- オフィスインタビュー
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オフィスに、アートを。「人生に期待できる人を増やす」理念を持つNOMALが、オフィスにウォールペイントを描く理由とは
IBASHOでも紹介している、数々のオシャレなオフィス。しかし、まだまだオフィスの内装にこだわっている会社ばかりではありません。また、感覚的なオシャレさに留まっている会社も少なくないのではないでしょうか。
「オフィスにアートを」という想いを掲げ、ウォールペイントの施工を手掛けているNOMAL。そのウォールペイントは、「意味のあるアート」なのだそう。さっそくお話をうかがってきました。
JR総武線、都営大江戸線の「東中野駅」から徒歩約6分。閑静な住宅街の一角に建つNOMALのオフィスは、元個人の住宅を丸々一棟使用したものです。階段を上がった2階に玄関があります。
日当たりの良い3階の会議室で、取締役でありアートライフスタイリストである平山さんに話をうかがいました。
大学卒業後、化粧品会社で営業・広報に従事したのち、2016年4月からNOMAL入社。アート事業「WASABI」を立ち上げ、アートの可能性を広げるべく日々奔走中
目次
「人生に期待できる人を増やす」理念の元、多種多様な事業を展開
卯岡
NOMALのホームページを拝見したところ、プロ野球独立リーグチームの運営や人材紹介サービスなど、非常に幅広い事業を手掛けていらっしゃるのが印象的でした。「何の会社ですか」と聞かれることもあるのではないでしょうか。
平山さん
そうですね。NOMALはインターン仲間で創業した会社で、共通しているのは「人生に期待できる人を増やす」という理念です。理念を同じくしながらも、やりたいアプローチが異なるため、メンバーがそれぞれ事業を手掛けているユニークな会社になったんです。
卯岡
そのなかで、平山さんが手がけていらっしゃるのがアート事業だとうかがっています。
平山さん
はい。事業内容は主にふたつあり、ひとつ目がアート通販サイト「WASABI」の運営、もうひとつはオフィスにアートを導入するウォールペイント事業です。
卯岡
会社理念である「人生に期待できる人を増やす」と事業内容とは、どのように関連しているのでしょうか。
平山さん
ここでの「人」はアーティストを指しています。アーティストが、アートで生きていく人生に期待できる社会になればいいなと思っているんです。私自身も絵を描いていたことがありまして、今の日本ではアートになじみがある人の方が少ないと感じています。アート好きを除いて、敷居が高いと感じてしまうのが一般的ではないかな、と。
卯岡
欧米と日本とでは、美術館に行くハードルが入館料も含め全然違うと聞いたことがあります。
平山さん
そうなんです。はじめに手掛け始めたのは若手作家の作品を扱うECサイトなんですが、1年半前くらいから「オフィスにアートを」というウォールペイントのサービスを始めました。「アートをもっと身近に感じてもらうために」という想いで、アートと、アートの対極にあるサラリーマンとをつないでみたらどうだろう、と思って。
ウォールペイントに企業のビジョンを語らせる
卯岡
IBASHOで取材にうかがうオフィスは、どれもオシャレだったり洗練されていたりするイマドキオフィスなのですが、そうではないオフィスもあるかと思います。ウォールペイントを取り入れようという企業に傾向は見られますか?
平山さん
おっしゃられたように、内装への温度差は企業によって異なります。以前勤めていた会社は、その当時の私からすると内装にこだわっていないタイプで、ある日仕事で疲れた時に「ここに絵があればいいのにな」と思っていたのが今の活動にもつながっているんです。
弊社のウォールペイントは、オフィスづくりにこだわろうと考えている企業が導入を検討してくださっています。業種としては、IT企業が多いですね。
卯岡
なぜIT企業が多いんだと思われますか?
平山さん
オフィスで過ごす時間が長い社員が多い業種だからでしょう。1日の大半をオフィスで過ごす社員のために、環境を整えようという意識が生まれやすいのだと思います。あとはクリエイティブ意識の高い経営者の方には、業種を問わず興味を抱いていただいていますね。
卯岡
オフィス環境にこだわろうという企業は増えていると感じていますか?
平山さん
増えていると思います。それこそ、移転を機に見直す企業も多いのではないでしょうか。
採用データ上でも、「オフィスを重視しますか」という項目に「はい」と答える学生が多いのだそうです。最近ではインターンシップで入社前にオフィスを見られるようになっているため、より重要度が増しているのでしょう。
卯岡
最近増えているコワーキングスペースも、おしゃれな内装のところが多いですよね。何となくテンションが上がる感覚があります。
平山さん
実際に、内装を整えることには、社員のモチベーション向上につながる作用もあるんですよ。また、ただインテリアを洗練されたものにするだけではなく、オフィスにアート作品を飾ろうという価値観も浸透し始めていると感じています。
卯岡
アート作品を提供するのではなく、ウォールペイントを描く事業にした理由はなぜですか?
