- オフィスインタビュー
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ハイブリッドワークを前提としたオフィスの見直しを実施。インテージグループのフロアリニューアル
2017年、「リモートワークを導入しようとしている会社」としてIBASHOの特集記事にご登場いただいたインテージ・ホールディングス(以下、インテージグループ)。リモートワークの導入、2020年の緊急事態宣言期間中のフルリモートワークの経験を経てオフィスのあり方を再検討し、一部フロアを大幅にリニューアルしました。グループ人事企画部 部長の松尾重義さんにお話を伺いました。
インテージホールディングス ディレクター グループ人事企画部 部長
NTTデータ経営研究所、シグマクシス、クックパッド等を経て2017年より現職。インテージグループでは18年にHRチャレンジ大賞奨励賞、HRアワード入賞、2021年にHRテクノロジー大賞奨励賞を受賞している。2011年より早稲田大学大学院非常勤講師
目次
「リモートが選べる」から「リモートせざるを得ない」の経験を経て、オフィスの意義に今一度向き合った
卯岡
まずはインテージグループさんの事業内容についてお教えください。
松尾さん
市場調査とシステム開発を中心に手掛けている企業グループです。国内外に30社ほどのグループ会社があり、社員数はおよそ3000名です。市場調査は、消費財やヘルスケア分野がメイン。システム開発の特徴は、いわゆるシステムインテグレーションだけでなく、データをどう活かすかを起点にソリューションを開発していることですね。
卯岡
インテージグループさんは、2017年にIBASHOが特集したリモートワーク導入企業の記事にご登場いただいていますね。
松尾さん
はい。フレックスタイムのコアタイムの撤廃、申請不要のリモートワークの導入を決めたのがそのころです。社員のライフステージはさまざまですし、一人ひとりの価値観も異なるなか、全員に力を出し切ってもらうには、それぞれのベストを自分たちで考えるほうがいいだろうという思いがありました。
卯岡
その後、2020年にコロナ禍がやってきました。先んじてリモートワークに対応していたことによるメリットはありましたか?
松尾さん
ネットワークの強化などはありましたが、ITインフラのスタンバイができていたことです。ただ、コロナ前の「時と場合に応じて勤務スタイルを選べる」感覚と、コロナ禍初期の「家にいなければならない」状況とでは社員の受け止め方が大きく違っただろうと思います。2017年時点ではオフィスで仕事をする価値観が根底から覆ったわけではなく、あくまでも選択肢としてのリモートワークでした。それが急に必ずリモートワークをせざるを得ない状況に変わったわけですから、ギクシャクした部分はあったかなと思います。
松尾さん
ただ、そういった状況にルールを作って対応するのではなく、グループ社員同士でそれぞれの取り組みや気づきを定期的に共有する場を毎週オンラインで設けるようにしました。開始2、3ヵ月はリモートワークを上手くやるコツやコミュニケーションの取り方について活発に共有してくれていましたし、多くの社員が参加してくれています。
卯岡
社員同士で知見を共有していったんですね。
松尾さん
はい。頼もしいな、ありがたいなと思いました。
卯岡
そうした経験を経て、オフィスの使い方を見直されたと伺っています。コロナ禍を機にオフィスの使い方を見直したり、そもそもオフィスは必要なのかといったところに立ち返ったりした企業も出てきましたが、インテージグループさんはどのような流れを辿ってきたのでしょうか。
松尾さん
緊急事態宣言中に、業務内容によりますが、ほぼ全員が出社せずに仕事をする経験をしたことで、「家でもできる仕事は存在する」と証明されました。その事実をなかったことにして考えるのは良くないという考えがまずありました。
また、こういった変化を経験してきたからこそ、これまでのオフィスの使い方を前提にした増やす減らすといった視点ではなく、そもそものオフィスの意味を考えたい。そしてそれは、おそらく1つに決め切ること自体が難しいのではないかと考え、社員に「オフィスに求めていることは何ですか」とアンケートを取ることにしました。2020年から2022年にかけて何度かアンケートし、その結論をまとめていきながら、当グループにとってのオフィスの一つの形を具体化していった感じです。
卯岡
例えば、どのような質問をされたのでしょうか。
松尾さん
オフィスに行く理由を聞いてはみたものの、「行かない理由も聞いてほしい」という声も上がり、双方を知り、共有するところから始めましたね。「作業に集中できるから」「必要なものが周りにあるから家のほうが働きやすい」など、行かない理由についても様々な声がありました。ちなみに、こうしたアンケートはフルフレックスやリモートワークを始めたころからやっていまして、働き方を考える取り組み方としては根付いていると思います。多数決を目的としているのではなく、様々な意見をみんなで知ることを大切にしていて、ポジティブな声も、ネガティブな声も社員に共有し、一緒に考え、取り組んでいくことを重視しています。
