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西田 華乃さん (にしだ・かの)
総務・働き方変革 総務統括室 ワークプレイス統括部 HR領域統括グループ
新卒で化粧品メーカーに入社し、流通営業担当を経て、2006年に(株)リクルートエージェントに中途入社。以降、総務部門のスタッフとして、本社・事業総務の両側面から全国の事業所のファシリティマネジメントに従事。その他、自然災害・感染症などの各種リスク対策や社内イベント対応等、総務業務全般幅広く担当し、現在に至る。
築60年、3500坪。リクルートのオフィス見学ツアー、始まります!

さあ、やってきましたリクルートの九段下オフィス!
非常に大きなビルです。地上7階・地下2階、3500坪もあるのだとか。まるで学校や病院のようです。

おはようございます!今日はゆっくり見て行ってくださいね。

ロビーからかなりおしゃれです。……あれ?

これは?
リクルートの遊び心ですね。テーブルと壁の2点を使って吊るしている、脚のないテーブルなんです。
おおおお!確かに浮いてる!

▲ご覧の通り、テーブル下に脚はありません

警備員の方には、平時は座ってもらっています。立ちっぱなしでいる必要はないと考えました。
今まであまり意識していませんでしたが、常時立ちっぱなしの意味ってないですね。座っていた方が、いざという時のために体力温存できそうですし。
そうなんです。「警備はきつい仕事」というイメージを少しでも変えていければと。

さあ、エレベーターにご案内いたします!
あれ、これボタンを触らなくても反応するんですか?

そうなんです!指を近づけるだけで操作できる、非接触タイプのシステムを採用しました。
すごいー!これ元々こういうエレベーターなんですか?
後付けでつけられるタイプなんですよ。感染症対策でエレベーターでも非接触でできるようにしているんです。
後付けできるなんて知らなかったです!
さて7階に到着しました!

広い!おしゃれ!


眺望がすばらしいですね……!
借景ですね。武道館側には桜が植わっているので、春にはお花見、秋には紅葉も楽しめるんですよ。

テーブルに自転車……?
以前、什器に使われていたものを転用しました。複数の拠点から、様々な什器を持ってきたので、そのチグハグ感を馴染ませるように、あえて違和感のあるインパクトの強い自転車を置いています。

こちらのスペースはセミナーにも使えます。ではツアーを始める前に簡単に説明をしますね。
ありがとうございます!

▲本格的に見学ツアーを始める前に、簡単な説明タイム
このビルは1960年に竣工した築60年の建物。東京駅周辺にあった7つのリクルートの拠点が今回集結することになったのだそう。
「NEWオフィススタンダードへの提言」を柱に、「チーム・アクティビティ・ベースド・ワーキング」「ワーカーの活力を養うウェルビーイング拠点」「何も触れずに過ごせるオフィス」「地域社会・地域環境との共生」の4つの施策を立てています。では、さっそく見学ツアーを始めましょう!

今回、オフィスにはつきもののOA床を導入しませんでした。昔のビルなので、天井を抜いても天井高はそれほど高いわけではありません。床を上げてしまうと窮屈になってしまうんですよ。

そこで使ったのがこちら、フラットケーブルです。
薄いですね!このケーブルは最新技術なんですか?
実は昔から使われてきたもので、むしろ実用化されなくなっていた商品なのですが、今回のオフィスで導入を決定しました。当時の技術では断線しやすいということでOA床が主流になってきたんですが、LANケーブルも電話線も当社では不要だったので、フラットケーブルを採用したんです。今回当社が大量に発注したので、メーカーさんは驚いたのではと思います(笑)

これは?
モバイルバッテリーステーションです。どこでも作業ができるよう、オフィスのあちこちに設けています。

▲持ち運びできるバッテリー。これ1台でPCもスマホも1日近く充電が可能。
ノートパソコンも十分充電できる優れものなんですよ!

こちらは何人かで集まって仕事をするときに便利な大容量版です。
キャスター付きで便利!電源席を確保しなくていいのはかなり楽ですね。
OAフロアではないので、電源の取り出し口が少ないことをカバーするために、モバイルバッテリーを充実させています。こうする事で、今までは電源の位置で固定されていたデスクもレイアウトを自由にできるようになりました。
確かに電源コードが近くないといけないので、デスクって自由には動かせないですよね。

▲オフィスの片隅に近隣エリアの歴史を紹介するパネルが掲示されていました。

QRコードを読み取ってもらえると、公式サイトでより詳しい説明に触れられます。

こちらは「触れない」照明パネルです。ぜひ試してみてください。
わ、指を近づけるだけでオンオフが切り替わるんですね。非接触パネルに慣れていないので不思議な感覚がします。
そうですよね。いろいろな非接触の仕組みを入れたことで、ビル全体でタッチの機会を88.13%削減できました。
感染予防に役立ちそうです!

