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「機能的だから、おしゃれだから」は「エコだから」より強い。イトーキの「サステナブル×家具作り」の変遷と想い

日本有数のオフィス家具メーカー、株式会社イトーキ。「カーボンニュートラル」「脱炭素」「サステナブル」など、地球環境を守る取り組みの必要性が叫ばれるなか、環境にやさしいエコな新素材を用いた商品開発を行っています。スマートオフィス商品開発本部で長年椅子の企画開発に携わり、ここ数年はエコ新素材を使った商品開発に取り組む山本洋平さんに、同社のサステナブル×オフィス家具開発についてお話を伺いました。

山本洋平
インタビュー
山本洋平(やまもと・ようへい)

1984年生まれ、大阪市出身。2010年イトーキに入社し、働く姿勢や椅子の構造についての研究活動に携わる。2016年から商品企画部門で年間2~3件の新商品を開発。
担当したチェアはiF、RedDot、GoodDesignなどを受賞している。2020年ごろから素材の魅力にハマり、サステナブルでカッコいいオフィス家具づくりに没頭中。今回のインタビューのために3週間で5kgのダイエットに成功。

「環境にやさしい」に「ワクワク感」をプラスしたものづくり

――まずは山本さんのこれまでのお仕事について伺わせてください。

山本さん :

私は2010年に新卒で弊社に入社し、研究部門で仕事をしてきました。2016年に今の商品企画部門に異動になり、そこからずっと新商品の開発に携わっています。主に椅子の開発を行ってきまして、あっという間に今に至るという感じです。

――今回のテーマはサステナビリティです。イトーキが商品開発でサステナビリティを重視するようになった経緯についてお聞かせいただけますか。

山本さん :

会社として環境やエコについて言語化したのは1999年ですね。ユニバーサルデザインとエコデザインを掛け合わせた造語「Ud&Eco style(ユーデコスタイル)」を社として掲げ、ユニバーサルデザインやエコデザインの商品を出していく流れが生まれました。

それまでも環境にやさしいものづくりを行ってきてはいたのですが、2000年前後は社会的に環境問題が叫ばれ始めていた時代でもあり、あらためて具体的な言葉として正式に宣言したのがこのときでした。

その後、2009年には「人も活き活き、地球も生き生き」をビジョンに掲げました。人と地球にやさしくというこれまでの考え方に、もっとワクワク感を、エキサイティングするものをという要素を加えた商品を世に出したいという想いが表れた言葉です。

――山本さん自身は、サステナブルな商品開発についてどのように捉えていらっしゃるのでしょうか。

山本さん :

正直、個人的には環境意識よりも新しい挑戦へのワクワク感が強いです。というのも、サステナブルな商品開発に取り組み始めたころの私は、椅子の商品開発に長年携わり、デザイン賞もいただけたということもあって、ある意味「一周回った」感があったんですよね。少し悪い言い方をすれば、これまでどおりの開発では満足できなくなっていた。

そんなあるとき、ある材料商社さんからお米のもみ殻からできている新素材を紹介されたんです。最初に感じたのは、見た目の可愛さです。これまで使ってきたプラスチックにはない風合いで、魅力を感じました。かつ、プラスチックを使うよりもエコになる。

提供画像:もみ殻(左)ともみ殻を混ぜ込んだ新素材(右)
山本さん :

そこからエコ素材の沼に入っていきました。なので、興味関心は「エコだから」というより「新たな素材がおもしろいから」だったんですよ。それが結果的にサステナブルだっただけなんです。会社としてもサステナブルな商品開発に力を入れていくタイミングだったので、新素材を使った商品開発に理解を得られやすかったですね。

Olika eco・Wan eco (オリカエコ・ワンエコ)
山本さん :

こちらが、最初に出会ったエコ素材、もみ殻を混ぜたものを使って作った椅子です。素材に出会ったときから「いつかこの素材を使った商品を世に出したい」と思って開発してきました。

提供写真:LINEA(リネアチェア)
山本さん :

