- その他
-
抵当権のついたオフィスは避けるべき?リスク回避の考え方を解説!
賃貸オフィスにテナントで入居する中で、起きる可能性は基本的には低いですが念頭に入れておかなければならないリスクとして「抵当権の実行」が挙げられます。
抵当権は物件のオーナーに対して実行される権利ですが、もしも実行されてしまった場合は最悪のケースでは入居者も強制退去となってしまいます。
今回は抵当権について、そもそもの性質や実行された場合入居者に生じるリスク、その回避の方法などを紹介します。
オフィスの運用においてトラブルを回避する基本的な考え方全般にも応用できるため、ぜひご一読下さい。
目次
抵当権とは?不動産に設定された担保
抵当権とは相手に貸した資金の担保として不動産に対して設定する権利のことです。借り手がお金を返せなくなってしまった場合でも、抵当権に基づいてその不動産を売却することで現金化し、貸し倒れが起きないように設定されています。
その不動産自体の建築や購入の資金の貸し出しに対して抵当権が設定されるケースと、別の用途の借り入れを行う際に借り手が所有している不動産に抵当権を設定するケースがあります。
抵当権は登記の順番で優先順位がつく
抵当権はその不動産の情報として登記することにより第三者にも有効な権利として主張できるようになります。
また、最初につけられた抵当権(第一抵当権といいます)分の金額を差し引いてなお不動産に資産価値が認められる場合、さらに次の金融機関が資金の貸し出しにあたり抵当権をつけることも可能です(第二抵当権、以下降順)。
この抵当権の優先順位は登記した順番に評価されます。設定できる抵当権の順位には理論上の上限はありませんが、現実的には抵当権を設定した順番に優先的に債権を回収できるため、後ろの順番で抵当権をつけても回収不能リスクは上がって行きます。
(参考)根抵当権
抵当権に関連する権利として「根抵当」といったものも挙げられます。根抵当も不動産を担保とする抵当権の一種ですが、債権額が決まっている通常の抵当権と異なり、設定した抵当権の中で限度額を決めることで、その範囲内で継続的な貸借の取引を行います。
借り手が事業者の場合、事業者は金融機関からたびたび資金の借り入れを行うことも想定されますが、そのたびに抵当権を設定しているのも非効率です。
そのため、一度の「根抵当」の中で上限を定め、その範囲内で取引を行うことで円滑なやり取りが期待できます。
抵当権が実行された不動産は「任意売却」か「競売」で売られる
抵当権のついている物件は、オーナーが何らかの理由で債務不履行となってしまった場合に第三者に所有権が移転するリスクがあります。
この所有権の移転の仕方ですが「任意売却」と「競売」の2パターンが挙げられるため、それぞれ解説します。
オーナーの視点から考えると任意売却がメリットが大きく、望ましいとされます。
任意売却
任意売却とは、その名の通り債務者(オーナー)の意思で物件を任意に売却し、その対価をもって債務を弁済する形の手続きです。
任意売却の場合、市場の適正価格と同等の価格で取引できるため手元に残る金額も多く、債務を比較的大きく減らせることが期待できます。
また、任意での売却に成功した場合は債権者との協議によっては残債の弁済も分割できるケースがあります。
物件そのものに市場の一定のニーズがあり、状況が許すようであれば任意売却が望まれます。
次の項目で詳しく説明しますが、入居者の視点からしても、任意売却された場合の方が負担は少ない可能性が高いです。
競売(けいばい)
競売とは、裁判所を通じて物件を強制的に売却し、その資金を債権者の弁済に充てる手続きのことを指します。
競売においてはオーナーの意思は一切反映されることなく売却が行われます。売却される価格も市場の6~7割程度と、任意売却の場合と比較しても相当に安い価格しかつかない可能性が高い手続きです。
従って、物件を売却した後も残債が大きく残る可能性が比較的高く、さらにその残債は原則として一括返済を求められます。
また、物件が競売にかけられた旨は一般に公になるため、オーナーの信用問題に関わるリスクもあります。
オフィスビルの抵当権が実行された場合の入居者のリスク
抵当権が実行された場合、物件のオーナーに対してはどのようなデメリットがあるのか、任意売却の場合と競売の場合で比較しました。
そのビルの入居者にとっては実際にどのようなリスクがあるのかを挙げていきます。なお、オーナーの場合同様、任意売却と競売では入居者が受けるリスクの大きさも異なる場合が大半です。
