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働き方・キャリア

リモートワーク開始、導入、廃止の企業3社に聞く「リモートワーク制度導入の可能性と実現方法」

リモートワーク

「働き方改革」が叫ばれる中で、大小問わずさまざまな企業が「多様な働き方」に挑戦をしています。今回は、働き方改革の中でも「場所の自由」を実現するものとして注目が集まる「リモートワークの実践」について、3つの会社に話を聞いてきました。

総務省が掲げるICT利活用促進政策の1つに「テレワーク推進」という項目がある。(本稿ではテレワークを同義の「リモートワーク」にて統一)オフィス以外で働く人を増やすことによる電力消費量の削減、賃料の削減などを実現するコスト削減効果という企業側の期待はもちろん、勤務場所の制約がなくなることにより、都心部から離れた地域への企業誘致を実現する「地域活性化効果」もあるのではないかと目論見、行政からの注目も集められている。

 

しかし、これまでオフィスを主な拠点としてきた企業にとって「従業員をオフィス以外の場所で働かせる」ことは実現可能なのだろうか? いきなり「リモートワークを導入」することは困難なのではないか。

 

今回は、「リモートワーク導入」の実態を調べるために「フルタイムでリモートワークを導入している企業」「フルタイムのリモートワークを廃止した企業」そして「リモートワークを導入しようとしている企業」の3社に話を聞いた。3社の比較から、リモートワーク導入の可能性と実現方法について探っていく。

 

(筆者注釈:取材を実施した2017年8月時点)

 

 

 

①株式会社キャスター|フルリモートワークを導入している会社

 

株式会社キャスターは「リモートワークを当たり前にする」をミッションに掲げ、フルリモートワーク制度を導入している。主軸事業はオンラインアシストサービスの「CasterBiz」。他にも、多様な働き方を促進することで優秀な人材を確保し、企業の採用課題を解決するサービスを複数展開している。2014年9月に創業した同社は従業員が170名を超えているにもかかわらず、オフィスに常駐する従業員はいないという同社は「リモートワーク導入」についてどう考えるのか。

 

リモートワーク制度の実現に必要なのは「組織構造の変革」

 

 

中川祥太

(キャスター代表取締役社長の中川祥太氏)

 

キャスターさんはフルリモートワーク制度を導入されていますが、制度の概要や実態について教えていただけますか。

 

オフィスにいる社員は常時3〜5名、残りの約165名はリモートワークで業務をしています。100名以上のCasterBizのアシスタント業務を担当するスタッフは社員がほとんどですが、全く出勤しません。それ以外の管理部や営業部などのスタッフでも東京のオフィスに出勤できる社員は10名程度で出社義務も設けていないので、毎日来ることはないですね。

 

 

リモートワーク制度を導入した背景についても教えてください。

 

創業当初から「リモートワークを当たり前にする」を理念にしてきた会社なので当時からリモートワークでした。前職時代にBPOサービス(ビジネス・プロセス・アウトソーシングの略。業務プロセスを外注するサービス)のディレクションを行なっていたのですが、そこでコア業務以外をアウトソーシングするスタッフを確保するためには、東京近郊ではなく地方の人材から補填する必要があることを感じていました。その手段としてリモートワークは最適だなと感じて事業化。東京以外からも人材を確保することが、サービスの成長にもつながる事業なので、リモートワークの特性を最大に活かせる事業だと思います。

 

 

キャスターさんのような「リモートワーク制度」を、他社が導入するためには何が重要だと思いますか?

 

もっとも重要なのは「リモートワークの導入が事業の成長に繋がるか」ということだと思います。たとえば当社であれば、リモートワークで働くことができるビジネスモデルを確立し、さらに営業や経理といった全職種をリモートワークに対応させています。その結果、在宅勤務や一部リモートワークでしか働けないけれど優秀な人たちを採用することが可能になり、採用が強化されて組織や事業が成長しています。

 

そういう点で考えると大企業の導入は難しいかもしれません。スタートアップではビジネスモデルや組織構造を独自に選択したり、変更することができますが、大企業では組織体制の変革のコストが大きく、当社のケースとは違ってくるかもしれませんね。出社する・しないというのはルーティンの上に成り立った行動なので、今の環境に納得している人たちに対して変革を起こすのには大きなコストがかかります。経営者が覚悟を持って一気にやるしかないと思いますね。

 

 

リモートワークでも「普段の働き方」を再現すればいい

 

株式会社キャスター

 

—順調に機能している印象のリモートワーク制度ですが、これまでに何か問題はありましたか?

