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オフィスインタビュー
vol.244 株式会社トリドールホールディングス

グローバルカンパニーとして、外食産業のイメージを変えていく。トリドールの「オフィスではないオフィス」

「オフィスじゃないオフィス」「渋谷のスクランブル交差点のようなオフィス」そんなオフィスが、今回訪れた株式会社トリドールホールディングスのオフィスです。「丸亀製麺の会社」だと聞けば、誰でもわかるのではないでしょうか。

「スタバで仕事をする自分にテンションが上がるように、このオフィスで働く自分っていいじゃんと思ってもらいたいんです」と語ってくれたのは、オフィス移転プロジェクトを担当した中村さん。

移転を機に、働く内容に応じて場所を変えるABWオフィスを導入した同社。その目的や実現のための工夫点についてもたっぷり教えていただきました。

中村 将人さん (なかむら・まさと)

総務部 マネージャー(当時) 宅地建物取引士
法科大学院修了後、法律事務所に入所しパラリーガルやオフィスマネージャーを経験。2016年に株式会社トリドール(現、株式会社トリドールホールディングス)に入社。総務部および法務部にて、株主総会や取締役会事務局、契約書審査などの法務関連業務に従事する傍ら、宅地建物取引士の知識を活かしオフィス拡張・移転を担当。「攻める総務」を標榜し、業務改善に注力し現在に至る。趣味は硬式テニスで、インストラクターとして8年の指導経験を有するも、現在はテニスから遠ざかっている。好きな言葉は、「文武両道」、「凡事徹底」。

「オフィスを作るつもりはなかった」トリドール新オフィス誕生の裏話

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卯岡

エントランスの開放感とおしゃれさにびっくりしました。おしゃれコワーキングスペースの共有スペースのような、「オフィスじゃない感」がありますね。

▲ここがエントランス、、まさにオフィスじゃない感

中村さん

ありがとうございます!実際その通りで「オフィスだけど、オフィスを作るつもりはない」が今回のテーマでした。

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卯岡

どういうことでしょう?

中村さん

外食業界のオフィスって、どんなイメージがありますか?

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卯岡

お店のポスターが飾られていたり、ロゴがあったり……でしょうか。

中村さん

そうですよね。まずは、そういった「外食業界のオフィスらしさ」を入れたくなかったんです。外食業界って、長時間労働とかブラックとか、ネガティブな印象を抱かれて求職者の方から敬遠されがちな側面があるなと思っていまして。そうした業界イメージを変えられるよう、振り切ったデザインにしたかったんです。

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卯岡

それは新オフィスになる前からの想いだったんでしょうか。

中村さん

そうですね。以前からオフィスでCM動画を流さないなど、飲食業界っぽさを出さないようにしてきました。ただ、飲食っぽさがなくてもオフィスらしいオフィスではありましたね。今は完全にフリーアドレスですが、前までは固定席でしたし。

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卯岡

オフィス作りの大まかな流れはどのように進められたのですか。

中村さん

 2017年夏に物件を探し始め、秋に契約しています。このときはまだこのビルが未完成だったため、本当にパースのイラストのような眺望が実現するのかわからない状況でした。実物を見ていないので「本当にこんなに大きな窓になるの?」など色々と不安もありましたね。

▲絵画のようなオフィスです

中村さん

物件が決まったあとは、社長と他社のオフィスやコワーキングスペースなどを見て回り、「スターバックスみたいな雰囲気がいいね」などイメージを固めていきました。2018年にコンペを実施。決定後、本格的に話を進めていったという流れです。

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卯岡

コンペに参加する企業には、どういった要望を伝えたのでしょうか。

中村さん

「完璧なフリーアドレスにしたい」「おしゃれなコワーキングスペースみたいにしたい」「ペーパーレス化したい」「飲食業界っぽくしたくない」「遊びに行く感覚で仕事ができる空間にしたい」「オフィスは作りません」などですね。しかし、挙がってきた提案の中には、オフィスっぽいなと感じるものもありました。おしゃれではあるんですが、どうしても「おしゃれなオフィス」から抜け出せていない。その中で、意図を一番理解してくださった会社に依頼しました。

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卯岡

建物が未完成の段階で入居を決めたことによるメリットはあったのでしょうか。

中村さん

ありましたね!竣工前工事と呼ばれる工事で、オフィス内の内階段を設置する・天井を抜く・オフィスビルに厨房を作るといったことをしていただけました。ビル完成後には不可能だったり、可能であってもコストがかかったりする内容だったので、タイミング的にラッキーでした。

▲19階と20階をつなぐ内階段も竣工前に工事を実施していたそう

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卯岡

新オフィスは「ABW(働く内容によって、働く時間や空間を変える)」だとお聞きしています。ABWについて教えてください。

中村さん

フリーアドレスの進化系と呼ばれるものですね。ただ仕事する場所を選ぶのではなく、自分の気分や仕事内容に応じて好みの場所で仕事ができるオフィスです。
ABWを目指した背景には、社長が以前のオフィスで感じた「雰囲気のヤバさ」があります。固定席でみんなが同じようにパソコンに向き合っている様子が異様に見えると。移動するのはお手洗いか会議室、外回りなど、用事があるときだけ。他部署のメンバーとのコミュニケーションに心理的ハードルがあるという課題は、私自身も感じていました。

