- オフィスインタビュー
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注目のミドルベンチャー経営者に聞く!オフィス構築#7 fast step社 有友 純一郎氏
成長著しいミドルベンチャー企業の経営者は、働き方やオフィスにどんな想いを描いているのか。これまで成長し続けてきたからこそ、またこれからも成長し続けるからこその“働く場”の形成、オフィス戦略について深堀る連載企画。
第7弾の今回は、通販事業を展開しているfast step株式会社 代表取締役社長 有友 純一郎氏にお話を伺いました。
都立羽田高校中退後、フレンチレストラン「クイーン・アリス」にて料理人として修行。イベント企画会社で初めて企業を経験後、中古車販売業に転身。中古車を輸入するコンテナの隙間にアパレル商品を詰めて仕入れを始める。雑誌広告の電話注文からスタート、モバイルサイトを作り通販事業を開始。ガラケーを一番使っていたキャバ嬢に着目し、dazzy storeをオープン。2007年に株式会社dazzy設立に至る。
目次
事業紹介・自己紹介
――貴社の事業概要についてご紹介ください。
弊社は通販事業を手掛ける会社です。拡大しているのがランジェリーですが、アパレル通販事業者だと認識したことはありません。とにかく軸は「通販」。これが弊社の特徴です。意識しているのは、自分の好きなものを商売にはしないことですね。
――それはなぜですか?
商売は、お客様がどう思うかがすべてです。需要があるのかどうかは数字を見ればわかります。でも、これが自分の好きなものだと、「これが売れないわけがない」といったように、どうしても主観が入ってしまうと思うんですよ。数字で目に見えている結果を受け入れられなくなってしまうのは良くありませんから、あえて興味の薄いジャンル、苦手なジャンルで商売をしてきました。
イメージしているのは、銀座商人、呉服問屋です。片膝をついて、お客様にほしいものを伺う。それを仕入れて販売する。最初に販売したのは、夜のお仕事をする方たち向けのドレスでした。そこから何がほしいかを聞きながら商品を増やしていった結果、今に至るという流れです。
Fast step社のオフィスと働き方
入口からインパクトの大きいfast step社のオフィス。入居しているGINZA SIXは、海外、特に韓国をはじめとしたアジアで名が知られているのだそう。その結果、移転後に海外からの問い合わせが増えたのだといいます。
「住所を見て、GINZA SIXに入っている会社なら信用できると思っていただけたのでしょう。オフィスを構えた住所で仕事が増えるとは予想していませんでした」と有友氏。
日本らしさが感じられるパネルは、社名を日本風に書いたもの。エントランスは日陰のため、盆栽は毎週変更することで生育環境を担保しています。
のれんをくぐった先には、エントランスとは打って変わって明るく白い空間が広がっています。左右には商品やノベルティが並べられています。
「本当は水を循環させて流したかった」という壁面。実現するには200リットルの水が必要で毎日20リットルは蒸発するので補充する必要があると言われ、映像を切り替えられるサイネージを採用しました。
白い空間の奥には、アンティーク漂う格調ある装いのおしゃれな空間が広がっています。こちらはリフレッシュルーム。ランチ時や休憩時のほか、社内イベントの会場としても活用されています。
「スナック峰」は、有友氏の中1からの同級生でもある同社のパートナーの実家がやっていたスナックの名前。「基本ふざけているんですよね」と有友氏。
従業員用の冷蔵庫には、お酒のストックがたくさん。第4金曜日には「スナック峰」と看板をつけ、ホットプレートを6台ほど出し、店のように仕事後の時間を楽しんでいるのだそうです。
会議室にも遊び心が詰まっています。お話を聞いたこちらの会議室は、ブルックリン風に仕上げたもの。壁面のレンガは、実際にブルックリンにあるホームセンターで買ってきたもの。そこに有友氏の好きなラッパー、ジェイ・Zの絵を描きました。
各会議室の入口には、入口壁面をデザインしたアーティストを紹介するパネルが置かれています。まるで美術館のよう。
こちらの会議室は「バーバー(美容室)」。海外の美容室をイメージして作られています。飾られている絵は、インターネットで探してきた絵をプリントアウトしたもの。
向かって右側にある鏡は実際に美容室で使われていた本物です。雰囲気のある美容室のサインランプは、業務用ネット通販サイトで購入したものなのだとか。
こちらは「IT」をコンセプトにした会議室。壁面はホワイトボードです。他の会議室が照明を落としているなか、こちらはいわゆる一般的な色、明るさとなっています。商品の色が見やすいため、主に商品部が会議に使用している人気の会議室です。
こちらは音楽部屋と呼ばれている会議室。イメージはレーベルです。奥の壁面を埋めているのは、ネットオークションで購入したジャンク品のスピーカー。予算1個1500円で有友氏とアシスタント2名で5ヵ月をかけて買い集められたものです。
ギターも同じくジャンク品。こちらは予算3万円で有名ギターを集めました。
1番大きな会議室は、ジェイ・Zのレコードレーベル、ロカフェラ・レコードの会議室をイメージしたもの。実際の会議室の写真をインターネットで見つけ、それを見せてデザインしてもらったのだそうです。
