「出社したくなるオフィス」はどうつくる?
明治ホールディングスが実践した、社員参加型リニューアルの進め方
オフィスは、社員全員が毎日利用する共有空間。だからこそ、移転やリニューアルでは「社員の声を反映して、満足度の高いオフィスを作りたい」と考える企業が多いでしょう。しかし実際には、意見がまとまらなかったり、一部の社員しかプロジェクトに参加できなかったりと、理想を体現するのは難しいものです。
明治ホールディングスでは、各部署の有志によるプロジェクトチームを結成し、プロジェクトメンバーがハブになることで広く社員の声を集約する仕組みを構築。プロジェクトメンバー以外もリニューアルに参加できるよう、壁画制作などのイベントを企画し、新しいオフィスに愛着を持つ社員の増加につなげました。
今回は、具体的なプロジェクトの進め方や工夫などについて、同社リスクマネジメント部総務グループの加藤健二さん、経営管理部連結グループの山野邉一貴さんにお聞きしました。
2007年に明治製菓株式会社(現 株式会社明治)へ入社し、菓子営業に従事。2010年より本社へ異動し、生産部門にて生産管理・費用管理などを中心に約11年間担当。2022年からは工場にて総務業務を経験。2024年より明治ホールディングス株式会社に出向し、リスクマネジメント部にて株主総会運営および不動産管理業務を担当。明治京橋ビルフロア改修プロジェクトを立ち上げ、推進を担う。
2015年にMeiji Seika ファルマ株式会社へ入社し、約6年間MRとして医薬品/ワクチン営業に従事。2021年より明治ホールディングス株式会社に出向し、 経営管理部にて連結財務情報の作成・開示業務等を担当。明治京橋ビルフロア改修プロジェクトに参画し、財務的視点からの意見提言を通じてプロジェクトの円滑な推進に貢献する。
社員から有志を募り、リニューアルプロジェクトを組織
まずは、御社の概要からお聞かせください。
当社は、食品事業を担う「株式会社 明治」と、医薬品事業を担う「Meiji Seika ファルマ株式会社」を傘下に持つ持株会社です。事業会社では、人々の健康と豊かな社会に貢献することをめざし、「食品」と「医薬品」を両輪として事業を展開しています。
明治グループと聞くと、チョコレートや牛乳などのロングセラー商品を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。実際に事業を行わないホールディングスも、自社グループの製品やサービスに対する理解が薄く、特にニッチな製品や新しい取り組みはキャッチアップできていないことが少なくありません。
今回のリニューアルでは、「出社したくなるオフィスづくり」を最重要課題として「明治らしさ」を全面に出し、事業への愛着を深めてイノベーションの促進につながるようなオフィスづくりをしたいと考えました。

私はもともと医薬品事業の出身なので、食品に比べて認知度が低いとは感じていました。今回のリニューアルでは、「明治らしさ」の中にどう医薬品を組み込むかについて、積極的に意見を出しています。
おふたりは、どんな経緯でプロジェクトに参画することになったのでしょう。
私は、2024年からホールディングスで株主総会の運営や不動産管理業務に関わっており、リニューアルが決まった際に声がかかりました。より出社したくなるオフィスをつくろうという副社長からの呼びかけで、竣工以来ほとんど手つかずだった10階の執務フロアと11階の食堂を改革することになったのです。
私は、MRとして医薬品やワクチンの情報提供活動に携わった後、2021年からホールディングスの経営管理部で連結財務情報の作成・開示業務等を担当していました。リニューアルプロジェクトには、公募に応じて参加した形です。通常業務に支障はないとはいえ、以前のオフィスはかなり殺風景でしたから、潜在的な不満があったのかもしれません。社内の雰囲気がより明るく、居心地よいものに変わるなら協力したいと思いました。
呼びかけに応じて、多くの社員の方が参画してくださったそうですね。
幸いなことに、ほぼすべての部門のメンバーが参画してくれました。
以前のオフィスと食堂はただ机が並んでいるだけの空間でしたから、山野邉さんのように「もっと良い空間に生まれ変わるなら参加したい」と考える方が多かったのかもしれません。

まず取り組んだのは「社員の声」を集めること
プロジェクトは、何からスタートしましたか。

まずは、オフィス満足度調査を行い、現状のオフィスの問題点や期待する改善点を吸い上げました。環境面には特に不満がないという社員が多かったのですが、私自身も日常的な業務をするうえでは特に問題を感じていませんでしたから、比較対象がなく変わるイメージがつかない段階では当たり前の反応だったと思います。
最も満足度が低かったのはコミュニケーションに関する点で、特に「会議室が足りない」「ちょっとした打ち合わせができる場所がない」といった声は多く挙がっていました。
プロジェクト開始後は、どのように社員の皆さんの意見を吸い上げましたか。
各部門にプロジェクトメンバーがいたので、プロジェクトの決定事項を部署と共有したり、逆に部署のメンバーから要望を聞いてプロジェクトに提案したりといった動きがスムーズでした。
各部門の特性によって、意見の内容が違う点もプロジェクトの進行に役立ったと思います。
たとえば、私のいる経理部門からは予算の観点から多くの意見が出ていました。
食堂のほうは、「食堂委員会」を再活性化させました。「食堂委員会」は、もともと食堂の運営を司るために存在していた組織です。近年は売上の報告などに終始して形骸化していましたが、委員会のメンバーが食堂の歴史と改善すべき点を最も知っているメンバーであることに変わりはありません。リニューアルの主旨を説明したところ、快く協力してくれることになりました。