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卯岡

ABWを実現するにあたっての苦労や工夫についても伺いたいです。

中村さん

いくらオフィスを作らないといっても仕事をするには電源が必要なため、そこは慎重に計画を立てましたね。エリアごとにアクティビティを明確にし、19階は集中して仕事に取り組むスペースなため、電源を多めに設置。20階は来客対応やグループディスカッションがメインのため、19階よりも少なくなっています。ノートパソコンの充電は3時間程度もちますから、それで十分だと考えたんです。
あとはWi-Fi環境ですね。どこでもストレスなくアクセスできるよう、ITチームと整備しています。


▲快適に働けるように計算されて作られてる

中村さん

大変だったのはペーパーレス化や私物の管理面ですね。身軽にどこでも仕事ができるようにするためには、固定させるものを極力減らさなければなりません。移転前に物量調査を行い、キャビネットを半減させました。誰がどこの場所でも仕事ができるよう、帰社時にはデスクの上に何もない状態にするクリーンデスクポリシーも定めています。

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卯岡

そうした変化は、社員の皆さんにも協力してもらわないといけませんよね。どうやって進めていったのでしょう。

中村さん

ペーパーレス化は、全部門の文書量を洗い出し、ファイルメーターという単位で見える化して、各部門でそれを半分にするようお願いしました。ただ、部門によって紙の要不要度合いは異なります。半減をベースにしつつ、状況を見て「ここまでに収まる量にしてください」と個別でお願いしていきましたね。減量に成功したキャビネットは鍵をかけてしまい、移転までにリバウンドしないようにもしました(笑)。あと、断捨離イベントも良かったですよ。

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卯岡

イベントですか?

中村さん

移転半年を切ったくらいから、総務と移転プロジェクトメンバーで実施したんです。お菓子とジュースを用意して、捨てに来てくれた人に「持っていっていいですよ」と。ふらっとやってきてどっさりファイルを捨てて行ってくれる社員もいましたね。
「誰かが捨ててくれるだろう、減らしてくれるだろう」という他人事では進まない。各部門ごとに目標を明確化することで自分事化し、イベント化させることで前向きに取り組める。こうしてキャビネット半減に成功したんです。

【オフィス移転事例】オフィス構築、オフィス移転プレジェクトの事例を読む

▲執務エリアにキャビネットがほとんど見られない

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卯岡

クリーンデスクポリシーについてはいかがですか?

中村さん

「帰社するときにはデスクをリセットしてね」という周知をひたすらして、残置されている私物は総務が回収し、預かるようにしました。当初は口うるさく思われたかもしれませんが、今では浸透したなと感じます。金曜日の夜は見事に何もない状態になるんですよ。コロナ禍前はドラマの撮影に使われることもあったのですが、撮影スタッフさんから感謝されました。破損や紛失の心配なく、すぐ撮影に入れますので。

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卯岡

移転後の変化はいかがでしょうか。ABWは成功だと言えますか?

中村さん

移転前に課題として認識していたコミュニケーションの取りにくさは劇的に改善しましたね。以前は何かあれば会議室を押さえ、資料を配ってかしこまって話すという感じだったのが、新オフィスではもっとカジュアルにできるようになりました。偶発的なコミュニケーションも生まれています。

▲「新しい働き方」を社員に伝えるため、ガイドブックを作成

中村さん

ABWは社員に浸透したと感じますね。移転前に作ったガイドブックの中で、設備面だけではなく「こういう風に働いてほしい」という内容を盛り込んだことも大きかったかもしれません。脱・固定電話に関して言うと、実は移転当初は「うちはどうしてもいる」といって残した部門があったんです。しかし、途中で「やっぱりうちも固定電話なしでいいです」となった。今ではすべてスマホで対応できるようになりました。

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卯岡

やっぱり固定席化に戻ってしまう…といったことはなかったんですね。では、さっそくそんなオフィスを拝見させてください!

トリドールの「オフィスじゃないオフィス」見学ツアー

話を伺った20階の会議室から内階段を降り、再び19階へ。コンセプトは「街」。19階、20階への移動を含め、周遊できるのがトリドールのオフィスの特徴です。エントランスでは、眺望とおしゃれな家具が目を惹きます。

中村さん

テーブルの大きさを活かして、図面を広げて話し合うといった使われ方もされていますね。メーカーのショールームでもお目に掛かれないビッグサイズなんですよ。

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卯岡

壁に飾ってある、こちらは?「3番館」と書かれてますね。

中村さん

創業当初に社長が作ったものですね。「3店舗くらいまで出せたらいいな」という想いで3番館と名付けたそうです。

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卯岡

こちらは?

中村さん

弊社と共創型パートナーシップ関係である株式会社TOKIOの皆さんが作ってくださったものですね。CMにも使われたものです。

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卯岡

レアなアイテムですね…!

