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オフィスのアスベスト対策大全!事前のリスク回避の方法も解説!
オフィス選びに際して、社員の健康を害するような環境でないかは選定の最重要ポイントの一つです。周辺の環境もさることながら、普段勤務するオフィス自体にリスクがあるケースも。
その代表的なものがアスベストです。アスベストは2006年以降、その危険性から使用が全面的に禁止されてはいるものの、それ以前に建造された物件においては未だにリスクが残っているものです。
今回はアスベストに関して、その基礎知識からオフィスにおいて注意すべき点、トラブルとなりうる点やその回避ポイントなどについて解説します。
オフィスのアスベスト対策として必要な知識を網羅していますので、ぜひご一読ください。
目次
アスベストとは?オフィスにも使われていた建築素材
アスベストは石綿( いしわた / せきめん)とも呼ばれる天然の鉱物です。厳密には石の種類などによって6種類の分別が可能ですが、主に建築素材として使用されている「アスベスト」とはクリソタイル(白石綿)と呼ばれる鉱物のことを指しています。
建築素材としてのアスベストの優位性
アスベストはその名の通り「綿」のような軽さと「石」のような硬さをあわせもった鉱物です。熱や摩擦、衝撃に強い点、丈夫で変化しにくい点、酸性からもアルカリ性からも影響を受けにくい点など、建築素材としては非常に優位性のある特徴が目立ちます。また、繊維が非常に細かいことから、吹き付け加工などにも適して活用されていました。
価格も安価で入手も容易であったことから、「奇跡の鉱物」「魔法の鉱物」などと言われ重宝されていました。
日本では、使用自体は戦前から行われていましたが戦後から特に注目され、1980年代にかけて、建築素材をはじめとし様々な用途で積極的に使われていました。
アスベストの健康被害は長い年月をかけて現れる
アスベストは建築素材を中心に、優れた性質を持つ物質ですが、その特性故に人体にも悪影響を及ぼします。
具体的には非常に繊維が細かく飛散しやすい点、かつ軽量な点から空中に飛散しやすく、呼吸を通して人体に吸収されやすい性質があります。
その上、吸収されたアスベストの一部はその変異のしにくさから、そのまま肺にとどまり続けます。その細かい繊維で肺に細かい傷を付けながらずっと体内にとどまることから、自覚症状がないままに少しずつ蓄積されていき、10年から長いものでは40、50年といった長いスパンをかけながら潜伏し、健康被害が発生するケースが見られています。
特に、中皮腫、肺がん、石綿肺、びまん性胸膜肥厚に関する健康被害はアスベストとの関連性が認めれられた場合国から給付金の支給対象となるような症状ですが、中には致死性のあるものや、現在有効な治療方法がなく在宅酸素療法などで症状を緩和しながら付き合っていくほかないような事象も存在します。
健康被害が出やすいのは、やはり建築素材として使用されていた事情から建設業界、次いで様々な素材として使われていたことから製造業界の従事者が大多数です。
しかし、飛散しやすい性質から製造過程で関わった事業者だけでなく、アスベストを使った建築物の居住者、利用者やアスベストが使われた製品の利用者などに健康被害が出る例も見られています。
アスベストの国内での規制は?オフィスに関わる部分は?
アスベストの人体への有害性そのものは、海外では比較的早期から認知はされていましたが、日本でアスベストの有害性が明確に認識され規制が敷かれていったのは1970年代半ば以降です。
まずは1975年、飛散しやすい吹き付けの使用比率規制(5%以上石綿が含まれる場合は禁止)が開始され、1995年その基準が1%に厳格化。さらに2004年には建材、摩擦材、接着剤等、10品目について、1%以上のアスベストを含む製品を規制しました。2006年には先述の基準が0.1%にまで厳格化し、2012年にはアスベストの製造が完全に禁止されました。そして、2020年の法改正においては、建物の解体時、アスベストの有無について事前調査を行うことが義務付けられています。
現在アスベストを含んだ素材および製品の製造、輸入、譲渡、提供、使用が禁止されており、新規で石綿を使用することは事実上不可能となっていると言えます。
オフィスに関わる部分では
・建築基準法
・宅地建物取引業法・同施行規則
・建築リサイクル法
・大気汚染防止法(解体時)
といった法律にてアスベストに関連した規制が敷かれています。
アスベストの危険度に応じた「レベル」別のオフィスでの利用用途
アスベストは人体に有害な影響を与えうる物質ですが、そのアスベストの危険度は「レベル」という指標で3段階で表されています。この「危険度」とは、具体的には「飛散しやすさ」のことを指しており、飛散しやすい危険度の高い順にレベル1からレベル3へ並んでいます。
それぞれのレベルの基準と、該当する素材の事例、オフィスビルにおいて注意しなければならないポイントなどを説明していきます。
レベル1:「著しく発じん量の多い製品」
レベル1に分類されるのは、セメントなどとアスベストが混合された「吹き付け材」をはじめとする素材です。
