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オフィスインタビュー
vol.303 株式会社澤村

従業員の健康とイノベーションを追求!株式会社澤村の「ウェルネス現場事務所」への挑戦

株式会社澤村

滋賀県高島市を拠点とする地域密着型の総合建設業「株式会社澤村」は、企業ブランディングを通じて、採用や売上の伸長を実現してきました。この成長の背景には「きっかけを創造する」というミッションのもと、お客様だけでなく、自社のスタッフにとっても魅力的で豊かな働き方ができる組織づくり・空間づくりへの徹底的なこだわりがあります。ここでは、従来の現場事務所の概念を覆し、ウェルネスとイノベーションを追求した現場事務所の具体的な設計思想と、それを体現した空間をご紹介します。

河本 尚子
インタビュー
河本 尚子
株式会社澤村 コーポレート統括部 次長

大阪府出身。大手航空会社のグランドスタッフとして関西空港に勤務した後、2011年、株式会社澤村にパートとして入社。翌年、正社員となり、経理業務、法人営業を経て、2018年にはリブランディングプロジェクトのメンバーとして広報部門の立ち上げを経験する。現在は管理職として活躍。

和田山 翔一
インタビュー
和田山 翔一
株式会社澤村 コーポレート統括部 ひとづくり・カルチャー推進課 課長

広告制作会社の営業兼ディレクターとして、関西大手企業をクライアントにWEB・カタログ・動画制作等に従事し、2019年、株式会社澤村に入社。ブランド推進室の立ち上げに参画し、企業ブランディングやマーケティング、社内コミュニケーションや研修の設計に携わる。2025年より現職。

藤森 博紀
インタビュー
藤森 博紀
株式会社澤村 コーポレート統括部 業務改革推進課 課長代理

高島市出身。2013年、株式会社澤村に新卒入社。法人の工事を請け負う部署で現場監督を務めた後、2021年からは現場の仕事を内部からサポートする業務に従事。現在は現場での経験を生かして、業務の電子化や社員のスキルアップなど、社内の働き方改革を進めている。

設計施工一貫の総合建設会社

西川(IBASHO.ライター) :

では、まず本日お話をお伺いする皆さんの普段の業務内容からお聞かせください。

株式会社澤村
河本さん :

経理や法人営業を経験し、現在は人事、財務、広報を担当しています。広報は2019年のリブランディングプロジェクトのスタートとともに立ち上げましたが、私自身、広報業務が未経験だったため、実務経験者の和田山に入ってもらいました。

和田山さん :

今、河本からも説明があった通り、2019年に広報スタッフとして入社し、広報や企業ブランディングを担当しています。

藤森さん :

私は2013年入社で、現場監督として施工管理を担当していました。2022年10月、現場監督の経験を生かして業務サポート部を立ち上げ、写真の整理や各種書類の作成、安全書類のチェックなど、現場監督が事務所に戻って行う事務作業を一手に引き受けることになりました。

これには、残業時間の削減や生産性の向上など、現場監督の働き方をサポートしようという目的があり、現在は業務改革推進課という名称になっています。建設業界はまだまだアナログで、情報や記録の管理を紙ベースで行ったり、そのために残業も多くなるなど、従来の働き方を続けている会社が多いのですが、少しずつでも変えていきたいと思っています。

⻄川 :

では、次に会社のこと、事業内容について教えてください。

株式会社澤村
和⽥⼭さん :

滋賀県高島市に本社を構える地域密着型の総合建設業で、オフィスや⼯場などの建築事業と住宅事業を展開しています。現在はほとんどが⺠間⼯事と住宅事業で、設計施⼯⼀貫のスタイルが一番の強みです。近年は、企業ブランディング活動に⼒を⼊れており、⾼島市内での認知度は 79.7%。現時点で採用も順調で、京都や大阪からの採⽤も増えています。

株式会社澤村
河本さん :

リブランディング前は社員数が 80 名程度でしたが、今は 184 名と倍以上になりました。売上も 33 億円から今期 68 億円と、ほぼ 2 倍の成⻑を実現できています。