 

基本的に機能しないことはないのですが、リモートワーク側ではなくオフライン側に多少の負担がかかることはあります。当社の場合はリモートワークする人の割合が圧倒的に多いので、そうでない社員がリモートでできない作業をしないといけなくなるケースが発生しています。たとえば仕事をやっている途中に郵送という業務が舞い込み、オフィスに出勤している人が対応するといった場合ですね。「オフライン側とのバランスと採用をどう強化するか」が次のステップだと考えています。

 

 

ーリモートワークの導入にあたって勤怠管理や業務管理に問題が生じるのではと懸念する企業も多いと思いますが、御社では何か対策をされていますか?

 

リモートワークの導入にあたり、勤怠のばらつきやサボりに不安を持つ方もいると思いますが、「リモートワークだからサボれる」という概念自体が問題です。こういった場合はリモートワークの話ではなく社員の姿勢に問題があると思います。

 

リモートワークが機能するためには?という点で言えば、要点は「人間関係」だと考えています。通常の働き方とリモートワークのどこが違うのか分解していくと「コミュニケーションの取り方」の違いでしかないのです。

 

リモートワークは全てチャットやメールなどの非同期コミュニケーションに依存するため、連絡が返ってこないというところを心配される方が多いです。しかし、普通の会社が同じ時間に出勤するように、同じ時間にチャットを開いて仕事を開始することでリモートワークでも出勤時と同じ環境を作ることは可能です。チャットで同等以上のコミュニケーション量を積み、みんなで自己責任で働く在り方が正しいリモートワークだと思います。

 

 

ー自己責任を社員が持ち、オフィスで働くのと同様の環境をリモートワークでも作り出す。リモートワーク実現のヒントが見えてきた気がします。ありがとうございました。

 

 

株式会社キャスター

事業内容:オンラインアシスタントサービス 「CasterB(キャスタービズ)」のサービス運営。スタートアップ・中小企業専門のデザインエージェンシー 「Remote Style」サービス運営

所在地:〒150-0043 東京都渋谷区道玄坂1-20-1 大沢ビル5F

 

 

 

 

②エバーセンス|フルリモートワーク制度を廃止して条件付きに変更した会社

 

次に話を聞いた株式会社エバーセンスは「家族を幸せにすることで、笑顔溢れる社会を作る」をミッションに、パパ・ママ向けのWebメディアやアプリを開発・運営している会社だ。2013年の創業当初にフルリモートワーク制度を導入していた同社は、約1年半で制度を廃止した。同社がリモートワーク制度を廃止した理由、そして現在「条件付きリモートワーク制度」を導入している理由について代表取締役社長の牧野哲也氏に話を伺った。

 

 

働き方改善の目的はあくまで「成果を上げること」

 

株式会社エバーセンス

(エバーセンス代表取締役社長の牧野哲也氏)

 

リモートワーク制度を導入していたのに「廃止」したのは、なぜでしょうか。当時の状況から教えていただけますか。

 

リモートワークを導入していたのは創業当初。導入理由はクリエイターが働きやすい会社にしたかったからです。子育てや天候の都合で在宅勤務ができることは社員の満足度に繋がると考えました。

 

実際に制度自体への満足度は高く、勤怠にも問題はありませんでした。しかし肝心の「成果」がうまく出なかったんです。「本当に生産性を高く保つことができているのか」「いいものづくりができているのか」という不安が絶えない。コミュニケーションも活性化しきらず、本質的な議論ができないと感じるようになりました。

 

チャットやビデオ会議をしていても、考えていることが伝わらないと「会ったときに話そう」と話を伸ばしてしまうこともでてきました。それが増えると決断が遅れチームとして機能せず、事業も伸びないので成果が出ない。というように満足度は下がってしまいました。結局、役員も含めて社員3人がやめてしまったこともあり、1年半で制度の廃止を決断しました。

 

 

その後はどのように改善をして事業を立て直すことができたのでしょうか?