そもそもの素材の中でのアスベストの濃度に加えて素材として露出しており、何もしていなくても経年劣化や少しの振動でも剥がれて飛散する可能性が高く、危険度の高い物質であると言えます。
アスベストが一般的に使用されるようになった1950年代から危険性が明確に認識されるようになった1970年代までの間に、オフィスビルをはじめとする鉄筋コンクリートのビルなどに積極的に用いられていた素材であり、該当する時期に建築されたビルの場合、調査や対策の有無が非常に重要であると言えるでしょう。
レベル2:「比重が小さく、発じんしやすい製品」
レベル2に分類されるのは、耐火被覆材、断熱材、保温材などにアスベストが含有されているような素材です。
主には「貼り付け材」などと呼ばれる素材であり、施工部分に直接貼り付けられたうえでシートが巻かれているなど、レベル1の素材と比べるとむき出しになっているわけでもなく、そもそも飛散もしにくい性質もあります。
とはいえ、ちょっとした破損で飛散する性質があることから危険性は十分に高く、対策が求められている素材でもあります。
レベル1と同様、該当時期に建築されたオフィスビルにも多用されています。
レベル3:「発じん性の比較的低い製品」
レベル3には上記の素材を除いた、アスベストが含まれた様々な建築素材全般を指します。具体的には壁・天井などの内装材、外壁などの外装材、床材、耐火間仕切り、屋根材、煙突材などの幅広い用途で使われている成形板などがこれにあたります。
アスベストが含まれているものの、密度が高く固められていることからも通常の使用においては飛散するリスクは低いと言えます。
しかし、アスベストが含まれていることには変わりがなく、災害による倒壊や建物の解体にともなて飛散する可能性はあるため、無視することはできません。
レベル1、レベル2以上に一般の住宅にまで幅広く使われている素材であり、アスベストの使用が規制されるまでの間に建築されたオフィスビルにおいても多く使われていることが予想されます。
アスベストの対策の3つの方法
オフィスにアスベストが使われていたとすると(とりわけレベル1、レベル2の部分において使われていたとすると)それを放置することはオフィスで働く従業員の長期的な健康に影響を及ぼしうるものであり、放置することはできません。
そのオフィスを解約し、別のオフィスを探すといった選択肢も考えられますが、既存の契約は維持する前提であるとするならば、アスベストの対策の有無の確認は必須です。
具体的にアスベストの対策として挙げられるのは「除去」「封じ込め」「囲い込み」の3つの方法です。
①除去
除去はそもそもアスベストが含まれている部分を完全に取り除き、別の素材と入れ替える工事です。言うまでもなく、元凶を取り除くことにより今後一切のアスベスト飛散のリスクがなくなるため、最も効果の高い対策であると言えます。
しかし、アスベストが含まれている部分を一度取り出し、全く別の素材を入れるという工程を挟むため、工期が長くかかり、またアスベストが含まれる部分が多い場合には費用も莫大なものになる点がデメリットとして挙げられます。
ただし、2020年の法改正により建物を取り壊す際には必ずアスベストの調査を行い、除去の対応をすることが義務付けられています。つまり最終的にはアスベストを使用しているビルには「除去」の対応が必須と言えます。
ビルをこの先数十年単位で取り壊さずに使用するのであれば、一時的にコストを抑える以下の方法も有効ではありますが、最終的なコストは上がることになる可能性が高いです。
②封じ込め
封じ込めとは建物の中にあるアスベストが含まれる部分に上から溶剤を吹き付けることにより固め、アスベストの飛散を防止する方法です。
アスベストの健康被害は、細かい粒子が飛散し、呼吸を通して人体に吸収されてしまうことから起きるため、吹き固めることにより飛散を防止することは効果的な対策です。
上から吹き付けるだけなので、除去するような対応と比較すると工期が短く、予算も抑えられる傾向にあります。
ただし、アスベストそのものは建物内に残るため、完璧な対策であるとはいえません。また、最終的には建物を解体する際に除去を行う必要があることからも、トータルでかかるコストを考えると高くつく可能性が高いです。
③囲い込み
囲い込みとは、建物内のアスベストが露出している部分の上からアスベストを含まない素材で囲い込むような形でアスベストの飛散を防ぐような方法です。
封じ込めと考え方そのものは似ていますが、溶剤を吹き付けるのではなく、物理的に別の素材で囲い込みを行う点が差として挙げられます。
囲い込みの場合も封じ込めと同様、従来の建築物に根本的に手を加えるのではなくあとから加工する形のため、費用面・工期面でコストが少ないことが魅力として挙げられます。
一方、封じ込めと同様、アスベスト自体は残っているため上から加工したアスベストを含まない素材部分が離れることにより、再びアスベストが露出してしまうようなリスクも残っています。加えて、最終的には解体時に除去の費用が最終的にはかかります。
現在のオフィス・入居検討中のオフィスのアスベスト対策の確認をするには?