⻄川 :

本社はとても綺麗な建物で、地元でも話題を集めていると聞きました。

和⽥⼭さん :

2019 年に増改築したのですが、⾼島市ののどかな場所に綺麗なオフィスがあるということで話題にしていただくことも多く、⾒学の⽅もたくさん来てくださっています。

箱を作るのではなく、きっかけを創造する

⻄川 :

御社は、どういったミッションを掲げて事業を展開されているのでしょうか。

和⽥⼭さん :

「きっかけを創造する」というミッションを掲げています。建築は引渡しのタイミングで終了という考えが主流ですが、お客様にとっては、そこから暮らしが変わったり、会社であれば新規事業がスタートしたりするターニングポイントになります。ですから、私たちが作っているのは単なる箱ではなく、お客様がこれから変わっていくためのきっかけ、そういうふうにミッションを定義して事業を広げています。

西川 :

そうした思いが建築物にも⽣かされているのですね。

和⽥⼭さん :

そうですね。住宅事業では豊かな暮らしを⾒つめた家づくりを、オフィスや⼯場の建築では企業の魅⼒が伝わるような建物や空間づくりを大切にしています。ハウスメーカーでは対応できないような設計へのこだわりも⾼い設計⼒と提案⼒で形にしていて、そこで暮らすこと、働くことを誇りに思えるような空間にできればと考えています。

株式会社澤村
株式会社澤村

現場事務所の刷新は魅力ある組織づくりの一環

西川 :

では、次に御社にとっての働き方と、働く場所の役割について教えていただけますか。

河本さん :

当社は「豊かな働き方・暮らし方ができる社会を作る」というパーパスを掲げ、京都や大阪のベットタウンであり、工場が多い滋賀県で、あえて「ここで働きたい」と思われる組織づくりにチャレンジしています。それは、魅力的な会社が増えれば人が集まり、豊かな暮らしが生まれると考えているからです。そして、この組織づくりを、自社のチャレンジを通して社会に広げていきたいと思っています。

西川 :

今回の現場事務所のリニューアルも、魅力ある組織づくりの一環ということでしょうか。

株式会社澤村
河本さん :

そうですね。これまではよくあるプレハブの現場事務所でした。本社はリブランディングの際にスタッフがコミュニケーションを取りやすい空間に変更しましたが、現場にはそうした概念がなかったのです。

そこで、施工管理職全員に職場満足度のアンケートを取ったところ、点数は 大半が5 段階の 4 や 5 だったのですが、コメントには「こういうものだと思っている」「そもそも期待していない」という意見が多く、決して満足しているわけではないということがわかりました。

事実、「本社をうらやましいと思うか」「本社のような機能が欲しいか」という問いには、多くの回答で「はい」が選ばれていましたから。会社としては、本社、現場を問わず、どのスタッフにも同じように生産性を上げて働いてほしい。であれば、ハード面も揃えなければということで現場事務所のリニューアルを始めました。

西川 :

本社リニューアルとリブランディングを⾏ったことで、御社への依頼や相談が変わってきたそうですね。

河本さん :

はい。 リニューアルを経て当社に人が集まるようになった頃から、県内企業から採⽤に困っているという相談が一気に増えました。これまでは「働ける場所があればよい」と考えていた製造業のお客様も、「若い人たちが快適に働ける場所を作りたい」とか、「働き方をよくしたい」という方向性に変わってきています。弊社のようなオフィスを作りたいとおっしゃるお客様も徐々に増え、自社のノウハウを活かした提案ができていると感じます。私たちも、環境を整える過程でウェルネスの環境を勉強し、本社は昨年、CASBEEウェルネスオフィスという評価認証も取得しました。

ウェルネス現場事務所、見学スタート!

