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すべてのオフィスを、社員の自律性を育む場へ。富士通のワークプレイス構築への想い

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「スーツ着用、定時出社、固定された場所」という、かつての日本企業の典型的な働き方から一新。現在は、『自分やチームの生産性を最大化する』という考え方が軸となっています。働く時間や場所の選択肢が社員一人ひとりに広がり、自律的な社風へと大きく変化した富士通株式会社。その結果、縦割り組織の壁が取り払われ、自発的な社内イベントが次々と生まれるなど、活発な共創文化へと様変わりしているといいます。オフィス構築と運用の工夫、そしてその実態について、総務本部の赤松さん、長倉さんにお話をうかがいました。

赤松 光哉
インタビュー
赤松 光哉
富士通株式会社 総務本部 ワークスタイル戦略室長

2001年富士通株式会社に入社後、立地戦略、ワークプレイス構築、工場再開発など、 CRE業務に従事。ワークプレイス構築においては、インハウスのファシリティマネージャーとして社内の大型案件を担当して多くの賞を受賞。最近ではハイブリッドワークのフラッグシップ拠点である富士通ユーヴァンス川崎タワーを建設しました。2021年4月にワークスタイル変革を推進するワークスタイル戦略室長に就任。現在は富士通におけるワークスタイル変革にとどまらず、これまで社内実践し続けてきた努力を年間200社以上に紹介し、 オフィスリニューアルや働き方改革のサポートも行っています。

長倉 渚
インタビュー
長倉 渚
富士通株式会社 総務本部 ワークスタイル戦略室

富士通入社後、総務部門にてオフィスサービス業務に従事する傍ら、富士通のチアリーダー部「フロンティアレッツ」で活動。2021年よりワークスタイル戦略室にて、働き方改革「Work Life Shift」の推進を担当し、社員のエンゲージメント向上に取り組んでいる。現在は、働き方に関するデータ分析やライブオフィスツアー、ワークショップを通じて、これまでの取り組みから得られた実践知を社外へ発信している。

自律的な働き方へ一新。時間や場所にとらわれないフレキシブルなワークスタイル

卯岡(workrary.ライター) :

まずは、会社のご紹介と、お二人の自己紹介をお願いいたします。

赤松さん :

富士通は、「さまざまなテクノロジーを使って社会課題を解決する」というミッションに向けて事業を展開している会社です。私たちは総務本部に属しており、富士通全体の働き方に関する施策を検討し、分析する役割を担っています。私はワークスタイル戦略室の室長として、その取り組み全体を統括する役割を担っています。

長倉さん :

総務本部で検討した働き方を社員に浸透させるための施策を考えたり、現在の富士通の働き方を外部のみなさんにご紹介することが主な役割です。

フリーアドレスとスーパーフレックスが実現する自律性

卯岡 :

現在の働き方の特徴を教えてください。

赤松さん :

現在は、フリーアドレス制とスーパーフレックスを採用しています。就業時間は設定されていますが、社員は個々の状況に合わせて執務時間を柔軟に調整できます。例えば、保育園の送迎や、海外拠点との連携による時差を考慮し、個人の裁量で執務時間を設定するなど、高い自律性を発揮しながら働いています。

また、フリーアドレス制というと、「オフィス内の働く場所を自由に選べる」というイメージが強いかと思います。しかし、弊社の制度は範囲を拡大しており「今日はどこの拠点で働くか」という、オフィス自体も自由に選択できるスタイルを採用しています。個々の業務や状況に応じて、最適な場所で働くことができます。

私や長倉は人事上の登録ではFujitsu Tecnogly Park(以下、FTP)に属していますが、必ずしもFTPに出社しなければいけないというルールはありません。

長倉さん :

私は来客対応が多いため、所属しているFTPよりも、本日お越しいただいたFujitsu Uvance Kawasaki Tower(以下、UKT)への出社を多めに選択しています。もちろん、週に1度はFTPにも出社するなど、柔軟に働く場所を選択しています。

赤松さん :

私もUKTへの出社が多いです。

卯岡 :

働く場所が「自宅かオフィスか」は、業務内容やご家庭の事情で選ぶイメージがありますが、社員の皆さんは「どのオフィスに出社する」かを、具体的にどのような基準で判断されているのでしょうか。

赤松さん :

出張予定に合わせて新幹線の駅に近いUKTを選んだり、対面の打合せの際に、参加メンバーの集まりやすいオフィスを選んだり、社員一人ひとりがその日の状況に応じて選択しています。

長倉さん :