総務のつながりも活かして業者を選定し、コンペで決定
コンセプトの体現には業者選定が肝になりそうですが、選定の流れを教えてください。

最初から1社に絞ると方向性が限られる懸念があり、コンペにしました。私たちの希望をお伝えして、それをどのように実現できるか、よりよいアイデアがあればそれも加味して提案してもらう形です。もともと、ちょっとした改装などをお手伝いいただいていた会社にお声がけしたほか、他社の総務の知り合いや社員の伝手を頼って地道に探し、最終的には3社のコンペに。結果として、以前からお付き合いのあった会社さんがコンペを勝ち抜き、フロアの設計を担当してくれました。
食堂のほうはいかがでしたか。
食堂をレイアウトから提案してくれる業者さんが全く思いつかず、まずは当ビルのオフィス内装を担当している業者さんに声をかけました。次に、総務同士のつながりがある会社の食堂を見せていただき、業者さんの紹介を依頼。最後に、オフィスのほかフードコート、飲食店などのデザインを手掛ける会社をネットで見つけて、執務フロアと同様に3社コンペにしました。
こちらは、ネットで見つけてきた会社に決まっています。
オフィスも食堂も大規模なリニューアルですが、限られた予算のなかで優先順位はどのように決めていったのでしょうか。

「あれもやりたい、これもやりたい」とアイデアがふくらみますが、予算には限りがあります。プロジェクトのメンバーを通じて社員の声を集めながら、限られた投資をどこに振り向けるかを慎重に決めていきました。私自身、経理として費用対効果は常に意識していましたし、部署のメンバーからも予算を意識するコメントが多かったと記憶しています。

リニューアルして終わりではない「育てるオフィス」
リニューアルを経て、オフィスはどのように変わりましたか。
一番大きな変化は、「出社したくなる場所」になったことです。以前はフロア内にメリハリがなく、シンプルに集中して働く場所でした。リニューアル後は、雰囲気が大きく異なる「集中して作業するエリア」「活発なコミュニケーションを促すエリア」「リラックスして仕事できるエリア」の3つができたことで、社員一人ひとりが想定していた以上に空間を上手に使い分けてくれていると感じています。

結果として部署間で顔を合わせる機会も増え、「以前より話しかけやすくなった」「出社したくなった」という声も届き始めました。私たちが目指した「ワクワクするオフィス」に少しずつ近づいている実感がありますね。

食堂は、単に食事をする場所だけではなくなりました。個室感のあるブースやレイアウトを自由に変えられるテーブルを設けたことで、打ち合わせや一人で集中して作業する場としても活用されています。お客さまとミーティングをした後、食事をする光景も見られるようになりました。

また、食堂が事業と社員をつなぐ場になったことは大きな変化だと感じています。健康に配慮した「スマートミール」の提供に加え、自社商品のサンプリングや新メニューの実証などをすることで、社員が日常のなかで事業に触れられる機会が増えました。社員からも「以前より利用したくなった」「人を案内したくなる場所になった」という声があり、福利厚生施設という枠を超えて、コミュニケーションや事業理解を深める場へと変化している実感があります。
リニューアル後も総務として意識していることを教えてください。
完成して終わりではなく、社員の声を聞きながら改善を重ねてこそ本当の価値が生まれると思っています。実際、フリーアドレスで「誰がどこにいるかわからない」という新たな課題に対しては、Teamsのステータスを使った位置表示を試したほか、名札の導入を検討するなど利用実態に応じて変化を続けています。
リラックスエリアに置かれた牛のオブジェは、会話のきっかけになるよう、季節ごとに衣装を変えているんですよ。

お菓子コーナーに自社商品を置くようにしたことも、事業理解や、社員同士の会話のきっかけになっています。
食堂でも、事業部門から「サンプルを置いてほしい」「コラボレーションしたい」といった声が上がるようになりました。今後は、グループ会社のチャレンジド社員によるコーヒーの振る舞いイベントなど、新たな交流施策も企画する予定です。
最後に、今後の展望を聞かせてください。

今回は執務フロアと食堂に特化したリニューアルでしたが、今後は他フロアの改革も進めていく予定です。今回得た知見や社員の声を活かしながら、次のフェーズでもぜひプロジェクトに携わりたいと思っています。
社員みんなで、オフィスと食堂を「人と人」「人と事業」をつなぐプラットフォームへと進化させていきたいですね。