 

リモートワークで失敗してしまったのは、徹底したユーザー目線のサービスを作る上で「質の高いコミュニケーションができなかったこと」が原因だと考えました。そこで、オフィスを移転し、従業員が集まる場所を確保することからはじめました。その後も「より良いコミュニケーションや人間関係が良いプロダクトを生む」という信念を持って環境や制度を整えていきました。雑談が生まれやすいオフィス設計、ランチやドリンクの補助、固定席など、コミュニケーションが自然に発生することにこだわって社内制度を作り上げています。

 

 

パパ・ママが働くために例外的なリモートワークはOK

 

株式会社エバーセンス

(エバーセンスのオフィス。コミュニケーション活性化のためにオープンでフラットなスペースになっている)

 

コミュニケーションという軸以外でも、働き方にまつわる制度は充実しているそうですね。

 

弊社はパパ・ママ比率が高く、全社員46名のうち子供を持つ親が26人です。なので、子供がいても働きやすい制度も設けています。それが「フレックスタイム制度」や「一部リモートワーク制度」「有給前借り制度」「ファミリー休暇」などです。

 

子供を持つ親にとって出勤するのが難しい日のために、やむを得ない在宅勤務を可能にするのがリモートワークを一部残している目的です。そのため「例外的なリモートワークは可」として、申請すれば何回でも取得出来るようにしました。

 

リモートワークをするときは上司に理由を伝えて、当日の予定業務を報告。終了時に報告をした業務の達成度が50%だった場合は、その日を半休扱いにして別の日に補填してもらいます。あくまでも成果を見ないと、会社に来ている人たちにフェアじゃなくなる。そこをフェアにすることでリモートワークをする人も責任を取りやすく、誰でも利用しやすくなると考えています。

 

 

リモートワーク制度は廃止したものの、一部は残して本質的な働き方の課題を解決しているのですね。中でも、リモートワーク時の業務管理、補填対策はいろいろな企業の参考になりそうです。ありがとうございました。

 

株式会社エバーセンス

株式会社エバーセンス
事業内容:WEBメディアの企画・運営、子育て支援アプリの企画・開発
所在地:〒103-0002 東京都中央区日本橋馬喰町2丁目7-15 ザ・パークレックス日本橋馬喰町5F

 

③インテージ・ホールディングス|一部リモートワーク制度を導入し始めた会社

 

最後に取材をした「リモートワークを導入しようとしている会社」は、インテージ・ホールディングス。市場調査やマーケティングリサーチを中心に情報サービスを展開するインテージグループの持株会社だ。本稿では唯一グループ全体で4桁の社員を抱える企業で、2017年4月、持ち株会社のインテージホールディングスで全面的にリモートワーク導入を開始。今後はグループ15社、2000人以上の社員もリモートワーク制度を活用することができるように取り組むというが、どのような背景、方法で制度を導入しているのか。リモートワーク制度導入を松尾重義氏に話を聞いた。

 

※2017年12月時点でグループの5社が全面的にリモートワークを導入している

 

 

 

自律性を高めるためのリモートワーク制度

 

インテージ・ホールディングス

(インテージ・ホールディングス人事戦略統括グループのシニマネージャー松尾 重義氏)

 

—インテージ・ホールディングスさんは、グループの社員2000人以上。働き方を変えるのはかなりの労力がかかると思うのですが、その労力をかけてでも「リモートワーク」を導入しようと考えたのはなぜでしょうか。導入の背景を教えていただけますか。

 

インテージグループは「社員ひとりひとりの自律的なプロフェッショナリティを高めること」を目的とした働き方改革を2017年4月から開始しました。その一環として現場の社員やチームに権限や裁量を渡していく必要があると考えて実施したのが「制約を減らす」という施策です。「回数制限のないリモートワーク制度」はその中の1つで「場所の制限を減らす」という対策でした。チームやクライアント、社員ごとの事情に合わせて、最適な働き方の選択肢を提供し、個々人にプロフェッショナリズムと自律性を養ってもらいたいと考えました。

 

 

ーリモートワーク導入でどのような成果がありましたか?

 

インテージホールディングス単体での導入1ヶ月後のアンケートでは、全社員の中で約半数が利用したという結果になりました。月に数回の利用がほとんどでしたが、週2〜3回利用した社員もいます。弊社はグループ全社の経営支援機能を集約した組織なので、出社する必要のある業務を抱える社員も多い中では高い利用率がみられたかな、と思います。

 

また、営業や出張の移動の際、自社にわざわざ戻るという無駄な制約をなくすことができたのは、1つの成果だと思っています。東京にはひばりヶ丘、東久留米、御茶ノ水、秋葉原などにグループ会社のオフィスがあるのですが、各オフィスには「タッチダウンスペース」と呼ばれる、グループ社員向けのフリーアドレス席があり、こちらも合わせて活用することで、非効率な移動の解消もできています。