私は、参加したい社内イベントが開催される拠点に出向くなど、コミュニティや繋がりを求めてオフィスを自由に選択しています。

卯岡 :

イベントもあるんですね。ぜひ後ほど詳しくお聞きしたいと思います。

ルールから自律へ。働き方改革の浸透と多様な選択肢

卯岡 :

こうした働き方はいつから採用されているのでしょうか。

赤松さん :

働き方の方針転換は2020年から実施しました。オフィス出社への考え方だけを変えるのではなく、人事制度の改定、ITツールの刷新、組織トップの意識改革など、多角的な施策を同時に行ったこともあってか、想像以上にスムーズに浸透したと感じています。

服装規定も変更されたものの一つです。それまではスーツ着用、クールビズ期間以外はネクタイ必須の典型的な日本企業でしたが、現在は社員に選択肢を委ねる形へと変更しました。「お客様に会うからネクタイを着用する」「今日は一人で集中して作業する日だから

リラックスできる服装で」など、社員自身が判断するという自律的なスタイルへと移行しました。

卯岡 :

まさに「ルールから自律へ」の移行を象徴する変化ですね。出社頻度にルールはあるのでしょうか。

赤松さん :

出社頻度に関する全社的な一律ルールは設けておりません。その代わり、「その人、その部署にとって最適な働き方を追求する」という方針を軸に運用しています。出社回帰の流れもありますが、全社的な出社回帰の予定は今のところありません。社員の生産性と最適な働き方を最優先する方針を継続していきます。

この方針の結果、週に数回のリモートワークを組み合わせるチームもあれば、業務の性質上、フル出社で活動しているチームもあります。当社におけるリモートワークはあくまで生産性を高めるための「手段」であり、社員の権利や権限として付与されているものではない、という点は特に新たに入社してくる社員にも明確に伝えています。

長倉さん :

私は子育て中なので、子どもの送迎や通院時に仕事を中断したり、夏休みは早朝に働くようにしたりと、働き方改革のおかげで働きやすさが格段に向上しました。ただ、オフィスにいるほうが得られる情報量が多いと感じるため、必要なときには出社しています。選択肢がたくさんあることが働きやすさにつながっています。

あらゆる社員にとってベストな環境を。どの拠点でも同じように働けるよう、オフィス作りを統一

Hub Office「Osaka」
卯岡 :

オフィス運用や構築をするうえで大切にされていらっしゃることを教えてください。

赤松さん :

私たちが意識しているのは、特定の人にとってベストな空間ではなく、あらゆる社員にとってベストな環境をつくることです。その上で、社員一人ひとりが最適な働き方を選べる余地を残すことを最重要視しています。

長倉さん :

拠点によって差が出ないよう、サービスの品質と環境を平等に提供することを大切にしています。

赤松さん :

誰がどこのオフィスを使うかを定めていない働き方の特性上、国内にいる社員7万人が、どのオフィスに来ても快適に使える環境を目指しています。以前はオフィスごとに入居者の意見を反映して拠点毎のカスタマイズがされていましたが、現在は共通コンセプトのもと、すべての拠点の環境を統一しています。

Hub Office「Kyoto」
Hub Office「UKT」
長倉さん :

オフィス拠点が全国約60拠点あるのですが、どのオフィスに行っても戸惑うことなく同じように働くことができます。

卯岡 :

大きな変化ですね!統一されたことで、運用面にも変化がありましたか?

赤松さん :

運用体制が統一化されたことで、サービス提供の省人化など、大幅な効率化を実現しました。備品や美観管理は外部に委託しており、社内の問い合わせ対応にAIを導入し、省人化を実現しました。また、ペーパーレス化も推進した結果、書類量は95%ほど削減されています。

卯岡 :

美観を維持するために、社員の皆さんに対して行っていることはありますか?

赤松さん :

レイアウトを元に戻すようになど、働きかけはしていますが、これだけの人数がいる会社ですので、なかなかそれだけで維持するのは難しいです。いつでも整っているのは委託先のスタッフのおかげですね。

チームビルディングとコミュニケーション機会の創出

卯岡 :

どのオフィスでも自身のスケジュールに合わせて働けるとなると、チームメンバーが顔を合わせる機会が減ってしまったりはしないのでしょうか。

赤松さん :

その判断はチームに任せられていて、完全に自由なチームもあれば、定期的な対面でのコミュニケーション機会を設けるチームもあります。リアルなコミュニケーションの必要性は、業務内容やチームビルディングによって大きく異なるためです。そのため、一律のルールは設けず、生産性を最大化するための自律的な運用を各チームに任せています。

