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オフィスの保証金に関する論点を徹底整理!相場や注意点も解説
オフィスに入居する際の大きな初期費用の一つとして「保証金」が挙げられます。オフィス契約の初期費用では発生する金額が大きいがため、どのような性質を持つ項目なのか、「敷金」や「礼金」とは異なるのかといった点で特にオフィス物件の契約に慣れていないご担当者様は混合しがちな部分でもあります。
今回はオフィスの保証金について、混同されがちな項目とも比較しながらその性質を明らかにしていきます。
また、保証金の相場や高くなりがちな物件の特徴、オフィスの保証金の設定において気を付けるべきポイントなども解説していきます。
オフィスの契約に関する初期費用全般を考えるにあたって必要な基礎知識や気を付けるべきポイントを網羅できるため、ぜひご一読下さい。
目次
オフィスの保証金とは?敷金との違いは実質的にはない
保証金とは、賃貸オフィスを契約する際必要となる初期費用の一つです。混同しやすい単語と比較しながらその特徴を説明します。
保証金は契約終了時に返還される初期費用
保証金は契約時にオーナーに対して支払う費用です。月々の賃料の支払が滞った際や、入居者の故意や過失で物件を破損させ修理費用が発生した場合などの補填としてオーナーが「預かる」といった性質を持っています。
従って、滞納等なく契約が終了した場合は退去後にオーナーより返還されます。
保証金と敷金に実質的な差はない
保証金と同じ性質を持つ初期費用として「敷金」が挙げられます。現在、両者の間に明確な区別はなく、ほぼ同義に扱われています。
正確には「保証金」は金銭消費貸借を根拠とする担保である一方、「敷金」は債務補償担保、を根拠とする債務であり、法的な扱いは異なります。ただし、保証金の元となっている「建設協力金」という考え方自体が現在ほとんど用いられていないため、両者を運用上は厳密に区別していないケースが大半で、どちらが用いられているかも商習慣の違いによる意味合いが大きいです。実質的な違いはないため敷金と保証金の両者が重複して発生することはありません。
居住用賃貸の場合、関西圏や九州の一部ではこういった性質の費用を「保証金」と呼ばれる傾向があり、その他の地域では「敷金」と呼ばれる傾向にあります。また、オフィスの契約の場合は関西圏に限らず「保証金」と呼ばれるケースが比較的多いですが、「敷金」と記載されていても事実上何か違いがあるわけではありません。
以降、実質同じものという観点から保証金(敷金)と表記します。
保証金(敷金)の返還時期は事前に確認しておくと安心
敷金がいつ返金されるのかに関しては法的に取り決めがあるわけではありません。敷金の返還時期について具体的に取り決めがあった場合はその内容が適用されます。取り決めがない場合、目安としては退去から3~6ヵ月以内に返金されるのが平均です。
事前に契約書で取り決めておくことが理想ですが、契約書にない場合は退去前に何らかの合意を取ることが、返還時期に関してトラブルを回避することに繋がります。
礼金は返却されない初期費用
保証金、もしくは敷金とセットで考えられがちな費用として「礼金」があります。礼金はオーナーに対して物件を賃貸させてもらうお礼として支払う意味合いの費用です。従って、オーナーの収入となる費用であり、借り主に返還されることはありません。
オフィスの契約においてはオーナーが大手企業などの場合礼金が設定されていないケースも少なくありませんが、個人のオーナーや中小企業が所有している自社ビルの空きスペースを貸し出している場合などは比較的礼金が設定されているケースも見られます。
オフィスの保証金(敷金)は原状回復費用と相殺される場合もある
保証金(敷金)は法的には何らかのトラブルの補填に用いられなかった場合、解約時に全額返還される性質を持つ費用です。
しかし、実際には居住用賃貸物件でも敷金が返還される際清掃費用などが差し引きとなったことが記憶にある方もいらっしゃるのではないでしょうか?