現在のオフィスや入居を検討しているオフィスがアスベスト対策をしているのか、もしくは対策をする必要がないことが明らかであることは、社員の長期的な健康を守る上で重要なポイントとなってきます。
実際のところ、調査の要否に関しては物件が建築された時期により大まかに推定は可能であると同時に、調査・対策が行われたかどうかも容易に判別が可能です。
建築時期によって、調査の要否は検討をつけられる
まず、アスベストの建築資材への使用は、その時々の世の中の状況を反映しながら徐々に厳しくなってきているため、建物がいつ建てられたのかを確認することによって、アスベストの調査を行う必要があるかどうかの判断が可能になってきます。
・2006年以降の建築である場合:問題にする必要がありません。2006年にはアスベストが含まれる資材を用いることが実質上完全に不可能になっているため、これ以降に建築された建物に人体に有害な恐れのある範囲でのアスベストが含まれている可能性はほぼありません。
・1990年半ば以降の建築である場合:アスベストの確認は不要である可能性が比較的高いです。同時期の法改正においては1%以上のアスベストを含む吹付が禁止されており、それだけアスベストのリスクが広く世の中に認知されている段階でもあるため、この時期に潮流に逆行してアスベストをあえて使っている可能性はそれほど高くないとも考えられます。
ただし、アスベストの使用が完全に禁止されていたわけではない点には注意が必要です。
・1970年~1990年前半くらいまでの場合:アスベストが便利な物質として、またその危険性が広く認知されてもおらず、積極的に用いられていた時期です。実際国土交通省が発表しているデータによるとこの時期がアスベストの使用のピークであるとも言われています。
含まれている割合を1%以内に制限されている時期とはいえ、アスベスト自体が含まれている可能性は十分にあるため、調査・対策のニーズが高いと言えるでしょう。とりわけ、鉄筋コンクリート造の建物において、使用されている可能性が比較的高いようです。
アスベストの調査・対策は必ず記録が残される
物件にアスベストの調査・対策が必要な可能性があった場合ですが、そもそもそういった調査が行われているのかは記録を見ることで簡単に確認することが可能です。
なぜならば、こういった調査や対策を行ったかに関しては「重要事項説明」として物件を仲介した仲介会社が借主に説明しなければならない事項として指定されているからです。
それゆえ、その点の説明については調査がなされている場合必ず口頭での説明が行われた上で、重要事項説明書の中にも記載がなされています。仮に、契約時のその点の説明の有無を覚えていなかったとしても契約時に説明される重要事項説明書を見直すことにより、その有無を確認することができます。
ただし、2021年現在、アスベストの調査が義務付けられているのは「解体時」であり、通常の物件を運用している中では義務付けられているわけではないので注意が必要です。
オフィスのアスベストの調査・対策の費用相場は?誰が負担する?
