が来たときにも気軽に使える場としています。
セミナールーム前にラウンジを設けたのはなぜですか?
セミナー以上に、その前後に話す時間って重要なんですよ。ですので、そのために場所を作りたかったんです。セミナールームはガラス張りにし、ラウンジとのつながりを持たせています。
41階は個人利用を想定
今回は22階がメインでしたが、41階のCO-ENフロアもご紹介させてください。22階は小規模な交流を中心としつつ、個人利用もできる空間でしたが、41階は個人利用を中心に想定しています。また、22階は非日常時に複数の小~中規模のイベントが行える場としていますが、41階はフロア全体を貸切る大規模なイベントが中心というのが違いですね。
ホテルのラウンジのような洗練された雰囲気ですね。
あえて不規則におしゃれなデザインの椅子を置いています。人は縦移動に限界があり、1番上のフロアには足が向きにくいんですよね。そこを活かして、ふだんの環境から隔絶される価値や意味をもたせた空間を作りました。
九段下オフィスに続き、社外パートナーの力も借りつつ作ったCO-ENフロア
CO-ENフロアを作るにあたって、大変だったことは何ですか?
あらためて働き方やオフィスについてどう考えるのか、抽象度の高い議論を経て定義に収斂(しゅうれん)させていくのが難しかったですね。というのも、コロナ禍以前よりリモートワークを導入してはいたものの、コロナ禍により会社の意思ではなく外部の状況によって一気にリモートワークが進んだところもあったものですから。
その状況から、あらためて考えるのは難しかったかなと。経営陣と4ヵ月話すのが私の役割だったのですが、これが個人的には山だったかなと思います。コンセプトを定めたあとの生みの苦しみは西田が経験しているかなと。
どのフェーズが大変だったというよりは、どのフェーズでも大変さがあったなという印象です。思想はわかるけれども、それを実現するにはどういう機能をどこに詰め込めばいいのかを考えるのが悩ましかったですね。
「カフェ」や「ダイニング」など6つの機能に決めるにあたっては、答えが何もなかったものですから、社内外のメンバーを50人ほど集め、ワークショップを企画して各チームで議論をしてもらいました。その内容をまとめて6つに絞っていった感じです。
九段下オフィスのお話を伺った際も、社外パートナーの製品やサービスの提供を受けた部分があるなど、パートナーの存在が印象的だった覚えがあります。
自分たちの発想には限界があると思っていて、外に見に行くことを大切にしています。今回ですと、フードに関しては自分たちの知見だけでは到底足りなかったので、パートナーとの出会いが必要でした。パートナーに理解してもらうためには、こちらが目指したいものをわかりやすく説明する力も求められましたね。おっしゃる通り、九段下オフィスを作ったときにいいものができたなという感触があったので、その成功体験も今回に活きています。
「これが正解」と定めず、従業員が働きやすい場の追求を
使われ始めたCO-ENフロアについて、「フロアの意図は話していますが、人はそんなに場所に都合よく動きません。想定通りじゃないこともありますが、それが自律であり、実は素晴らしいことなんじゃないかと思います」と語った佐野さん。
西田さんは「想定通りがいいわけではありません。想定外の使われ方がされていたら、オフィスをアジャストしていかなければならないと思っています」と語ってくれました。各フロアにも3ヵ所ずつ人が集まるCO-ENを設けましたが、意外に使われていない時間があるそうで、佐野さんは「場所を作っただけではダメだとわかった」と語ります。
満足度調査でデータを収集し、内容によってオフィスの改善を行うリクルート社。九段下オフィス同様、「可変性」「柔軟性」を大切にしているのは、同社の特徴です。「リクルートらしいなと思う“自律的な選択”という概念すら、今後変わるかもしれない。決め打ちをせずにやっていきたいと思います」と佐野さん。
「ハイブリッドな働き方に対し、生産性はどうなのかと聞かれることがあります。『できるよ』と伝え、『やりたいな』と思ってもらえることを発信していけたらいいなと思っています。制度を整えることもそうですが、出社時の仕事の質を上げる取り組みができると、ハイブリッドワークのヒントになるのかなと思います」(西田さん)
「会社のありようは会社によって異なるため、答えは1つではありません。固定化されているものでもなく、流動的なものでしょう。ただ、働き方というなら働く人を思いたいですね。コストの話もありますが、どのような働き方が選択しうるなかで望ましいのかを考え、そのなかで制約を乗り越えていきたいです」(佐野さん)
変化に合わせて進化を続けるリクルート社のオフィス。「自律した個が集い、多様な個々とつながり高め合う場」「新しい働き方を実現する場」を目指したリクルート社の「CO-ENフロア」は、自社のオフィスについて考えるヒントになるのではないでしょうか。