長倉さん :

私たちワークスタイル戦略室は3カ月に1度くらいのペースで20〜30人が同じオフィス拠点に集まるようにしています。

赤松さん :

新メンバーが加入したときや、新しいプロジェクトを始めるときは、頻度高く集まるなど工夫しています。

赤松さん :

物理的に同じ場所で働く頻度が減ったことで、マネージャー陣は、自ら部下とコミュニケーションを取ろうと意識するようになりました。月に1〜2回以上、30分間は部下と1on1を行うことが管理職のルールとなっており、定期的なコミュニケーションが図られています。

長倉さん :

私は週1で上司に1on1をお願いすることもあります。

赤松さん :

1on1では、仕事の話だけでなく、互いのことを深く知るための仕事以外の話題も大切にしています。最初は仕事以外のテーマで30分間会話するのは難しいかもしれませんが、継続するうちに会話が弾み、良好な関係性が築かれていくと実感しています。その結果、「悩んでいそう」「モチベーションが落ちていそう」といったサインも察知できるようになります。

長倉さん :

テーマを登録するツールはあるのですが、私自身はあえて何も書かずに臨むことがほとんどです。また、非常に役立っているのが、斜め1on1です。これにより隣接部署の上司や他部門の上司と話す機会も増えました。

赤松さん :

直属の上司は評価者ですから、隣接部署の上司のほうが相談しやすいこともあるんですよね。内容によって、隣接部署の上司から本人の上司に話を通すなど、状況を好転させるために活用されています。

長倉さん :

私は子育て経験のある方との場をつくってもらいました。子育てに役立つ便利なサービスを教えてもらえて助かりましたね。

卯岡 :

制度だけでなく、そうした生活に直結する知恵を共有できる場があるのは心強いです。

各拠点で行われるさまざまな社内イベントが、横のつながりを生むきっかけに

卯岡 :

社内イベントによって出社オフィスを決められることがあるというお話でしたが、どういったものが行われているのでしょうか。

長倉さん :

私は英語圏の社員と話せるイングリッシュランチにふらっと参加したりしていますね。自分の英語力を高めたくて。毎週行われているんですよ。

赤松さん :

写真の得意な社員がプロフィール写真を撮ってくれるイベント、eスポーツ大会、外部の方を呼んでのセミナーや勉強会など、いろいろなイベントがあります。役員がいろいろな拠点で対話するイベントもあり、「部門は違うけど覗きに行こう」といった形で、社員が積極的に他の拠点へ足を運ぶきっかけにもなっています。

長倉さん :

写真撮影イベントは人気が高く、抽選制になっているほどです。

卯岡 :

イベントに参加したいからこのオフィスに行ってみるという動きが生まれると、自然と横のつながりも生まれそうですね。

赤松さん :

横のつながりの広がりには、大いに期待しています。リアルなコミュニケーションを求める社員が増加しており、イベントも自発的に企画されるようになっています。キャリア採用が多いため、中途社員オンリーのランチ会が開かれていたり、Z世代のコミュニティが生まれていたり、本当に多様な場ができています。5年ほど前までは、とにかく決められたことを実施する社風や縦割り組織が特徴でしたが、大きく変化したと思います。現在は、社員が積極的に意見を出しやすい社風へと変化したと感じていますね。企画したことを社内コミュニティで宣伝している社員も多く見られます。

長倉さん :

イベント以外にも、コミュニケーションを活発にする仕掛けがありまして、例えばUKTには、愛犬と出社できる予約制のスペースがあります。「犬好き」という共通点がコミュニケーションのきっかけになることも多いようです。

卯岡 :

今日は全室埋まっているんですね!

登録されている社員の愛犬たち。同じ犬種を飼っている社員がいることを知れる場に
長倉さん :

こちらは、お客様やパートナー企業の方、アルムナイのメンバーなどが使える登録制のスペースです。17時半からは懇親会の場としても活用されています。

卯岡 :

広いですね!