賃借権と抵当権の関係
賃借権と抵当権のどちらが優先されるかは、設定された順番によっても異なります。
賃借権を設定した建物に後から抵当権がつけられた場合、抵当権に実行において任意売却がとられようと競売がとられようと、賃借権は抵当権に対抗することができます。
すなわち新たな物件のオーナーに対してテナント入居者は当然に賃借権を主張することができます。また、敷金の設定についても以前のオーナーから引き継がれ、新たに用意する必要はありません。
一方、抵当権が設定されている物件にあとから賃借権を得た場合、抵当権の実行において賃借権を主張できるかは、その物件の売却のされ方が任意売却か競売かによって結論が異なります。
すなわち、任意売却の場合は新しいオーナーに対して賃借権を主張することができますが、競売の場合は当然には主張することが出来ず、双方合意の元で新たに契約を結びなおす必要があるだけでなく、新しいオーナーから立ち退きの要望があった場合、6ヵ月以内に退去しなければなりません。
上記の前提のもとに、抵当権が実行された場合にどんなリスクがあるのかを見ていきます。
急なオーナーチェンジのリスク
任意売却にせよ競売にせよオーナーが変わった場合、競売で強制退去となるケースを除いて賃貸契約そのものは継続できますが、オーナーが変わることにより物件の管理の方針も変わることは想定されます。
とりわけ、賃貸オフィスは入居者側で何らかの施工を行った上で利用するケースも少なくありませんが、実際にどの程度施工を許可するかはオーナーの方針によって異なる場合があります。
今までのオーナーでは認められていたような施工を追加で行おうとした際に、許可が出ずに実行できないといったリスクも考えられます。
敷金が返還されないリスク
抵当権が賃借権よりも先につけられていて、かつ競売にかけられてしまった場合、以前のオーナーに対して収めた敷金は新たなオーナーには引き継がれません。
以前のオーナーに対して法的には敷金返還請求が行えますが、実際には所有している物件が競売にかかっている時点で支払い能力がないケースも十分に想定されます。
敷金を新しい貸主に再度収めなければならないリスク
抵当権が先についているケースで競売によってオーナーが変わった場合、賃借権を継続できる場合であっても、新しいオーナーと賃貸借契約を結びなおす必要があります。
この時、新しいオーナーにも改めて敷金を支払わなければなりません。一方で、元々の賃貸契約は解消されているため以前のオーナーには敷金返還請求を主張できますが、先述の事情で支払いができない可能性もあり、実質二重払いとなるリスクを抱えています。
強制退去のリスク
敷金が問題になるのは競売によるオーナーチェンジが行われたケースで、そのまま賃借権を主張できるケースなので、考えようによっては運のいいケースと言えるかもしれません。
競売で新しいオーナーの元に渡った物件の場合、抵当権よりも後についた賃借権を有しているテナント入居者は新オーナーの意向によっては退去せざるを得ません。
この場合、移転先のオフィスの選定や原状回復工事など引き渡しに必要な期間として6か月間の猶予が行われるのが基本ですが、6ヵ月と言うと自主的にオフィスを解約し、移転するのに十分な準備期間を持てるというスケジュールではありません。
意図しないタイミングで強制的に退去となるとスケジュール管理が難しいケースもでてくるため、万が一そういった事態に陥った場合、早めに必要な事項を整理しながら動いていく必要があります。
多くのオフィスビルには抵当権がついている
抵当権が実行された際には大きなリスクがあります。こういったリスクを避けるにあたっては、「抵当権のついていないオフィス」を探すことが一つの解決策として考えられます。
しかし、残念ながら多くのオフィスビルには抵当権がついており、抵当権がない建物を探すとなると選択肢が大きく狭まってしまいます。
オフィス建設・購入時に融資を受け、抵当権が設定される
オフィスビルの建築、もしくは購入にはエリアやオフィスビルの規模によっても大きく変わってきますが安くても数千万円、高額になる場合は数十億、数百億といった単位が発生するケースもあります。
例えば、現在日本一高いビルであるあべのハルカスの建設費用は760億円、オフィス棟を含む総合的な複合施設である東京ミッドタウンに至っては建物部分に3700億円の予算がかかっています。
