- オフィスインタビュー
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注目のミドルベンチャー経営者に聞く!オフィス構築#2 セルシス社 成島啓氏
成長著しいミドルベンチャー企業の経営者は、働き方やオフィスにどんな想いを描いているのか。これまで成長し続けてきたからこそ、またこれからも成長し続けるからこその“働く場”の形成、オフィス戦略について深堀る連載企画。
第2弾の今回は、イラスト・マンガ・Webtoon・アニメーション制作アプリ「CLIP STUDIO PAINT」のほか、クリエイター向けのサービスを多数展開している株式会社セルシス 代表取締役社長 成島 啓氏にお話を伺いました。
学生時代にアルバイトとして、株式会社セルシスに勤務。大学ではプロダクトデザインを専攻。
1997年、大学卒業と同時に株式会社セルシスにデザイナーとして入社。2D/3DのグラフィックデザインやWEBデザイン、ソフトウェアのインターフェースデザインなどに携わる。
2016年、株式会社セルシス 代表取締役 社長就任。
目次
クリエイターに、創作にまつわる体験を提供するセルシス社
――貴社の事業内容をご紹介ください。
弊社はクリエイター向けの制作アプリを提供している会社です。アプリは創作のための道具ですが、ただ道具を提供しているというよりは、創作にまつわる体験をトータルで提供していきたいと思って事業を展開しています
――ユーザーはプロの方が多いのでしょうか。
いえ、趣味で絵を描いている方も多いです。ですので、絵を描く・描いた絵を友人など他人に見せる・見てくれた方から共感を得るという一連の体験を提供したいと思っているんですね。
昔はパソコンに長けた人しかコンピューターで絵を描くことはできませんでしたが、パソコンが普及し、今ではタブレットが登場したことでデジタル制作が一般化しました。最近は女性の20~30代のユーザーが1番多いです。『クリエイションで夢中を広げよう』とミッションに掲げ、アプリの提供だけではなく、絵の描き方の動画配信なども行っています
セルシス社のオフィスと働き方
セルシス社のオフィスは、新宿中央公園の目と鼻の先にあります。オフィス前の道路には大きな街路樹もあり、窓からは青々とした緑が臨めます。
吹き抜けになっているオフィスビルのため、白い壁に光が反射して明るい印象を受けます。
ミーティングスペース
窓側に並ぶミーティングスペースは、仕切りになっている木目調の壁の色がグラデーションになっているのがポイントです。ホワイトボードは木目調の壁に合う色合いのものを選んでいます。
従業員の大半が在宅リモートワークだというセルシス社。部署によって、出社する曜日を決めているところもありますが、会社から出社・リモートの指定はありません。ただし、オンラインコミュニケーションで対面時と変わらないパフォーマンスを得るため、オンラインミーティングでの顔出しは必須。ライトを用意したのは、顔を明るくきれいに見せ、コミュニケーションを大切にしてもらうため、との理由です。
動画撮影用のスペース
カフェスペース
取材でも利用したカフェスペースは、広々とした開放感のあるオシャレな空間。カフェスペースからも窓の外に緑を臨めます。
カフェスペースの窓際にあるファミレス席は、ミーティングにも使えます。
成島氏のオフィス観「オフィスは会社の文化・価値観を共有できる”教会”のような場」
明るくおしゃれな雰囲気のオフィスですが、リニューアル前は「THE・昭和のオフィス」だったのだそう。成島氏のオフィスへの考えについてお聞きしました。
雑然としたオフィスからクリエイティブなオフィスへ
セルシス社より、現オフィスのリニューアル前のお写真をご提供いただきました。
雰囲気が様変わりしたことが写真から伺えます。以前までのオフィスについて、成島氏は「技術会社の側面が強かったこともあり、ボロボロのオフィスでストイックにやるのがかっこいいと思っていました」と振り返ります。
しかし、時代が変わり、「クリエイティブなサービスを提供している会社のオフィスは、クリエイティブであるべき」という感覚を持つ世代が増加。「クリエイティブなオフィスにリニューアルしたい」という想いをあたため続け、4年ほど前に改装に至りました。
壁はできるだけ作らない。風通しの良いオフィス