2階フロア/執務スペース・休憩スペース

西川 :

では、ここから実際のフロアを拝見しながらお話を伺っていきます。この2階フロアが執務スペースと休憩スペースになっているんですね。

株式会社澤村
執務室は打ち合わせ・休憩スペースと空間を仕切り、業務に向き合いやすい環境を整備している
和田山さん :

はい。カーペットの黒い部分が執務スペースで、黒くない部分が打ち合わせや休憩のスペースです。打合せやお弁当を食べる際に、執務スペースと目線を切り分けるため、有孔ボードで区切っています。

株式会社澤村
こちらがその有孔ボード。爽やかなグリーンをあしらって明るさと安らぎを演出
西川 :

生活日用品メーカーの平安伸銅工業さんと一緒に空間づくりを進められたと聞きましたが、どういう経緯でそうなったのでしょうか。

河本さん :

ここは2つ目の現場事務所なのですが、1つ目の現場事務所を作るとき、仮設に傷をつけないようとあれこれ考え、社内で施工して、元に戻すというプロセスがとても大変だったんです。それで困っていたところ、スペースパフォーマンスの向上を掲げる平安伸銅工業さんが話を聞いてくださいました。

平安伸銅工業さんは、空間を傷つけずに使える収納をたくさんお持ちで、「それなら現場事務所でも使えますよね?」ということになって、話が進んだんです。現場の働き方改善は社会共通の課題であり、当社のオフィスに対する考え方にも共感してくださって、タイアップすることになりました。今回の現場事務所には棚などを付けていませんが、何もない空間に棚を付けて収納スペースにすることも可能です。

西川 :

現場事務所ごとにいろんなアレンジができるということですか?

河本さん :

そうです。ただ、現場事務所は仮設のため、最終的に原型に戻して返却する必要があります。粘着性のあるものは使えない、色付けはできないなど、プレハブ自体の規制もあって、できることが限られているんです。そこで採用したのが、平安伸銅工業さんの突っ張り棒です。これは、突っ張るだけで壁に傷がつかず、取り外しも自由で、現状復旧が容易なんですね。この現場事務所の使用は6〜7か月の予定ですが、突っ張り棒もボードもグリーンも、すべて次の現場事務所で使い回すことになっています。

株式会社澤村
突っ張り機構とビスのみで組み立て可能な突っ張り棒。再利用や仕様変更にも柔軟に対応できる
西川 :

使い回せるというのはいいですね。では、こちらの執務スペースについて、ご説明をお願いします。

和田山さん :

こちらの執務スペースは、L字のテーブルを採用しています。電子化が進んではいますが、図面や工程表など、サイズの大きな資料を広げやすくするためです。

また、ここは現場従業員の立ち寄り所にしているため、常駐ではないメンバーが来ても座れるよう、人数より多めに机を用意しています。

株式会社澤村
L字型の机。常駐2名に対してデスク4つを用意している
河本さん :

最近は、本社のメンバーや業者さんとオンラインでやり取りすることも増えたため、仕切りを立てて個別ブースも作成しています。

株式会社澤村
周りを気にせず集中できる個別ブース。オンライン会議にも利用できる
西川 :

打合せスペースの椅子の色が違っていたり、風景写真が飾ってあったりと、従来の現場事務所とは随分イメージが違いますね。

株式会社澤村
打ち合わせスペースは、カラフルな椅子と壁のグリーンがパッと目を引く明るい空間
河本さん :

壁の写真は当社のスタッフが撮ったもので、コミュニケーションのきっかけになるように飾っています。椅子の色もあえて全部違う色にして、扉を開けるとパッと色が目に入るようにしています。グリーンの装飾もストレスの低減につながるそうで、現場の無機質感が和らぎます。最近は女性の現場監督や職人さんも増えているので、こうした柔らかいイメージを出すことも大切だと思っています。

株式会社澤村
スタッフが撮影した写真をディスプレイ
和田山さん :

空間を仕切る有孔ボードには、フックを使ってヘルメットなどをかけられるようになっています。奥には着替えができるスペースも用意して、身だしなみをチェックできる姿見も置いています。

株式会社澤村
執務スペース側の有孔ボードは、ヘルメットや工具を引っかける壁掛け型の収納として活用
河本さん :