思い思いの場所で作業ができる19階エリア

中村さん

エントランスホールを挟んで、左右に作業スペースがあります。壁は作らず、グリーンで自然な目隠しに。「おしゃれなオフィス」にならないよう、家具の配置を工夫しています。すべてが平行に整然と並んでいると、いくら家具が洗練されていてもオフィスっぽさが残ってしまうんですよ。

▲縦向きや横向き。テーブルの向きを変えることで、「オフィスらしさ」が薄まる

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卯岡

こちらは?

中村さん

クッション貸し出し用ロッカーです。椅子の材質やサイズによっては作業しづらい社員もいるため用意したものですね。ただ、材質についてはあえて硬い座面の椅子も用意しているんです。1日中居座るのではなく、動いてもらうことを想定してのことですね。長時間の作業を想定しているところには座りやすい椅子を置いていますよ。

▲私物はロッカーに。左右にあり、自分のロッカーのある側の執務スペースで働く社員が多くなりがちなのだとか


▲備品は「ステーショナリーピット」に集約。ステーショナリーピット上で作業もできる

中村さん

ゴミ捨てや文具を取りに移動する間に偶発的な出会いが生まれたり、ここで作業をする間に別の人が来て雑談が発生したりといった機会が増えています。雑談はメンタルヘルスにも良いですし、新しいアイディアが生まれるきっかけにもなる。いいことづくめだと思っています。

▲お昼寝に使えるシエスタルーム。左右に男女別で設けられています。使うときには上記のようにマグネットを寝かせて

▲お昼寝できるスペースも素敵です

中村さん

シエスタルームとは別に、体調不良のときに使える救護室も設けています。

▲救護室のレベルを超えています

▲本格的なカフェのようです!

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卯岡

社食というより、もはやおしゃれな飲食店のカウンターですね…!

▲社食はタッチパネル式。キャッシュレスのみ対応しています

中村さん

その日に隣で仕事をしている人と、お昼になって「じゃあお昼にしようか」とランチタイムに入ることも珍しくありません。ふだんから雑談を交わしておくことで、いざ仕事を一緒にすることになったときにスムーズに進められるという利点がありますね。

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卯岡

富士山が見えます。絶景ですね!

中村さん

季節や時間帯に合わせて、美しい風景を見せてくれます。関東圏以外から配属された社員は特に感激してくれていますね。

▲外にはオフィス専用テラスも。外の空気を吸える贅沢なスペースです

会議・ディスカッションに活用される20階エリア

19階をぐるりと回り、エントランスにある内階段から再び20階へ。

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卯岡

19階よりも、さらにオフィスから離れた雰囲気です。カフェやホテルみたいで素敵…!

中村さん

棚に並んでいる本は外部ではなくうちの社員がセレクトしました。右脳を刺激できるよう、ユニークな本も多くあるんですよ。

▲取材時には子どもたちの絵が飾られていました

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卯岡

子どもたちの絵、なごみますね。

中村さん

そうでしょう?20階の壁はアートゾーンとして、その時々の作品を飾っているんです。今、飾っている子どもたちの絵は、ほのぼのした気持ちにさせてくれますね。

中村さん

会議室は10室。部屋によって内装が異なります。

▲ガラス貼りの会議室。照明もオシャレです

▲会議室からも窓の外が綺麗に見えます

科学的にも立証されたオフィスへの進化を


▲20階には、会議室の他、サクッと話せるスタンディングスペースも

「代表が新オフィスの立地に渋谷を選んだのは、グローバルカンパニーを目指す弊社を後押ししてくれるエネルギーのある街だと思ったからです」と教えてくれた中村さん。1回の横断で2000人が行き交うとも言われるスクランブル交差点のように、いい意味で整然としていない場所をオフィスに表したいと考えたのだそうです。

中村さんは、会社の発展だけではなく、自身の仕事である総務のイメージも変えていきたいと語ります。

中村さん

総務って、雑用のイメージが強く、軽く見られがちなところがあるんですよね。私はそのイメージを変える「攻める総務」でいたいんです。例えば、頼まれて電球を変えるという雑用では会社に寄与している感覚が得られませんが、「この電球をLEDにすれば節電になるし、交換頻度も減らせる」という仕事ができれば、コスト削減で会社に寄与したことになる。会社がより良くなる提案をする、受け身ではない仕事なんだということを社内外に発信し、伝えていきたいんです。

中村さん

このオフィスを作ったときには、まさかコロナ禍が起きてテレワークが一般化するとは思ってもいませんでした。この変化に今のオフィスがどこまで対応し切れているのかはまだ検証できていません。今後、もっと進化させていきたいですね。「おしゃれな空間ができました」で終わらせず、生産性・快適性・社員の健康・ウェルビーイングに関して科学的、医学的に立証されたオフィスにしたいです。

個人的には、温度・光・音の「ゾーニング」を追求したいと語ってくれた中村さん。外食産業らしからぬオフィスのさらなる発展に向け、攻める総務の挑戦は続きます。

取材先

株式会社トリドールホールディングス

https://www.toridoll.com/ 公式サイト

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