リニューアル前のオフィスは、部署ごとにパーテーションがあり、全体を見通しづらい作りでした。リニューアルでは、「壁をできるだけ作らない」「気配を感じられる空間」を意識。窓や吹き抜けガラスのブラインドは、朝日が厳しい時間帯以外は全開にされているそうです。
20人~30人規模から、今では150人~200人規模にまで急成長しました。人数的にはまだまだ大企業レベルではありませんが、急に増えることで組織が縦割りになり、大企業病みたいな状況に陥ることが怖かったんです。そこで、風通しを良くして情報も共有しやすいオフィスを意識しました
社員からは金魚鉢、ライオンの檻と呼ばれている社長室です(笑)
社員が愛着を持てるオフィスに
デザインのディレクションは成島氏が手掛けましたが、1人で決めるのではなく、社内から10人ほどの有志も募りました。成島氏の決めた方向性に沿いながら、細かいところはリニューアルプロジェクトメンバーで決めていったのだそうです。
みんなにオフィスに愛着を持ってもらいたかったんです。愛着があれば、使い方もおのずと変わってくるだろうと思ったんですね。扉の開閉1つ取っても、自分が関わったオフィスであれば、無意識に丁寧になるのではないかなと
執務スペースに並んでいるデスクチェアには、こんなエピソードも。
プロジェクトメンバーで、椅子を見にショールームに行ったんです。そこでメンバーが『これがいいです』と言った椅子が、メーカーさん曰く社長用で。でも、エンジニアにとってはいい椅子に座ることがいい仕事に繋がりますから、全席この椅子を入れたんです。椅子代だけでかなりのコストでしたね(笑)
オフィスは優秀な人材を採用するためのコンテンツ
リニューアル後、社員から「社員を大切にしてもらっている実感がある」という言葉が寄せられたと語る成島氏。
やはり人がすべての会社ですから、会社から大事にしてもらっていると思ってもらえるのは重要なこと。家族に『こういうオフィスで働いているんだ』と言えるオフィスになったことで、帰属意識も高まったのではないかと思います
――オフィスを見て、「ここで仕事がしたいです」と言う採用候補者も増えているのだそうですね。
カフェスペースは特に弊社のキラーコンテンツですね。冷蔵庫にはビールがパンパンに入れられていて、終業後はお酒を飲みながらコミュニケーションを取っていいことにしています。出社時のコミュニケーションが増えた気がしますね
人は宝。働きやすい環境・制度を整え、ここからグローバルへの展開を加速させたい
エンジニアはあまり会話をしない人も多く、出社しても一言も発さずに帰ることがあります。在宅でも出社でも仕事のスタイルはどちらでもいいのですが、出社してきたときのコミュニケーションを促進できるようなことを、今後はもっと考えたいですね。それが仕組みなのか器なのかはまだわからないのですが
ITにハードルを感じない社員が多いため、テレワークでも十分に仕事が回るセルシス社。そんな今の状況において、オフィスの意味は「会社のよりどころ」だと成島氏は述べます。
究極、オフィスをなくしても仕事は成り立ちます。弊社の場合、短期間ならオフィスがなくても何の問題もないでしょう。今、弊社では従業員の大半がリモートワークで勤務しています。そんななか、なぜオフィスを残すのか。オフィスは仕事をする場でもありますが、テレワークが可能となった現代においては、会社の中心地だと思うんですね。会社は宗教ではありませんが、オフィスは“教会”のような場ではないかと思っているんですよ
――”教会”というと?
ふだんはバラバラでも会社の文化やカルチャーなど、根幹部分を同じくする人が集う場所ですね。社長が言うとどうしても嘘くさくなってしまうんですが、人は会社の宝であり、社員が気持ちよく働きやすい環境や制度を整えることに力を入れていくことが、会社の成長に繋がると思っています。今はお客様の8割以上が海外の方で、社員の2割弱は日本国籍以外の人です。このオフィスから、もっとグローバルにサービスを広げていきたいですね
新宿エリアにオフィスを構え続ける理由について、「創業の地に近く、初心を忘れたくないという想いもあります」と説明した成島氏。初心を大切にしつつも、今の価値観に合わせてアップデートされたオフィスから、”クリエイションで夢中を”国内外に広げていきます。