- オフィスインタビュー
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新しい家具選びは、「いい家具を借りる」。家具の月額レンタルサービス「air Room」を展開するElalyのオフィス
Instagramや雑誌に出てくる、おしゃれなお部屋。憧れはするけれど、ネックになるのが家具の値段。結局、手頃に買える家具を買って、飽きたら処分して買い替えて……でも、そんな買い替えサイクルに罪悪感もある。そんな方もいるのではないでしょうか。
今回お話をうかがったのは、家具のサブスクリプションモデルサービス「airRoom」を展開する株式会社Elaly。日本に多くある高品質の家具を、借りることで費用を抑えられる。新しい家具選びの選択肢を提示しているサービスです。
大薮さん、西野さんのおふたりに、サービス立ち上げの背景やニーズについてお聞きしました。
株式会社Elaly代表取締役兼CEO。
1995年7月生まれ。法政大学中退。dely株式会社にて、フードデリバリーサービス『Dely』の立ち上げを、株式会社FiNCにて、メインアプリ『FiNC』のiOS/Web開発に従事。2017年末、同社にて年間MVPに選出。2018年5月、株式会社Elalyを創業。 「テクノロジーで世界中の人々のライフスタイルを、より良いものに」というVISIONのもと、インテリアのサブスクリプションサービス「airRoom」を運営。2020年、Forbesによる「アジアを代表する30才未満の30人」を選ぶ「Forbes 30 under 30 Asia」に、コンシューマー・テクノロジー部門にて選出。
株式会社Elaly 企画開発部。
上智大学に在学中、複数のベンチャー企業にて事業開発に従事。
2019年1月、株式会社Elalyに入社。家具のサブスクリプションサービス『airRoom』のプロダクト開発、マーケティングなど企画開発を担当。
目次
家具をレンタル?意外な層からも需要がある「airRoom」
卯岡
エントランスにある社名「Elaly」のロゴ下に、「airRoom」と書かれたものが置かれていました。こちらはサービス名でしょうか。
大藪さん
そうです。家具の月額レンタルサービスですね。
卯岡
サブスクリプションモデルのサービスは数多くありますが、家具を商材にするのは珍しいですね。まだまだ家具は「買うもの」の認識が強いように思うのですが、ニーズはあるのでしょうか。
大藪さん
おかげさまで、ニーズはありますよ。
西野さん
性別・年齢関係なくユーザーの方がいますね。メインは20~30代。ひとり暮らしの方が多いです。あと、意外だったのは50~60代のユーザーですね。
卯岡
サブスクリプションモデルになじみがあまりなさそうな世代ですね。50~60代の方が利用される理由はなんですか?
西野さん
終活ニーズです。「この先」を考え始める年齢になると、モノを残すことである買い替えに躊躇を感じる方が多いようで。そこで「レンタルできないのかな」と調べた際に「airRoom」に辿り着かれるケースが見られています。
卯岡
なるほど……。扱われている家具は、どういったところで作られているのでしょうか。
大藪さん
九州地方や静岡県など、地方のメーカーが多いですね。実際に僕らが足を運び、工場も見学させていただいて。
卯岡
家具メーカー側の反応はいかがですか?
大藪さん
お客さんのニーズに気づくきっかけになったと言っていただけることが多いです。たとえば、一人暮らしの人にとって、現在多く流通している二人掛けソファは大きすぎるため、もっとコンパクトなものがほしいとか。
卯岡
ユーザー層など、お客さんの情報は家具メーカーさんにあまり届いていないんですか?
大藪さん
そうですね。家具メーカーとユーザーの間には、卸業者や小売業者が入るパターンが多いので、なかなか直接コミュニケーションを取れる機会はありませんし。
西野さん
私たちが介在することで、ユーザーの声をメーカーに伝えられ、ニーズのあるものを作れるようになる。そういったメリットがあるんです。
経済格差により、狭まる選択肢。「格差を埋めるサービス」がairRoomの起点
卯岡
そもそも、大薮さんがElalyを立ち上げ、「airRoom」を始めるに至った背景には何があったのでしょうか。
大藪さん
高校時代から起業志向がありました。ただ、1番は経済格差による機会享受の差を埋めたい思いがベースにあります。
卯岡
高校時代にそんな思いを抱いていたんですか。
大藪さん
僕が家庭環境にあまり恵まれておらず、経済的に困窮することが多かったんです。現実問題、お金がないだけで得られなくなる機会は多い。そこで、国内を見回してみたら、7人に1人程度の割合で相対的貧困層がいることがわかったんですよ。
大藪さん
その一方で、産業界を見てみたら52兆円の余剰があった。日本はモノがあふれている国なんですよね。二次流通網のマッチングを調整できれば、経済的に余裕がない人も、満足度の高い人生を送れる選択肢を提示できると思いました。
卯岡
「新品で買う」しかない選択肢を広げるということですね。それで、起業を志したのでしょうか。
大藪さん
そうですね。ただ、僕の目指す「経済格差による機会享受の差を埋めたい」を、もっとも再現性をもち、かつ最短で成し遂げられる方法を考えた結果、確度が高かったのが起業家だった側面もあります。
卯岡
起業家以外の選択肢は何だったのでしょうか。
大藪さん
芸能人でも政治家でも、そうした活動自体は可能でしょうね。ただ、今の日本では、政治家になるには生まれも関係してきますし、芸能人は高校生だと時間の制約もあり、僕の想いを世間に伝えられる活動ができたり、社会を変えられたりするまでに時間もかかると考えました。
卯岡
起業家は違う?