平山さん
アートを手掛けているアーティストの姿を、お客様自身の目で見られるためです。作業の様子を見に来られる社員の方もいらっしゃいます。
描いている過程、アーティストの作業風景自体もコンテンツなんです。壁紙を貼ったりアート作品を壁にかけたりすることよりも、生のアートに直接触れたほうが、アートに興味がない層にも届くのではないかと思っています。
卯岡
実際に描かれる様子を直接見れたほうが、オフィスに愛着も湧きそうです。
平山さん
弊社のウォールペイントの特徴は、ただオシャレな絵を描くのではなく、会社のビジョンを体現させた絵であることです。
そのため、描く内容を提案する前に、かならずヒアリングを行います。経営者の方の原体験までうかがって、何を大切にしている会社なのか、何を発信していきたい会社なのかを把握するんですね。
そして、一緒にさまざまなアーティストのポートフォリオを確認しながら、会社の雰囲気やビジョンのイメージに合うアーティストを選んでいます。
卯岡
会社にとって意味のあるアートなんですね。印象的だった導入事例はありますか?
平山さん
たくさんあるのですが…増床の際に、「日本的なことを大切にしたい」という明確な希望があった会社の事例でしょうか。希望に沿うデザインとして、書家の白石雪妃さんをアサインし、端的に会社のビジョンが伝わる四字熟語を探しました。
その会社にはビジョンが3つあり、フロアも3つあったんです。そのため、3カ所に三様のウォールペイントを施しました。
卯岡
水墨画のようですね。
平山さん
水墨はウォールペイントに不向きなため、水墨画に見えるように描いてもらいました。ここでは壁の右側に美術館のようにキャプションもつけて頂き、四字熟語やアートに込められた想いを解説した文を載せました。
完成後、増床パーティーを開かれたのですが、社員の方たちが写真を撮影してSNSにアップしてくれていたそうです。自慢したくなるオフィスに貢献できたんだなと思えて、うれしかったですね。
卯岡
ちょっと誰かに見せたくなるの、わかります。
平山さん
そうした効果も狙っているんです。検討されている企業に費用のお話をするときに説明しているのは、「施工費ではなく広告費だと捉えてほしい」ということ。
施工費として考えると、ウォールペイントって必ずしも必要なものではないですよね。でも、採用ページにも掲載できますし、来客や取引先から「なぜここにアートがあるの?」と聞かれたときに、社員が自然と会社のビジョンを語れるツールにもなるんです。
卯岡
なるほど、そうした意味も込めての「意味のあるアート」なんですね。
オフィスにアートを提供するNOMALのオフィス見学ツアー
オフィスにアートを提供する事業のほか、採用関連事業、独立リーグの球団運営など、多種多様な事業を手掛けているNOMAL。そのオフィスも見学させていただきました。
メイン作業スペースは2階。ただし「全員がそろうことは稀なんです」
卯岡
ふだんお仕事されているのが、2階のこのスペースなんでしょうか。
平山さん
はい。ただ、全員がそろうことは少ないですね。ちょっとこだわったのが、中央にあるテーブルです。一枚板なんですよ。のるすくさんという家具屋さんに作ってもらいました。三角形でとてもかっこいいです。創業者が3名なので、囲んで仕事するイメージです。
卯岡
どっしりしていて、手触りもいいですね。窓に向いたカウンターもあって、作業がしやすそうです。
ポップなウォールペイントに込められているのはNOMALの欲張った社風
卯岡
ウォールペイントを提供している会社として、ちゃんと階段壁面にウォールペイントが。
平山さん
当初からお世話になっているアーティストのマエダトシユキさんに「NOMALらしさ」を描いていただきました。
卯岡
イエローカラーもさることながら、絵柄もポップでかわいいものですね。どういった点が「らしさ」なんですか?
平山さん
欲張って何でもやっちゃうところですね。何でも取り込んじゃう(笑)イエローはコーポレートカラーなんです。
3階は日差しが降り注ぐ会議室と多目的スペース
卯岡
階段を上がって左側にあるのが、今回お話を聴かせていただいた会議スペースです。廊下を挟んだ反対側にあるのは何のための場所なんですか?
平山さん
ここは特に使用用途を決めている場所ではありません。今は、土曜日にアーティストの方が子ども向けに、アートのワークショップを開く場所としても使われています。
卯岡
だから椅子がたくさん用意されているんですね。日当たりがよく、気持ちいいです。
「制限のない新たな普通」づくりを目指す、”R”のない「NOMAL」
NOMALのウォールペイント事業は、基本的にはオフィスを中心に展開しています。他にも依頼を受けて、飲食店やホテル、サロンなどに施したこともあるのだそうです。
「アーティストとの出会いも積極的に増やしている」と語ってくれた平山さん。最後に、社名に込められた由来について教えてくれました。
「NOMALはノーマルと読むのですが、単語の綴りは、正しくはNORMAL。社名では“R”をあえて取っ払っているんです。その理由は、“R”はR18など制限を設けるときに使われるアルファベットだから。制限を取り除いた新しい“ふつう”を作っていこうとしているのがNOMALなんです」
オフィスで働く人たちには、心地よい空間を。アートで生きている人たちには、仕事の場を。NOMALは、両者の人生をウォールペイントで豊かにしていく会社でした。