額は4万円、飾られているのは古着。そこに自分でサインを書き入れ、「それらしく見せる」というアイディアを教えていただきました。
暖炉風の設備。「本当は本物の暖炉にしたかった」と有友氏。
「昭和の日本」をイメージした会議室。飾られているものは同じ昭和でも時代はバラバラなのだそうですが、統一感のある昭和らしい雰囲気にまとまっています。
昭和らしさを感じられる電話も。
こちらはVIPルーム。役員会議や、クライアントとの契約最終段階の打ち合わせをするための部屋です。コンセプトは「東京のおしゃれ」。
ちなみに、同社には社長室はありません。「1人になりたいときは出社しない」のが有友氏のポリシーです。
こちらはジム。さまざまな器具が用意されています。
有友氏のオフィス観「オフィスもブランディングの1つ。枠にはまらない社風を体現」
自社のオフィスについて「ふざけている」と表現する有友氏。有友氏のオフィスへの考え方について聞きました。
あえてフルリモートの真逆に行き、オフィスに投資を
通販事業はフルリモートでも可能な職種が多いという有友氏。しかし、同社は現在、基本的に出社スタイルだといいます。出社したいと思ってもらえるよう、オフィスはご覧のようにおしゃれに。結果、かなりの投資をしています。
コロナ禍で皆さんの意識が変わり、通販、ネット通販が多くの人にとって当たり前の買い物手段となりました。リアルスーパーでもふつうにネットスーパーがある。そうなると、通販の仕事ができる人材が今後取り合いになっていくだろうと考えたんです。
正直、弊社の仕事はフルリモートでもできます。賃料の低い場所、極端にいえば山奥にオフィスを構えることだって可能です。でも、弊社はあえて銀座のど真ん中におしゃれなオフィスを作った。求職者が見たときに、「他の通販事業者とは違う」と思ってもらえるポイントになると思ったんです。
個人的にオフィスづくりやインテリアが好きだという気持ちもありますが、「ここで働いている」と社員が言いたくなるオフィスにしたい思いは強いですね。109にいるカリスマ店員は通販にはおらず、働いている人たちは縁の下の力持ちなんです。しかし、私は通販でもカリスマ店員のように働く人が見えるようにしたい。このオフィスを機に、「ここで働いている」と前に出たくなる人たちが出てきてくれたらうれしいです。
会社・仕事は「人」。社員に喜んでもらえる施策が大事
銀座の中心地にオフィスを設けたことで、課題となったのは「ランチ高すぎ問題」だったといいます。そこで、現在同社では福利厚生として、週に3日希望者に弁当を配布しています。
会社や仕事は、やはり人、社員です。社員たちにはお客様を喜ばせる仕事をしてほしいと思っていますが、人は時間とお金に余裕があり、自分が充実していなければ上手く他人を喜ばせることはできないと思っています。
仕事が忙しく、ランチを食べに行くにも高いお店ばかり。そんな疲弊してしまうような働き方は良くない。前のオフィスでは社食をしていたため、移転後も提供を続けようと思っていたのですが、設備投資にかかる費用が予算を超えていたため、断念。紆余曲折を経て、無料でお弁当を配る福利厚生を用意しました。
そこまでして賃料の高いエリアにオフィスを構えるのはどうなのかと思う方もいるかもしれませんが、私は移転して良かったと思っています。求人の質も変わりましたし、取引先も増えているんですよ。社員に喜んでもらい、社員がお客様を喜ばせる。いいサイクルを回していきたいですね。
新オフィスで広くリフレッシュルームを作ったのも社員のため。以前は場所が足りず、各々の席でランチを食べざるを得ない状況だったんです。お弁当をコミュニケーションツールとして使ってもらいたい思いがあったため、念願叶って広々とした場所を用意できました。
枠にはまらないオフィスのように、枠にはまらず挑戦を
写真をご覧いただければわかるように、遊び心が詰まった同社のオフィス。「オフィスらしくない」とも感じられる部屋の数々は、有友氏の「やりたい」から生まれました。
社員には、いい意味でも悪い意味でもやりたいと思っていることをやってほしいと思っています。チャレンジの結果の失敗は悪いことではありません。さすがに会社の土台が揺らぐレベルの失敗は避けてほしいですが、どんどん挑戦してほしいです。ただ、いつもお客様を見ていてほしいですね。お客様が楽しむことを考えての挑戦は、最終的にお客様のためになりますから。
ブランディング強化中。新たな仲間も求めています
「丁稚奉公が弊社のスタンス。だから、これまでは上手くブランディングができなかった」と語る有友氏。とはいえ、通販事業者が増えていくなか、ブランディングをしていかなければ壁がくるだろうと考えていた矢先、2023年ごろに本当に壁がやってきたといいます。
有友氏:まさに今ブランディングを進めているところで、GINZA SIXへの移転もブランディングの1つ。新たな仲間も絶賛募集中です。今後、通販事業のスキルがある人材は引く手あまたになっていくでしょう。我々は、「通販も商売の1つ」という認識のもと、お客様だけを見て今後も商いを広げていきます。まずは弊社のふざけたオフィスを見ていただいて、枠にはまらず挑戦したい人に関心を持っていただけるとうれしいですね。