保証金(敷金)は全額返還されるのが原則ですが、一方で賃貸契約終了後、次に貸し出しを行うため元の状態に戻す(原状回復)に必要な費用について借主の負担となることが一般的でもあります。
そこで、保証金(敷金)を返還した後オーナーで建て替えた費用を別途解約した借主に請求するのはお互いに手間がかかることや、未回収となってしまうリスクもあることから原状回復にかかった費用を差し引いた分の保証金(敷金)を返還する、という形をとることも慣例として頻繁に行われています。
なお、居住用の賃貸物件の場合は、原状回復費用の中で借主負担とされる部分は借主が故意、または過失で損壊させた部分のみであり、自然な経年劣化や通常の使用の中での摩耗(通常摩耗)に関してはオーナー側の負担とされるのが慣例です。
しかし、オフィスや店舗などの事業用物件の場合、居抜き(原状回復を行わず使っていたままの状態で物件を明け渡すこと)のケースを除いては原状回復にかかる費用は経年劣化や通常摩耗も含めて借主側の負担となるのが原則です。
内装工事、特にスケルトン天井やOAフロアなど、空間自体をつくり変えるような工事を行っていた場合、原状回復にも高額な費用がかかります。
この出費を捻出した上で保証金(敷金)の返還をうけるよりも入居者側としても敷金と相殺の上で過不足を精算するほうが合理的とも考えられます。
ただし、借主側が希望したとしても原状回復費用と保証金(敷金)が相殺になるかはオーナーの意向次第となる部分が大きいのが実情です。
契約時にその点についても明確にしておくことや、特に取り決めがなければ事前に交渉した上で改めて合意を得ることが重要です。
オフィスの保証金(敷金)の相場
オフィスの保証金(敷金)の相場は物件により差がありますが賃料の3ヵ月~12ヵ月程度です。1~2ヵ月程度が相場である居住用の賃貸物件と比較して高額に設定されています。
賃貸オフィスは居住用の物件と比較して入居者の募集から入居までに時間がかかりがちです。また、内装をそのままに「夜逃げ」のような状態で退去されてしまった場合、現実的にはオーナーの側で原状回復を行う必要があります。
オフィス物件は居住用物件と異なり契約によっては内装工事などを入居者側の裁量で行うこともできるため、手を加えていた場合原状回復には費用や時間がかかります。そういったリスクが織り込まれていることもあり、オフィス物件の保証金(敷金)は相対的に高めの設定がされています。
また、オフィス物件の中でも敷金の設定には大きな開きがありますが、一般的には坪数の大きなオフィス(目安として50坪以上)や、ディベロッパーが開発したようなグレードの高いオフィスは敷金が高額に設定されている傾向にあります。
こういったオフィスは原状回復に費用がかかることから、リスクヘッジとして多めに敷金を預かっておくといった側面があります。また、人気が高いハイグレードなオフィスの場合、敷金を高額に設定しても入居希望の需要が多いため、入居者の支払能力を精査する審査のような側面でも敷金が高額に設定されています。
オフィスの保証金(敷金)では償却・敷引きに注意
オフィスの保証金(敷金)を考える際に、考慮しなければならないポイントとして償却・敷引きが挙げられます。償却・敷引きの特徴や相場、注意すべきポイントなどを説明します。
償却・敷引きは解約時に発生する「後払い」の礼金
償却・敷引きとは、解約時に本来返還される保証金・敷金の内、特約により返還されない部分のことを指します。保証金に対しては「償却」、敷金に対しては「敷引き」が対応しますが、性質としては基本的に同じです。
初期費用として入居時に支払った上で、最終的に返還されないことが予め決まっている金銭であるため、実質的には後払いの礼金のような性質を持ちます。
償却・敷引きの相場
「償却」と「敷引き」は基本的な考え方としてはほとんど同じですが、費用相場の考え方が異なります。
償却:支払った保証金の10~20%
敷引き:賃料の1~2か月分
実際にはそもそも償却・敷引きの有無も含めて不動産のオーナーの意向により設定するものなので、事前によく確認することが重要です。
償却・敷引きは「特約」で定められた場合のみ有効となる
償却・敷引きは不動産の賃貸契約の中でもトラブルになることが少なくないポイントの一つです。かつては敷引きの適法性を巡って訴訟が多発していましたが、現在の判例では償却・敷引きの条件の設定そのものは適法と考えられています。
ただし、
①契約時に「特約」として明記していること
②借主にとって過度に不利な条件でないこと
といった要件を満たしていることが求められます。
特約とは法律で定まっていない部分について、当事者間の合意のもとに特別に定める契約のことを指します。保証金(敷金)はトラブルなく賃貸契約が終了した場合、(原状回復費用を差し引くケースもありますが)全額が返還されます。
その保証金(敷金)の一部または全部を返還しないというのは法律に定められた「敷金」とは異なる運用であるため、そういった取り決めは両者の合意の元に特約として別途定められる必要があります。