大藪さん
起業家は誰でも可能性があると思いました。やることをやれば勝てる、影響力もついてくるでしょうし、世界の変革も実現できるでしょう。そこまで考え、当時経済的な事情で退学瀬戸際だった高校で、校長先生や担任との面談で起業への意思を伝えました。
卯岡
反応はいかがでしたか?
大藪さん
高校のOBOGで、東京でスタートアップ企業を立ち上げている人がいるよと。その人にも会えるから、東京の大学を目指すなら高校としてサポートしてあげるよと言ってもらえたんです。いい話だと思ったので、学費が安く2教科で入れる大学を受験し、合格しました。
大学入学後は、自分のやりたいことに近いインターン先を探し、dely株式会社にジョイン。当時行われていたフードデリバリーに携わり、dely株式会社が同サービスから撤退するタイミングで卒業しました。ちなみに、大学と並行してインターンを始めましたが、大学は学費がないので早期に中退しています。
卯岡
では、その後は起業を?
大藪さん
いえ、dely卒業の際に、代表の方に「お金さえ出せば会社は作れるけれど、成功するためには自分に武器がないと投資家からお金も集められないし、人を採用することもできないよ」と助言を受けたんです。そこで、FiNCに未経験エンジニアとして入社し、3年間働きました。
卯岡
武器は得られましたか?
大藪さん
年間MVPの話をいただいたのが、武器ですね。起業したのは2018年5月です。
卯岡
家具を扱うことにしたのはなぜですか?
大藪さん
僕の目指すビジョン、「経済格差による機会享受の差を埋めたい」をプロダクトに落とし込んだとき、やりたいと思ったのが「モノの貸し借りのプラットフォーム」だったんです。メルカリのように、売買のプラットフォームはありますが、貸し借りはない。シェアリングエコノミーを実現するため、もう一歩先のプラットフォームを作りたかった。
家具を選んだ理由は、ふたつあります。ひとつ目は、住環境・ライフスタイルのマスに入れ、マインドシェアを大きくとれること。ふたつ目は、この10~20年で、家具業界は大きく構造が変わっておらず、シェアリングのサービスをアプローチできれば、大きく花開く可能性があると考えたためです。
西野さん
私たちがお取引している家具メーカーさんは、職人さんによる質のいい家具を作り続けている会社です。ただ、ファスト家具メーカーの台頭もあり、販促手段を持たないところが多い。結果、どんどん倒産してしまっているんです。
大藪さん
とはいえ、高品質の家具は、相応の価格帯になります。「できれば安いものを使い捨てるより、いいものを選びたい」と思ってはいても、購入ハードルは高い。だからこそ、レンタルのニーズがあるのではないか、環境保護などSDGsの観点からも時流に乗っているのではないかと考えました。
サービスの成長のため、現在採用強化中
卯岡
冒頭で、20~30代の方や終活を考え始めた50~60代からニーズがあるとうかがいました。その他、どういった人に多く使われているなど、傾向や特徴はありますか?
西野さん
転勤ニーズが高いです。特に男性の方ですね。
卯岡
確かに、転勤が多い方だと、家具を買ってしまって引っ越すたびに運んでもらうより、借りて返して……のほうが楽ですね。
西野さん
はい。また、「おしゃれな部屋に住みたいけれど、選ぶのは面倒」な方は案外多いらしく、コーディネートされた家具を一式借りられる方も多いです。
卯岡
コーディネートもしてもらえるんですね。
▲実際の事例をご提供いただいた
西野さん
社員が、家具一式を取り入れたインテリアの3Dモデルを作成しています。私も、「Instagramで映えるようなおしゃれ部屋にしたいけれど、どうしていいのかわからない」と思うタイプなので、個人的にもコーディネートされているのはいいなと思います(笑)。
卯岡
社員さんたちは実際にサービスを使われているんですか?