築年数が経過している物件の場合、建物にアスベストが使われている可能性はあります。そういったオフィス物件が賃貸契約で貸し出される場合、アスベストの有無の調査が行われているのか、調査の結果、アスベストが含まれていることが判明した場合、それに適切に対処したか、といった点は入居を検討している側にとって重要な問題です。
そこで、アスベストの調査や対策の費用、およびその費用を誰が負担するのかについて解説していきます。
アスベストの調査費用
アスベストの調査を行うための費用には大きく分けると2つの項目があり、総額では合計10~15万円程度の予算がかかることが一般的です。
①事前調査
建物の図面を確認したり、実際に現地を確認することにより、アスベストの有無の目安を判断する調査です。
設計図から建材を確認することでその材料にアスベストが含まれているかどうかは確実ではありませんが、おおよその目途をつけることは可能です。
その上で、実際に建築物を目視で確認することにより、実際に使われている素材の中にアスベストが含まれていないかを調べることで、具体的な調査が必要な部分を詳しく絞り込みを行います。
図面調査、実地調査それぞれが2~3万円程度の費用が発生する調査です。この調査には十分な知見を持った専門の機関が臨みますが、それぞれによっても費用感が異なるため、コストを気にするようであれば事前に複数から見積を取るような形で比較検討しても良いかもしれません。
②サンプリング調査
事前調査の結果、調査の必要があると判断された部分について、具体的な成分分析を行う調査です。
含まれていると疑いのある部分について、実際に成分の分析を行いアスベストが含まれているかどうか(定性分析)と、含まれているとすればどの程度の割合なのか(定量分析)に分かれます。
これらの調査を経ることで、実際にアスベストが含まれているのかが明らかになり、含まれているとすると、具体的な対策が必要になってきます。
これらの一連の調査は5~10万円程度かかるのが一般的です。
なお、建物にアスベストが含まれているかどうか、それに対し適切な対策が施されているかは国民の健康に直結する部分であり、当該調査に関しては国や自治体から補助金を受け取れるケースがあります。
アスベスト対策の費用相場
国土交通省が公表しているアスベスト除去に費用の相場は以下の通りです。
処理面積 | 1㎡あたりの金額 |
300㎡以下 | 20,000円~85,000円 |
300~1,000㎡ | 15,000円~45,000円 |
1,000㎡以上 | 10,000円~30,000円 |
には処理面積が少ないほどに面積当たりの処理費用は高くなっていきますが、国土交通省が公表している面積の中でも大幅な開きがあることがわかります。
業者によって、もしくは対策が必要な部分の詳細によっても異なってくる部分なので、コストを気にするようであれば複数の業者に依頼内容を説明し相見積もりを取るなどの対策を講じることで納得感のいく見積の取得が可能な場合もあります。
封じ込めの場合は以下のような価格表を公表している業者があります。
800m²以上 | 8,000円/m²〜 |
200m²以上 | 10,000円/m²〜 |
20m²以上 | 23,150円/m²〜 |
株式会社ウイズユー(http://www.withyou8.com/asbestos05.html)
囲い込みに関しても、封じ込めと同様除去に比べると比較的安価に着手はできるものの、先述の通り最終的には除去が必要となるため、トータルで考慮すると最初から除去を選択するのが合理的かもしれません。
また、調査と同様アスベストの対策においても、国民の健康と生命を守る重要なポイントであるため、必要に応じて補助金を申請することが可能なケースもあります。
調査・対策費用は「オーナー」の負担
アスベストの調査および対策の費用は物件のオーナーの負担で行われます。賃貸契約における入居者が調査や対策の費用を負担するケースは基本的にはありません。
テナントで入居している側、もしくは入居を検討している側にとって重要なポイントとしては、対象の物件がアスベストを含んでいる可能性がある物件であり、その調査・対策が行われていない場合、オーナーが適切な対応を取るかどうかです。
オーナーの中には、その手間や費用を惜しんで調査を行わない、適切な対策を行わないといった措置が取られる可能性もないとは言えません。
そういったケースに直面した際は、対策を行うよう強く要請するか、契約そのものを考えるかといった対応を考える必要がでてきます。
売買契約時、アスベストの調査は必須となる
「誰が調査・対策をするのか」が問題になりうるのはテナント契約ではなくオーナーが変わる売買契約においてです。
なぜなら、
・不動産鑑定評価においてアスベストのような有害物質が含まれているかが一つの評価項目である
・不動産投資におけるデューデリジェンス(投資判断のための調査)の項目の一つとしてリスク評価においてアスベストを含む建材の有無を明示する必要がある
・取引時の重要事項説明としてアスベストの調査および対策の有無が義務付けられている
といった理由があります。
収益性を目的とした物件の場合、アスベストの有無、そしてその対策の有無はその後の賃貸契約に大きな影響を及ぼす、非常に重要な事項です。
ただし、アスベストの調査・対策を売主、買主のどちらが行うかは明確な決まりはなく、両社間での交渉の問題となります。
とはいえ、仮に売主が調査・対策を行っておらず、売買契約にあたってもその意思がなかった場合、買主はアスベストが「含まれている」と想定した上でその対策費用を十分に想定した価格での減額交渉を行うか、もしくは買主側で調査を行うものの、それを減額交渉の材料とするようなケースもあります。
いずれにせよ、売主の視点としては、買主に安心して購入を検討してもらうと同時に、自身の保有している不動産を少しでも高額で売却する目的を達成する意味においても事前に調査、および必要な対策を講じることが求められます。
まとめ
アスベストに関してオフィスで問題になりうる点を中心に総合的に解説を加えました。現在は使用が全面禁止されているアスベストですが、物件の建築時期や、所有しているオーナーの属性によってはこれから契約を行う物件においても無視できるポイントではありません。
今回説明したポイントも参考にしながら、事前にリスクを排除できるよう必要な対策を取ってみてください。とりわけ、事前にオーナーとしっかりと繋がりをつくることはアスベスト対策にとどまらないトラブル回避に繋がります。