こちらは2021年に発売した「LINEA(リネアチェア)」です。素材というよりは製法に特長がある椅子なんですが、背もたれから座面が編み物なので縫い目がなく、より体にフィットするという技術を使っています。3Dニットと聞けばイメージできる方もいるのではないかと思います。一般的な椅子の製造方法では、どうしても製品にならない生地が出て廃棄物になってしまうんですが、リネアでは必要な部分だけを糸から編んで作るので無駄が出ないんです。と同時に、従来のチェアでは必ず使っていたウレタンを使わなくて済んだので、リサイクルもしやすいですし、薄くてシャープなシルエットにすることもできました。

MEET LOUNGE(ミートラウンジ サステナブル)
山本さん :

2022年に発売したMEET LOUNGE(ミートラウンジ サステナブル)というシリーズのテーブルには、「ケナフ」という植物の繊維を使っています。自動車の内装を作られているトヨタ紡織さんが開発された独自の素材で、LEXUSなどで採用されていたんですが、3年くらい前から共同開発をさせていただいて、家具での採用にこぎつけました。ケナフって成長がとても早い植物で、数カ月間だけで2メートルを超えるらしくて、スギなどの針葉樹にくらべると二酸化炭素の吸収スピードが約7倍なんだそうです。使えば使うほど地球にやさしいテーブルなんですよ。

山本さん :

よく見ると、ケナフの繊維がそのまま見えるのがわかります。最近はメラミン化粧板でも本物と見分けがつかないようなリアルな木目の表現ができるようになっていますが、やはり本当の天然素材を見ると豊かで深い質感があるなぁと感じられます。

山本さん :

一般的に、テーブルのふちには樹脂製のエッジテープを巻くことが多いんですが、このテーブルでは素材そのままのナチュラルな質感を出したいと思い、あえて中の芯材がそのまま見えるような仕上げにしています。

「この素材感が本当にかわいいですよね」と熱く語ってくださった山本さん

新素材への挑戦は難しい。でも、新しいことばかりだから楽しい。

――環境にやさしい新素材を使った開発には、従来の開発とは違った難しさがあるのでしょうか。

山本さん :

ありますね。プラスチックなど、これまで広く使われてきた素材は、扱い方や特徴の知見が溜まっています。世界中で多く使われているだけあって、コストも安い。工場の生産ラインも、その特徴に合わせたものになっているので、効率的に製造できるんですね。

でも、新素材にはこれまでの常識が通用しません。あまり使われていない素材なのでコストもかかりますし、どうやって成型すればいいのか、工場はおろか、素材メーカーさんですら十分わかっていないこともあります。

先ほどお話したもみ殻を混ぜた素材を使ったときは、温度問題がありました。成型するときに200度ぐらいまで温度が上がるのですが、混ぜられたもみ殻が焦げてしまい、色が黒っぽくなってしまったんです。工場が焦げ臭くなってしまい、メーカーに叱られたりもしました。

左側がもみ殻を混ぜ込んだ新素材で作ったもの、右側が一般的なプラスチックを使って作ったもの。実物を見ると、風合いが異なるのがよくわかる
山本さん :

このような試行錯誤は、我々だけでなく世界中で新素材にチャレンジしている人がみんな直面している課題なんじゃないかと思います。

――困難があっても挑戦し続けられるのはなぜでしょうか。

山本さん :

ものづくりが好きだからですね。新しい挑戦ばかりなので、暇を感じることがないんですよ。確かに大変なことばかりですし、次々と新素材に挑戦することで自らハードルを上げているような気もするんですが、やっぱり楽しさや好きが勝つんですよね。

今は素材メーカーさんだけではなく、いろいろな会社さんやプロジェクトがエコ新素材を開発していまして、週に3、4回は新素材をご紹介いただけるんです。特にここ1年はすごいペースで新しい素材が出てきていて、飽きる暇がない。「これは可愛いからテーブルにしてみよう」とか、常に何かしらアイディアを考えている感じですね。

――お話されている様子からも、「好き」が伝わってきます。

山本さん :