水道も近づけるだけで使えるんですね。
そうなんです。出来る限り、オフィス内の接触機会を減らすようにしています。自動販売機も取り出し口のフタを撤去することで、接触箇所を減らしました。

▲本来、フタは屋外に設置した際に葉やゴミが入り込むのを防止するためについているものなのだそう。見直した結果、「屋内設置ならいらない」と撤去することに
当たり前のように存在していたフタですが、確かにいらないですね。
そうなんです。ゆくゆくは購入ボタンもすべて非接触のタイプにしたいと思い、メーカーさんとお話しています。

さて、下に参りましょう。ちなみに、階段にあるこちらのサインはビルの竣工時から使われてきたものです。今回のオフィス作りの中で、環境配慮も一つの重要な課題として捉えていて、古いものを出来る限り残すようにしています。
新しいものを作るだけでなく、古いものを活かす考え方ですね!素敵です!

あちこちにある文字、ドットになっていて可愛いですね。
梁を活かして案内表示をするため、パンチングを使った場所があるんです。統一感を生むため、すべてドットに揃えました。

▲西田さんが話していたのはこちら。パンチングを選んだのは視界を完全に遮らないためなのだそう

トイレの表示もドットです。
シンプルだけど可愛いです!
マークをドット化するのはとても難しかったそうです。

▲扉のない階段部分。重い鉄製扉がない分、広々と感じられます

オフィスに入るときはここに社員証を当てます。意外とオフィスの扉はドアノブ式で、自動扉は珍しい選択なんですよ。結果、非接触での安心安全と、車いすなども通りやすくユニバーサルな機能になりました。
荷物を持っていることもありますし、自動扉の方が断然楽ですよね。
そうなんですよ。ちなみに、鉄道の改札でICカードをピッとする角度に合わせることで、自然と使いやすい作りになっているんですよ。
細かな配慮ですね……!

▲オフィス内にはオープンに使える席の他、こもれるスペースも

これで簡単に利用できるんです。

▲パネルで利用状況が一目でわかる
駅構内なんかにあるWeb会議システムみたいですね。

▲1人用席の中はこんな感じ

ファミレス席にもパネルがついているんですね。
パネルの裏側にモニターを付けることで、視界が気にならないようにしています。ソファやパネルを設置しているボードに使っている布地は収音効果があるんですよ。
上にある水色の丸い物体はなんですか?インテリア?
いえ、これは吸音材です。

▲デザインは異なりますが、こちらも吸音材
導入するにあたっては「意味あるの?」という意見もあったのですが、見た目も可愛いのでお試し的に入れてみました(笑)ないよりはいいんじゃないかなと。
見た目のアクセントになっているなと思いました。

あちこちにゾーンがありますが、壁はなし。必要時にはカーテンで目線を遮ります。
壁を作ってしまうと使い方が固定されてしまいますし、改装時に廃棄物の量が増えてしまいます。カーテンで仕切ることで一定の防音効果が得られますし、働き方の変化に合わせてフレキシブルに使えるんですよ。
これも出来るだけ「捨てない」工夫の一つなんですね!

あれ、こちらはさっきのエレベーターとは違いますね?

はい。こちらはエレベーター会社が作ったものです。既存のエレベーターを残したところには後付けシステムを入れ、丸ごと入れ替えたところには非接触タイプのエレベーターを導入しています。
どちらにしても非接触にできるのは技術の進歩ですね。
最初に見ていただいた後付け式パネルは、こだわって研究開発をしてきた方がいらして、導入検討時にはかなり熱く語っていただきました。
後付けできるなら、商業施設のエレベーターもどんどん非接触化してほしいです。
オフィスの一部には、昔の名残も。


歴史を感じられるよう、あえてそのまま残している部分があります。プロにとっては、この壁の石材は良いものなのだそうです。
素材によっては今ではあまり使えないものもありますもんね。雰囲気があって素敵です!
清潔感のある真っ白なコンビニエリア

お次は屋根付きの屋外廊下へ。向かった先には、何やら真っ白な空間が……

▲元は会議室として使われていた空間を透明感のある白いエリアに改装している

コンビニだ!
ぜひ私のスマホで試してみてください。

▲アプリを入れたスマホをかざして中に入り……

▲商品を選びます。そしてそのまま何もせず……

▲はい、これでお買いもの完了!
支払わずに出てくる感じ、めちゃくちゃ違和感ありますね。ドキドキします(笑)

▲盛り上がりすぎて編集部員が再トライ。本来はゲートに触れずに出る。慣れずにあたふたする編集部……。

いい反応をありがとうございます(笑)。ゲートを通ることで決済されるんです。アプリから購入履歴が見られますよ。

▲買ったものを食べられるイートインスペースも。広々としているため、テーブルの間隔にもゆとりが
白いし明るいし、清潔感がありますね。
ここ、リニューアルで激変した場所なんですよ。

▲以前の同じ場所。窓がなく、外との繋がりも感じられません
こんなに違うんですかー!全然違う空間で、元がこれだったなんてイメージつかないです!