現場事務所はコンビニが近くにない立地条件のところもあるため、ウォーターサーバーとコーヒーメーカー、100円でおかずを選べる置き型社食を導入しました。おかずは管理栄養士監修のメニューを採用し、月ごとに種類が変わります。事務所のメンバーは、毎日白米を持ってきておかずと組み合わせて食べていると聞きます。

株式会社澤村
ウォーターサーバーとコーヒーメーカー、置き型社食を設置し、スタッフのリフレッシュをサポート

1階フロア/職人さんの休憩スペースと打ち合わせスペース

西川 :

では、次は1階フロアのご紹介をお願いします。

株式会社澤村
食事や気軽なコミュニケーションの場として活用できる休憩室は、外部の職人たちにも大好評
藤森さん :

1階は、職人さんの休憩スペースと打合せスペースです。2階と同じグリーンで柔らかい雰囲気にし、大人数で利用できる大きなテーブル、個別で打合せができるホワイトボード付きブース、立って仕事ができるカウンターと、機能性を分けて使い勝手を良くしています。カウンターは、職人さんたちが道具をぶら下げる「腰袋」が当たらないよう、少し高めに設定しています。

株式会社澤村
空間の奥には、4名がけのテーブルにホワイトボードを備えた個別ブースを2つ用意
西川 :

細かい配慮が行き届いているんですね。職人さんたちの反応はいかがですか?

藤森さん :

職人さんたちはいろいろな現場をご存知ですが、反応はとても良いです。協力業者さんのオフィスがプレハブだったりもするので、「こんな空間にしたい」と言われることもあり、モデルルーム的な役割も果たしていると思います。今後は、こういう環境で働くことが当たり前になってほしいし、施工管理職をなりたい職種にしていきたい。それが業界全体への貢献にもなると思っています。

和田山さん :

スタッフからは、「愛着を持って過ごせる」「綺麗に使おうと思う」という声もありますね。

また、採用活動の一環で現場事務所を見学できるようにしていて、弊社の取り組みと一緒に学生の皆さんにご紹介しています。

藤森さん :

先日、学生さんが見学に来てくれたのですが、感触は良かったですし、お⼿洗いも男⼥別で安⼼していた様⼦でした。

西川 :

「こんなところで働けるよ」と自信を持って言える現場事務所なんですね。

河本さん :

それがうれしいですよね。ただ、施工管理は予算の管理をしているので、働く場所にお金をかけるという発想自体がなく、最初は抵抗感があったようです。どうしても「ここに予算を使うの?」「これは削っても良いのでは?」と思ってしまうようで……。そのため、ここは現場の予算とは別に予算を組み、本社が管理しています。使い回すことでランニングコストは低減できますし、その意識が丁寧に使う気持ちにもつながってほしいと考えています。

ウェルネス現場事務所を業界の当たり前に

西川 :

では、最後にオフィスに込める思いや働く人へのメッセージ、今後の展望をお聞かせください。

株式会社澤村
和田山さん :

働く環境が良くなると、生産性の向上やストレスの低減も含め、良い仕事ができるようになるということを体感しながら、本社と現場がもっと寄り添ってモノづくりができるようになればと思っています。そして、こういう現場事務所を当たり前にして、施工管理という仕事を「なりたいと思われる仕事」にしていきたいです。

河本さん :

大企業では少しずつ変わってきているようですが、業界としては今も古いやり方が残っています。ですから、今後は同業他社に「同じことやりませんか?」と働きかけていくことも考えています。地方の中小企業からでも業界を変えていけるということを示していきたいと思っています。

西川 :

ありがとうございました。

働き方の常識を変える、現場の改革

株式会社澤村

多くの同業他社が従来の働き方を維持する中、同社は地方の中小企業でありながら、自社のチャレンジを通じて「豊かな働き方・暮らし方」を社会に広げていこうとしています。現場事務所のリニューアルは、生産性の向上やスタッフの愛着を育むだけでなく、施工管理職を「なりたいと思われる仕事」にするための重要な一歩。地方発のこの動きが、現場のあり方を見つめ直す契機となり、やがて業界全体の働き方を変える流れへとつながっていくことでしょう。

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