大藪さん
福利厚生で使えます。使ってくれている社員が多いですね。
卯岡
家具といえば、オフィスでも必要になるものですが、法人向けサービスはやられていないのでしょうか。
大藪さん
オフィス家具もやっていきたいなとは思っています。ただ、いわゆる事務的なオフィス家具ではなくて、ホームユース家具にはなるのかな。最近はゆったりできる空間を用意する会社さんがベンチャー企業を中心に増えているので、そうした企業には利用してもらえるのではないかと思います。
あと、まだまだElalyは社員も限られているので。今後サービスをより充実させていくためにも、現在採用強化中です。
西野さん
エンジニアを中心に、あらゆる職種を募っています。
大藪さん
弊社はまだまだこれからの企業で、オフィスも2019年夏にようやく整ったんです。前は、古いマンションの一室で、作業をしていたら天井が落ちてくるようなところだったので(笑)。
卯岡
では、今のオフィスに移ったことで、安心して働けるようになったんですね。
大藪さん
はい。オフィスがおしゃれなベンチャー企業が増えているなか、当社はまだまだですが。ただ、初期オフィスの時代に入ってもらえると、将来もっと魅力的なオフィスに移転できたとき、「シンプルなインテリアのオフィスで仕事をしていた時代もあったね」と共通体験が持てるメリットがあると思います。
卯岡
では、2代目である今のオフィス、拝見させてください!
内装が準備されているセットアップオフィスを選択。Elalyのオフィス見学ツアー
全国各地にある家具メーカーに出張するため、新幹線の停まる東京・品川に近いエリアを選びたかったというElaly。また、レンタル家具を置く倉庫のある千葉にも行きやすい立地として、八丁堀エリアの物件を選びました。
「事業部での連携を重要視するため、内側、つまり社内や自社サービスに目が向きやすい環境も必須だった」と語る大薮さん。
「渋谷や恵比寿エリアのように刺激が多い街では、他のものに目移りしやすく、外側──自社以外のことに目がいってしまいます。今の僕たちの見るべきものは内側ですから」と説明してくれました。
今はまだ、お金をかけずに。理想に合致していた「執務スペース」
大藪さん
オフィス取材で恐縮なんですけど、今のオフィスにはお金を一切かけていないといっても過言じゃないんです。求めていたのは、フルオープンの執務室、休憩スペース。このオフィスにはこれらが過不足なくあったので、幸いでした。
西野さん
予算を抑えながら綺麗なオフィスに入れるため、内装が準備されているセットアップオフィスを選んだんです。個人的には、お手洗いが綺麗で、特に女子トイレが広かったのが嬉しいポイントでした。
卯岡
お手洗い、特に女性には重要ですよね。
▲執務スペースの一角にある休憩スペース
唯一の個室「会議室」
執務スペース、休憩スペースには仕切りがありません。唯一仕切られているのは、会議室です。
卯岡
フルオープンが良かったとおっしゃられていましたが、それはなぜですか?
大藪さん
事業連携が大切だと考えているからです。当社ではユーザーからの要望に何でも応えるわけではありません。たとえば、「明日までに家具がほしいんだけど」といった要望を満たすことはしません。なぜならば、そこに応えると無理強いすることになり、メーカーや物流が疲弊してしまうから。
卯岡
お客さん第一で、何でもかんでも受けてしまうことはないんですね。
大藪さん
僕たちは、「全員がハッピーになれる」ことを目指しているので。全員がハッピーになるために必要なのは、情報をきちんと把握しておくことです。情報があるから、ハッピーになるための判断が下せる。
その情報を把握するために、各部署の独立性よりもひとつの事業として連携を強めておく「事業連携」が大切なんです。さっきの「メーカーや物流が疲弊する」のも、メーカーや物流の裏側を知っていないとわからない部分でもありますし。
西野さん
コミュニケーションも密に取っています。定例会議は週1なんです。
卯岡
多いですね。
大藪さん
一般的には月次で問題ないのですが、緊密にしていたほうがよいときには週1ベースで、と柔軟にしています。メンバー間で情報格差が起こらないようにするのが第一ですね。
「家具は借りられる」を広めたい。選択肢を知ると、暮らしはもっと豊かになる
今後の事業展開として、「商品カテゴリーの点数を増やしたい」と語ってくれた大薮さん。ファッションには複数メーカーを組み合わせて購入できるサービスがありますが、家具にはそれがありません。A社とB社の家具を、ひとつのサービス内でコーディネートすることは現状では不可能です。「air Roomは、おしゃれな各メーカーの家具を組み合わせられるサービスを目指したいですね」と言葉を添えてくれました。
次にElalyが移転する際に実現したいのは、オフィスに「airRoom」のモデルルームとしての機能を持たせること。社員が実際に使え、各家具のストーリーが描かれているようなオフィスにできたら、と夢が膨らみます。
「お金に余裕がないから、いい家具は買えない」から、「借りられるから、いい家具を選べる」へ。シェアリングが広く浸透するなか、「家具も借りられると知ってもらいたい」と語るふたり。熱い想いが伝わる取材でした。