▲コンビニエリアにはこんなトイレが
オールジェンダートイレ、初めて見ました。
明るい空間の中にオープンにあるので、抵抗感なく誰でも使えます。名前は迷ったのですが、一旦「オールジェンダー」としました。
また、別の場所には異なる工夫がこらされているトイレも。

洗面ボウルで向かい合うことで、雑談が発生する仕組みを作りました。
「久しぶり!最近どう?」みたいなコミュニケーションが取れるんですね。

▲男子トイレはスクエア

足元のレンガに文字が!
オフィス全体で10カ所くらいあるのですが、私も未だに見つけ切れていないんです。
これは、細部まで面白い仕掛けがありますね!
チームビルディングにも活用可能!中央棟1階スペース
中央棟1階にはキッチンのようなカウンタースペースがありました。

ただただおしゃれですね。イベント会場みたいです。

電気調理器を設置すればキッチンとして使えます。ゆくゆくは何かイベントを企画したいですね。
いいですね!

ここもビフォーアフターの差が大きいんですよ。

▲以前の様子はこちら。
天井と床が変わるとこんなにあか抜けた空間になるんですね!

外の床も同じレンガなので、外との繋がりを感じられます。
以前の屋外部分はただの廊下で、暗い雰囲気でした。窓を設けて繋がりを作ることでガラリと雰囲気が変わったんです。

▲蛇腹式の窓もすべて開けられます

向かい側の棟との一体感も生まれました!今窓ガラスになっている部分は、どちらの棟も壁だったんです。
壁に囲まれた廊下からテラスに大変身したんですね!
自分たちが働く地域を知ってほしい。北棟ランニングステーション

▲北棟に現れた「ランニングステーション」。これは一体……?

▲リクルートのオフィスを指差しています
壁に地図が!あ、オフィスから皇居ランができるんですね!


▲洗面台にはドライヤーも完備
ここで着替えてランニングに行って、帰ってきてシャワーを浴びて仕事……といったように使えるスペースなんです。会社の周りを走ってもらうことで地域を知ってもらいたいという思いもあります。
私は走るのが苦手なので、短い距離から長い距離までコースを用意してくれているのがありがたいなと思いました(笑)
ランニングステーションのすぐ近くには開放的な屋外スペースが

▲広々とした屋外スペースには美味しそうなキッチンカーが
お昼前にはキッチンカーがくるんですよ。
屋外ランチ、気持ちよさそうですね。

▲雨天時のためにオフィスビル内専用のビニール傘もあちこちに用意されています
超軽量テーブルで誰でも簡単に配置換えが可能に

こちらはブレストに使えるスペースです。

やっぱり壁がないんですね。

▲大きなホワイトボードは片手で動かす事ができる
視線が気になるときは、間仕切り兼ホワイトボードを動かすんです。

完全に仕切られていなくても、案外集中できるんですよ。人数が多いときにはテーブルを動かすこともできます。

▲天板の軽さにびっくり!

▲女性の西田さんでもご覧の通り
打ち合わせの人数によって、テーブルを気軽に動かすことができるんです。
ここにもレイアウトの自由度を高める工夫がされているんですね!
敷戸を広げれば大人数での研修も可能!南棟2階スペース

▲After

▲こちらがBefore。事務的な雰囲気からどこか和テイストな空間に
床にはサイザルという素材を切れ目なく敷き詰めました。

障子戸をイメージした敷戸で空間をし切れます。細かく仕切ることもできれば、部屋をひとつなぎにすることも出来るんです。
今までの可動式パーテーションは手間が掛かっていたんですが、これなら誰でも簡単に部屋を間仕切ることができて便利になっています。
おお!今までの可動式パーテーションは特殊な器具を使って、時間も掛かるイメージだったので、すごいお手軽ですね!