償却・敷引きはトラブルとなるケースが少なくないことからも入居者の側からしてもそういった項目が設定されている物件は避けられる傾向にあります。そのため、現在はあまり設定されている項目ではありませんが、契約時にそういった条件が設定されていないかを確認することが求められます。
オフィスの契約で保証金(敷金)以外に必要になる初期費用と相場
オフィスの契約をするにあたって保証金(敷金)は大きな初期費用ですが、改めて保証金(敷金)以外に初期費用で発生する項目や、費用の相場について解説します。
礼金:賃料の1~2ヵ月程度
先述の項目ですが、かつて賃貸物件が少なかった頃、部屋を貸してもらうことに対するお礼としてオーナーに支払う費用であり、返還はされません。
オフィスの契約においては設定されていないケースも少なくありませんが、個人オーナーが所有している物件などでは礼金が必要なこともあります。
賃料1~2ヵ月程度が相場です。
火災保険料:年間1万円程度
建物自体には原則としてオーナーが火災保険をかけていますが、失火による火災等に備え入居者側でも加入する必要があります。
契約の内容により、火災だけでなく落雷、水害、物損事故などからも保証を受けることが可能です。
年間1万円程度、毎年の更新が必要です。
保証委託料:賃料1ヵ月程度
オフィスの賃料の支払において連帯保証人をつけるか、もしくは保証会社への委託が求められることがあります。
保証会社に依頼する場合は、支払う保証委託料として賃料1ヵ月分が必要です。
前家賃:最大賃料1ヵ月
家賃は基本的に前払いであり、入居月の分の家賃は初期費用として他のオーナーに対して発生する費用と同時に支払われます。
月初から入居する場合、賃料1ヵ月分が発生しますが、月の途中から入居の場合は日割りでの請求となるのが一般的です。
仲介手数料:賃料1ヵ月
オフィスの契約において仲介業者を通して成約した場合、入居者側から支払う仲介手数料の相場は賃料1ヵ月分です。
仲介業者を介さず、オーナーや管理会社・プロパティマネージャーなどと直接交渉した場合は仲介手数料は不要ですが、現在仲介業者を通さずに契約を行うことのハードルは低くはありません。
内装工事費用:1坪あたり5~15万円程度
オフィス物件は基本的には入居者の側である程度自由に内装工事を行い、業務で利用できるような環境を整える必要があります。
相場としては
50坪以下のオフィス:1坪あたり5~10万円程度
50坪以上のオフィス:1坪あたり10~15万円程度
が相場です。
ただし、これは一般的に想定されるような内装工事の相場であり、OAフロア、スケルトン天井など、床や天井の工事が大がかりになる場合や、内装のデザイン性にこだわる場合などは高額になる傾向にあります。
以前の入居者が使ったままの状態である「居抜き物件」に入居する場合は内装工事費などの初期費用が大きく抑えられます。
引っ越し費用:社員1人当たり3~5万円程度
オフィスの引っ越しの費用も、オフィス入居時の大きな初期費用として無視することはできません。荷物の量や移転前のオフィスからの距離にもよりますが、社員1人あたり3~5万円程度が相場です。
オフィス移転の繁忙期(3月や9~10月)を避けることで費用が抑えられる可能性があります。
オフィスの保証金(敷金)は解約後は契約中に敷金が充当されたような事象や償却・敷引きなどの特約がなく、また原状回復費用と相殺でなければ全額返還されるのが原則ですが、この場合でも、返還が中々行われなかったり、不透明な金額が差し引かれていたりといったことでトラブルになるようなケースも珍しくはありません。
決して小さな金額ではないため、返還される敷金を別の用途(次のオフィスの内装工事費用など)に充当しようと考えていた場合、資金繰りに支障が出る可能性すらあります。
保証金(敷金)は単に賃料の何か月分を支払うのかだけでなく、償却・敷引きが設定されていないか、返還が行われる時期は定められているか、また原状回復費用と相殺になっているかなど詳細を確認することが望ましいと言えます。
保証金(敷金)に限らず、オフィス契約において不安な点や問題になりがちな点などは契約前に物件について確実な知識を有するオーナーや管理会社に直接聞くことによって、入居後、もしくは解約後にトラブルとなるリスクを回避することに繋がります。
まとめ
オフィスの保証金(敷金)に関する重要なポイントをまとめました。オフィスの保証金(敷金)は解約後に原則返還される性質の資金とはいえ、人気の物件の場合、多いと賃料1年分程度の高額な初期費用を用意しなければならず、借主からすると負担の大きい金額です。
また返還時に償却や敷引きの有無、返還の時期などといったポイントを事前に明確にしておくことで、解約時にトラブルとなることを回避できる可能性が高まります。
契約前にオーナー(もしくは管理会社)と直接やり取りし、確認することで仲介手数料が節約できるだけでなく、オフィスの契約自体も安心感をもって行うことができることも重要なポイントです。