上記は大規模な金額がかかっている事例ではありますが、いずれにせよ一定以上の費用が要することには変わりがなく、ある程度資本力のあるオーナーであっても一括で支払うことは難しい場合も多々あります。
そういったケースにおいては金融機関から融資を受けた上で物件を建築、もしくは中古で購入し、月々の賃料の中から返済を行っていくのが基本です。
こういった場合、思ったように賃料収入が得られないなどの事情で返済が不能となるケースに備え、融資先が物件自体に抵当権を設定するのが基本です。
他事業の資金調達のための融資に、不動産で抵当権をつける
また、抵当権をつけずに不動産を建築・購入できた場合や、融資の返済に伴い不動産の抵当権が一度消滅した場合であっても、オーナーの意思で新たな資金調達の際に抵当権が設定されるケースがあります。
すなわち、「抵当権のついていない不動産」は資産価値として高いため、不動産を担保として抵当権をつけさせることによって新たに多額の資金調達を行える可能性があります。
そういった事情からオーナーが新たに事業投資を行いたい場合などに所有している物件に新たな抵当権をつけるケースも珍しくありません。
なお、先述の通り先に賃借権を取得(入居)していた場合は、新たに取得された抵当権には対抗することができ、競売となった場合でも強制退去を強いられることはありません。
とはいえ、物件が競売にかかってオーナーチェンジが起きた場合、入居者側にかかる負担も大きいため新たな抵当権の有無についても注意を払っておくに越したことはありません。
オフィスの抵当権などのリスクの調べ方
抵当権が実行された場合、オフィスのテナント入居者にとっても不利益が起こりえますが、実際問題、抵当権のついていないオフィスを探すというのは簡単ではなく、選択肢が狭まってしまいます。
では、具体的にどのような部分に着目し、どのような対応を取ることでリスクを軽減できるのかを解説していきます。
契約時に説明を求める
ここまでの解説を参考にすると、抵当権の有無やその内容、債権者などの情報について予め確認できるならばすることが望ましいことをご理解いただけたかと思います。
抵当権の設定についてはオフィスの場合でも一般的な居住用の住宅と同様、契約時の重要事項説明として必ずオーナー、もしくは仲介業者から説明を受けるべき事項です。
ただし、こういった事項については説明者側からは積極的に詳細な説明がなされないケースも考えられるため、借り手側からしっかりと説明を求める意思を見せていくことが重要です。
登記簿謄本を取り、抵当権の有無について調べる
抵当権の確認についてはオーナーや管理会社に契約時などの聞きやすいタイミングで直接聞くことが最も手っ取り早いですが、聞くタイミングを逃してしまったとしても不動産の登記簿謄本には抵当権についての情報が必ず記載されています。
登記簿謄本は法務局で取得できるほか、PDFファイルで足りるようであれば(抵当権の確認であればPDFで十分です)オンラン上で少額のコストで取得することも可能です。
抵当権者を調べる
抵当権がついていないケースはそもそもそれほど期待できるものではありません。そうなってくると重要なのはどういった抵当権がついているかです。
例えば、抵当権者が大きな金融機関なのであれば、オーナーに十分な信用があり返済の見込みがあると判断して融資が行われていることが予測されます。当然、オーナー側で予期しない事情によって資金繰りが上手く行かなくなるといったケースも考えられるため絶対的な判断指標ではありませんが、抵当権者を調べることによっても物件やオーナーの社会的な信用度を予測することが可能です。
オーナーの与信情報について調べる
オーナー側の現在の支払能力や信用情報などを確認するにあたっては、専門の業者に与信の調査を依頼することも可能です。オーナーの与信情報が優良であれば少なくとも当面抵当権でトラブルになる可能性は低いことが期待できます。
まとめ
オフィスを契約するにあたって注意すべき抵当権についてまとめました。抵当権は入居より前に設定されているか、入居後に設定されたかによっても扱いが異なってきますが、最も悪いケースでは競売にかけられた後、強制的に退去せざるをえないケースも出てきます。
しかし、一方で抵当権がついていないオフィスを探すのも簡単ではなく、現実的な対策としては様々な情報から「抵当権が実行されるリスクが低いオフィス」を探すことが挙げられます。不動産の専門家に相談するなど、登記情報を確認するようにしましょう。