 

 

障壁は多様性の許容と自律性

 

インテージホールディングス

 

導入には様々な準備が必要だったと思いますが、どのような準備を行なってきたのでしょうか。

 

「制度面」「ツール面」「セキュリティ面」の3つの観点でお話ししますと、まず、勤怠管理やコミュニケーションで使用していた主なツールに関しては大きな変更はありません。電話・チャット・メールが使用可能で、オンラインでの会議も他拠点とのやりとりで活用していたものを使用しています。

 

業務管理や具体的な運用の方法は整っていませんでしたが、そこもあえて厳格な整備せはずに、所属する部署、チームに運用ルールを決めてもらい、その内容を事例として社内に共有する方法を取っています。会社側で強制的な仕組みを提示しないことで「ルール」や「制約」をなるべく作らないようにしました。

 

セキュリティ面はリモートワークでもVPN接続を暗号化通信で社内環境にアクセスできるので、社外でも問題なく業務を行うことができます。もちろん、オフィスのみでの利用としているデータは持ち出しできないので、出社して業務を実施してもらいます。

 

 

制度を導入する中で生じた課題、あるいは今後起こりうる課題についてはどのように考えていますか。

 

リモートワークの先にあるコンセプトが否定されるほど大きな課題はないと考えています。ただ、「多様性の許容」という点で浸透速度が鈍くなるということは起こり得ると思います。出社しない人が出てくること、オフィス以外の場所で働く人がいることに不安を感じる人達は多いはず。その不安を払拭して、個人の事情で在宅勤務を選択することを認めやすい環境を「制度・環境面」「マインド面」の双方から支援したいと思っています。

 

本質はあくまでも「自律」「プロフェッショナリティ」を伸ばすことです。その信念を理解してもらいつつ、最適な形で「リモートワーク」が選択肢になるように、今後も働きかけていきます。

 

あくまでも「選択肢としてのリモートワーク」という部分に重きを置いて、個々人が自律的に選択できるように環境・マインドの両面で整備をしていくということですね。ありがとうございました。

 

 

インテージグループ
インテージグループ 
事業内容:マーケティング支援事業(消費財・サービス、ヘルスケア)、ビジネスインテリジェンス事業
所在地:〒101-0022 東京都千代田区神田練塀町3番地 インテージ秋葉原ビル

 

リモートワーク導入の本質とは|全体のまとめと考察

 

3社を比較した上で、リモートワークを導入する上で重要な点は「リモートワーク導入の本質的な目的」を用意すること、そして「構造から変えること」ではないだろか。

 

まだ従業員数が少ないスタートアップ企業では、会社のビジネスモデルや採用したいターゲット層との相性も重要だ。キャスターやエバーセンスでは、在宅勤務、地方勤務でも普通に仕事がしたいというパパ・ママ層が働きやすい環境を実現している。地方在住の優秀な主婦を採用することがキャスターでは事業の業績を伸ばすことに繋がり、エバーセンスでもパパ・ママの気持ちになってサービスを作ることができる人々が増えるのは業績に直接影響するだろう。

 

一方で大きな組織を持つインテージ・ホールディングスでは、組織構造の改革や初期からの導入は難しいことを判断して「選択肢としてのリモートワーク」を提供している。同社の場合は他2社と異なり、ビジネスモデルや採用ターゲットの選定よりも、既存従業員の働き方の効率化、最大化を狙うものだ。そこで同社が実施していくのは、チームごとに管理方法、裁量を委ねる施策。本質的な狙いはリモートワークの実現ではなく、その先にある「個人のプロ意識を昇華する」ということにある。

 

事業を伸ばす速度を加速させるために、採用力を引き上げ、業績を伸ばす狙いの強いスタートアップ企業と、現在働いている従業員の働き方の裁量を広げ、効率化や意識改革の面から業績を伸ばす狙いの大手企業、双方に適切な狙いがあると感じた。

 

「リモートワーク導入は可能か?」という結論は明確には出せないものの、やはり「自社にとって本質的な働き方改革とは何か?」を常に問い続けて、最適な制度、構造と文化を変えるくらいの意志を持って導入していくことが重要なのだろう。リモートワークを導入検討する際の一助というには曖昧な結論だが、少しでも参考になれば幸いだ。

 

(取材時期:2017年8月時点での情報です)

 

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