モニターの電源が上にあるので、これを動かすだけでモニターも自在に動かせますよ。

▲一角には少人数向けのスペースも

この部屋にはサウンドマスキングを入れ、収音効果を高めました。
聞かれたら困る通話は南棟3階のテレカンスペースで
ゆるやかに仕切られている空間の多いリクルートのオフィス。「聞かれたら困る電話はどうするの?」と思っていたら、南棟3階にテレカンスペースがありました。

▲部屋は全6室。

中にいる人の声は外に漏れず、外の声は中に聞こえる仕様です。稼働率が高いので増やすことも考えています。
これは集中して作業できそう。テレカンもしやすそうですね!


こちらはカーテンで仕切れるスペースです。

向かい側は個室。一部曇りガラスのようにすることで、視界を程よく遮りながら壁にはない開放感を実現しました。
鉄扉を自動扉化!既存の技術を活かして「触れない」を実現


黄色いソファの後ろには鍵付きの紐が垂れ下がっているスペースが。これは?
こちらはスーツケース置き場ですね。出張や退社後にそのまま帰省や旅行に行くという社員が日中ここに荷物を置けるようになっています。
そのまま奥に行くと、鉄扉がありました。
横に手をかざしてみてください。

お……?

▲扉上部にあるのが「アシストスイング」
おお……!!
「アシストスイング」というシステムを導入し、鉄扉を自働扉化しました。
荷物を抱えているときにも便利ですね。この、スムーズに開く動きが癖になりそうです。
閉まりかけたときに体に触れたときにはもう一度開くので、安全に使えるんですよ。以前から存在していたシステムで、「自動扉化したい」と探している中で見つけたんです。
こんなに便利なら、もっと広まってもいい気がしますね。
奥まった部屋はひとりで集中できるスペースに
こちらは「ソロフォーカス」と呼んでいる部屋です。一人でこもって作業する部屋ですね。


▲別フロアには2人でこもれるスペースも
部下の教育用にも活用できる場所ですね。
ヴィンテージ家具と古ビルは好相性
あのブルーのベンチシート、目を引きますね!

ヴィンテージ品ですね。駅や空港で使われていたものらしいです。
古いもの同士だから悪目立ちせずなじんでいるのかもしれませんね。

ここ、絶妙なスペースですね……!
軽く腰掛けたり立ったりして使えます。おこもり感、ありますよね。

▲背後の白いボード、いい塩梅のやわらかさなのです
赤レンガの赤を基調にした南棟1階スペース
南棟1階に戻ってきました。
ここが見学ツアーラストです!ここも施工前後で雰囲気が大きく変わりました。

▲After

▲Before
赤レンガ貴重の無骨な雰囲気がかっこいいです。

家具も赤!

ホワイトボードはどうしても理想の色合いのものが見つからず、既存品の枠を塗りました。
こだわりが凄い!
当日、別室では何かの取材で撮影が行われていた模様。レンガの壁、撮影の背景としても優秀そうです。
古ビルの価値は高い。見方を変えることで見つかる面白さは無限大

取材後、「新しいビルの場合はオーナーの意向も強く、自由に遊ぶのには制限がある」と語ってくれた西田さん。実はリクルート、10年ほどかけて都内で廃校を探してきたのだそう。なかなかいい物件に出会えずにいたところ、2019年12月に出会ったのが築60年のこのビルでした。
このビルを見た瞬間に『これだ!』と実感しました。
今回の見学で面白さを感じたのは、「新発想のオフィスビル」でありながら、実現に役立った技術は必ずしも新技術ではなかったこと。OA床をなくすために導入したフラットケーブルや、自動鉄扉を実現させたアシストスイングなど、以前から存在していた技術をうまく活用していたのが印象的でした。
「こんな風にしたい!」と伝えることで、実現できる製品や技術をパートナー会社さんなど関わった人たちが持ち寄ってきてくれました。
コロナ禍で働き方への考え方が大きく変化しているように、今後ますます働き方は変わるはず。その変化に柔軟に合わせられるよう、壁を増やさず空間をゆるやかに仕切る方法を選んだリクルートオフィス。
いざ作り替えることにしたとしても、壁よりカーテンの方が廃棄物による環境負荷が低くなりますし、工事も楽。可変性のあるオフィス作りは、長期的に見て無駄を減らせる選択だと思います。

今後について、西田さんはこう語ってくれました。
「ハードを作っただけでは限界があります。今は感染予防対策のために出社人数が少なく、ソフト面になかなか手を加えられずにいるのですが、中長期的にはサービスを充実させ、社内イベントも企画したいですね。ゆくゆくは地域の方にも開けたオフィスを目指したいと思っています」
社内メンバー数人と外部のパートナー会社の知力を結集して作り上げたリクルートの新オフィス。見ているだけでワクワクしてくる空間が広がっていました。