長倉さん :

同じスペースに、スタートアップ企業とのコラボレーションを行う場所もあります。スタートアップとの取り組み自体は以前より積極的に行っていますが、場所を設けるのはこのオフィスが初めてなんです。

卯岡 :

社外の方とのコミュニケーションスペースとしても機能されているんですね。

方針転換への適応と課題

卯岡 :

働き方の変化に、社員の皆さんはスムーズになじめたのでしょうか。

赤松さん :

当初は「部下を出社させたいが、指示していいものか」や「所属以外のオフィスに出社したいが、上司に許可を得なければいけないのか」など、上司・部下双方から「会社として方針を決めて指示してほしい」という戸惑いの声が多く上がりました。そこで、マネージャーとチームの自律的な判断範囲を明記したプレイブックを作成し、運用をスタートさせるなどして現在のスタイルに定着しました。

また、上司側から「部下の仕事の進捗がわからなくなるのでは」という不安の声は多かったですね。しかしながら「では、隣に部下がいたときにはわかっていたのか」というと、必ずしもそうではないと思っています。ただ、隣に部下がいることで、コミュニケーションを取ろうと意識しなくても情報が入ってきていた部分はあったでしょう。

長倉さん :

オフィスの使い方についても、フレキシブルに使ってもらうために各部門が特定のオフィスに根を張ることのないよう、個人や部門の荷物をオフィスに置けないようにしたのですが、「オフィスに置いていたこれはどこに置けばいいのか」といった具体的な問い合わせが来た程度です。社員は、私たちが想定していたよりもはるかにスムーズに、新しいスタイルに順応してくれました。

卯岡 :

どこでも働けるとなると、各オフィスの利用状況や会議室の運用など悩まれる会社さんも多いですが、富士通さんではどのように管理されているのでしょうか。

長倉さん :

オフィスの込み具合や、どの拠点に誰がいるのかは、自社で開発したツールで全社員が確認できるようになっています。PCでもスマホでも見れるので、それをもとに各々やチームで働く場所を選択する形です。私はネゴシエーションや情報収集のためにも出社しているので、誰がどこにいるかわかるのはありがたいです。

赤松さん :

会議室は、非効率稼働を防止するために空予約時に予約が解除されるシステムを導入しています。天井に埋め込まれているこちらです。

卯岡 :

あっ、この丸いやつですね。

赤松さん :

そうです。こちらも弊社の技術でして、介護施設で使われているシステムを活用しています。

卯岡 :

すごいです・・・!社員の方々の意見はどのように収集されているのでしょうか?また、要望を受けて改善されたことはありますか?

赤松さん :

社内SNSで働き方に関する意見を常時受け付けているほか、年に1度のオフィスサーベイを実施しています。そこで集まったコメントをAIで分析し、改善の優先順位をつけて対応するなど、継続的な環境整備を行っています。

長倉さん :

サーベイの結果では8割以上の社員がオフィスに対して満足してくれているため、あまり大きな変更点はありません。働き方の柔軟性、選べるようになったことへの満足度が高いのかなと思います。

赤松さん :

そうですね、拠点によってオフィスがチームの共創を促す場としての意味合いを強めているところがあります。一方で、オンライン会議の増加により、多くの社員がヘッドセットを付けて仕事をする光景も見られるようになり、対面とオンラインのバランスをどう取っていくかが現在の課題です。ビジネス環境の変化に合わせて、今後も柔軟に対応していく必要があります。

あとは、イベントがとにかく増えているので、オフィスがイベントスペース化しているという側面もあります。このことを考慮し、什器を動かしてイベントを開ける場にしようと計画しています。社員が自分たちだけで簡単にレイアウトを変更し、多様な活動に対応できるようにと考えています。

長倉さん :

イベントの増加自体は良いことですが、オフィスが単なる場所貸しのスペースにならないよう、戦略的な対応が必要です。今後は、ビジネスに貢献できるイベントを開催できるよう、環境を整備していく必要があると考えています。

卯岡 :

今後どのように進化していくか、楽しみです!

ワークプレイスは会社のパーパスを実現するための場

卯岡 :

それでは最後に、富士通オフィスで働く皆さまへのメッセージをお聞かせください。

長倉さん :

オフィスは、コミュニケーションを活性化させ、体験できる場、新しい発想を生み出す場だと捉えています。ハイブリッドワークで活用してもらえたら嬉しいですね。そのためには、社員の皆さん自身が自律的にどう働くかを深く考えてもらう必要があると思っています。生産性高く働ける働き方を考え、実践してもらえると嬉しいです。

赤松さん :

オフィス、家を問わず、ワークプレイスは会社のパーパスを実現するための場です。社員一人ひとりがそこで何をすべきなのかを考え、オフィスをどう使うかではなく、どう働くのかが自分にとってのベストなのかを考えてもらえたらと思います。なぜ働くのかを意識して、日々業務に取り組んでいただけると嬉しいです。

取材先:

富士通株式会社

https://global.fujitsu/ja-jp 公式サイト