ありがとうございます。私だけではなく、素材開発をされている方もみんな楽しそうですよ。私もそうですが、単に環境にやさしい取り組みをしたいというだけではなく、「おもしろいことをしたい」「こんなものができちゃいました」というものづくりモチベーションが高い人のほうが多い気がします。

今年4月のオルガテック2023では「サステナビリティをたのしみ、とどけ、つなげる。」というメッセージで、研究段階のものも含めたいろんなエコ素材でつくったスツールを出展しました。

提供画像:オルガテック2023での展示
山本さん :

ドリップ後のコーヒー豆かすや、工場から出る廃材、段ボールなど、将来的な家具づくりの可能性にチャレンジする姿勢をお伝えしました。来場くださった多くの方から共感の声、期待の声をたくさんいただけたので、イトーキとしてはハードルが上がった状態ですね。(笑)

新素材での商品開発は未知なことばかりで、本当に難しいです。でも、ものづくりに携わる人たちにサステナブルな商品開発を苦しいものだとは思ってほしくないんですよね。後輩たちに「自分もやってみたい」と思ってほしい。

「エコな開発って楽しそうじゃないね」とは思ってほしくないので、大変なときも楽しんで挑戦している背中を見せられるよう、楽観的でいようと心掛けています。開発体制もサステナブルでないといけませんから。

サステナブルな商品を送り出す最終ランナーとして、これからも魅力的な商品を作りたい

――最後に、今後への思いをお聞かせください。

山本さん :

環境問題がクローズアップされるなか、新素材に目を向ける人たちも増えています。新素材を使って家具にする私の役目は、世の中に送り出す最後のランナーだという感覚があるんです。商品開発に携わる者として、お客様に「エコだから」ではなく「この家具のデザインが好みだから」「居心地がいいから」選んでもらえる家具を作り続けたいですね。

その意味では、木を使った商品づくりも活発にやっています。

サステナブルな観点として「日本の森を守る」「二酸化炭素を固定化する」という意図もあるのですが、家具づくりの観点では「木から感じる心地よさ」が何よりも大きいと感じています。働く私たちにとって「どんな気持ちで働くか?」の部分が、以前よりも大切になってきていますよね。つい先日も、木を使った商品シリーズをリリースさせていただきましたが、どんな人にとっても親しみのある材料なので今後も商品を増やしていきたいですね。

提供画像:Feel So Wood 木があると、働く時間が心地よい
山本さん :

個人的に、「CO2をこれだけ減らそう」というのはあまりモチベーションにはならないんですよ。「カーボンニュートラル」って大きな話すぎて実感が持ちづらいですし、目には見えないので変化も分かりづらいですから。それはお客様もそうだと思っています。だから、「環境にはやさしいけど見た目がイマイチ」ではなく、シンプルに「可愛い、おしゃれ」なものを届けたいですね。

サステナブルな新素材はまだコストが高い分、商品も従来品より割高になってしまうという事情があります。お客様のなかには「少し高くなっても、環境のために投資したい」という方もいらっしゃいますが、やはり価格がネックになることには間違いありません。そのハードルも、「機能がいいから」「見た目がいいから」、その上で「しかも、エコだから」となるといいのかなと。

開発した商品を見つめる山本さんの目は、我が子を見つめる親のよう
山本さん :

弊社のオフィスには多くの方が訪れるので、新素材を使った家具を実際に体感していただけるのがいい点だと思っています。「環境にはいいんだろうけど、エコなものって高いよね」と思っている方にも、実物から商品としての魅力を感じていただけると嬉しいですね。

ただ、エコを啓蒙していきたいという想いがある一方、ジレンマもあります。新しいものを生み出すのが家具メーカーとしての我々のミッションですが、頻繁な買い替えはエコではないんですよね。たとえば、1度買ったものを30年使っていただいたほうがトータルのエネルギー量は減りますから。

エコって、活動を続けていくと企業が儲からないという矛盾があるんですよ。家具メーカーとして、ものづくりに携わる1人として、ここの部分をどうしていくのかは今後も考え続けるべき課題だなと思っています。

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