卯岡
その結果が今、お話をお聞きしているこのフロアだということですね。場所のご説明をいただきながら、詳しくお聞かせください。
ここはグループ会社の参考になる実験場。インテージグループがリニューアルしたフロア見学ツアー
オフィスビル内の一部フロアの使い方を再考し、リニューアルしたインテージグループ。名称を「コラボレーショングリッド」としています。こだわりや狙いについて伺いました。
3つのコンセプトでフロアを全面リニューアル
卯岡
入った瞬間に、明るくて広い空間だなと思いました。
松尾さん
アンケートの声も踏まえ、3つのコンセプトに絞りました。あと意識していたのは、グループ各社のオフィスづくりの参考にできるよう、先行して試せる場づくりですね。試した結果をグループ全体に共有することも重視しています。
卯岡
3つのコンセプトについてご紹介ください。
松尾さん
まずは「目的を限定しないオフィス」ですね。一つの目的に合わせてしまうと、無駄と対立が起こってしまうので、どのような使い方でもできるよう、セミナー室や会議室を設けない設計にしました。
2つ目は「広く仲間がいることを感じられるオフィス」。ご覧になっていただければおわかりになる通り、このフロアには壁がありません。誰かが仕事をしている様子を自然と感じられるよう、一切の壁を排除しました。カウンターを用意し、コーヒーを自由に飲めるようにしているのも、実は「誰か飲みたい人はいますか?」と声を掛けやすいようにとの想いがあるんです。
▲自由にコーヒーを淹れられるカウンター
卯岡
なるほど。自分が飲むついでに、というのが声掛けのハードルを下げそうですね。
松尾さん
最後は「変わり続けるオフィス」です。これから先も、社会の状況や私たちの働き方は変わっていくかもしれず、変化に応じて対応し続けることを重視しています。
変わり続けるオフィスにするためには、大掛かりな工事や買い替え、廃棄のない環境が必要です。そこで、今回は家具のサブスクリプションサービスも一部利用しました。
▲さまざまな家具が点在しています
松尾さん
テーブルや椅子の組み合わせや配置にも決まりはなく、使い勝手の良いように自由に動かしてもらって良いとしています。
卯岡
窓が多いのも関係しているとは思いますが、床面の色合いが明るいのも雰囲気の良さに一役買っているように思います。
▲提案を受けて選んだカーペット。明るい印象です
松尾さん
これは業者さんに何パターンか提案をいただき、それを社内でアンケートして決めたものです。天井に色が反射して映ることで、より明るさを感じられるんですよね。
卯岡
今のオフィスをどうご覧になっていますか?
松尾さん
1番驚いたのは2022年1月にスケルトンになった様子を見たときでした。以前は窓を活かせておらず、ロッカーとデスクが並んでいる執務スペースだったので、こんなに明るかったのかと。
▲別フロアの様子。リニューアルしたフロアも、以前はこのような感じで使われていたのだそう
松尾さん
ちなみに私のお気に入りは窓側の線路を眺められる席です。複数の電車が一度に通る様子が見られたときには、思わずテンションが上がるんですよ。
▲松尾さんお気に入りの窓際の席
▲最高の眺めです!
▲席はこちら。ビーズクッションを利用する方もいます
卯岡
確かに眺めが良いですね!皆さんはどのように活用されているのでしょうか。
松尾さん
ミーティングのために来ている人もいれば、ソロワークで作業のために来ている人もいるし、いろいろです。リモートワークだと、どうしてもコミュニケーションを取る人が固定化してしまうので、いろいろな人が来る場に出向くことで得られる刺激もあるんじゃないかなと思っています。
自分のお気に入りの席を見つけている社員もいますね。「開放感が気に入った」とか「庭みたい」「見通しが良い」といった声も聞いています。
▲フロアには壁はなし。少しこもりたいときに使える、こんなユニークなスペースも
今後も社員一人ひとりが成長できる場の提供を
「作った側としてはいっぱい使ってほしいけれど、それよりはチームや自身のパフォーマンスの最大化に向き合ってもらった結果として、働き方の選択肢として使ってほしい」と語ってくれた松尾さん。実際、直近のオフィス出社率は4割程度なのだそうです。ただ、オフィスの要不要論やオフィスに来る、来ないの議論をするのではなく、今後もチームの成果や、一人ひとりの成長に貢献できる環境づくりを考えていきたいと想いを語ってくれました。
「会社が成長していくためには、フレキシビリティとオープンカルチャーの2つは外せません。その一つの形がこのオフィスだと思っています。今後も一人一人の声を聞きながら、全員で取り組みを進めていきたいです」と松尾さん。国内だけでも20社近くのグループ企業を有するインテージグループ。新しく設けられたこのスペースは、コラボレーションの場、実験場としても活用されていきます。