NECが挑む新たなフラッグシップ拠点に見る、パーパス経営の現在地
創業以来、電話交換機やパソコン、携帯といった「目に見えるハードウェア」で日本の社会インフラを支えてきたNEC(日本電気株式会社)。ハードウェアのコモディティ化が進んだ2010年代以降は、製品そのものだけでなく「社会課題を解決する」ことを価値として提供するビジネスモデルへシフトし、デジタル技術で社会をアップデートする企業として確かな存在感を発揮しています。
こうした変化を支えたのが、新たな事業モデルにフィットした働き方の導入と、理想の働き方を実践するためのワークプレイスの整備です。今回は、「社会価値の創造」というPurposeの実現に向けたオフィス改革の集大成といえるフラッグシップ拠点「NEC Innovation Park」の特徴と、新拠点から描くNECの未来について、新棟プロジェクトを牽引した大嶋さん・榎さんにお話を伺いました。
住宅・家具メーカーでの営業を経て、外資系企業にてオフィス拡張・集約・移転・改修等様々なオフィス関連プロジェクトやオフィスサービス運用など、ファシリティマネジメントに従事。2021年にNECへ入社後は、玉川エリアのオフィス集約とリニューアルをあわせて行う不動産最適化プロジェクトのマスタースケジュール策定から実行責任を担う。直近では新棟プロジェクトにおいて内装工事全体を統括し、設計・調達・施工・運用を見据えたプロジェクトマネジメントをリード。
外資系不動産会社にて、働き方や働く環境に関するコンサルティング業務に従事してきた。医療機器メーカーを経て、2024年にNECへ入社。玉川エリアの担当として、フロア標準化や全体最適の観点から不動産最適化および機能改善プロジェクトに取り組む。新棟プロジェクトではメンバーとして、内装工事における家具什器、引越、ユーザーコミュニケーション、発注管理などを担当した。
目次
社会価値創造企業への変革に向け、働き方と働く場所をアップデート
近年の御社は、「IT機器を製造・販売する企業」から「社会価値を創造し、提供する企業」へと進化している印象です。現在の事業内容と特徴についてお聞かせください。

かつてNECは、パソコンをはじめとした個人向け製品や半導体、電子デバイスなどのハードウェアを製造・販売する企業として確固たる地位を築いていました。
2010年以降は、市場の成熟や競合の増加を踏まえて自らの存在意義を再定義し、2013年には、社会価値創造企業への変革を宣言し、事業の転換を進めています。
具体的な事業としては、ITサービスと社会インフラを2本柱として、将来的な成長が期待できるヘルスケア・サイエンス事業を含むその他事業にも注力。海底から宇宙まで、幅広い領域で事業を展開しています。特に最近は、AIとセキュリティを新たな柱に据え、独自開発の生成AI「cotomi(コトミ)」 、国家レベルのインフラで活用されている生体認証技術などの開発と実装に取り組んできました。
時代を読んだ事業構造の改革を成功させるには、社員の働き方のアップデートも不可欠ですね。働き方改革は、どのように進めてきたのでしょう。
業務の性質が変化すれば、当然ながら成果を出すための働き方も変わります。私が2021年に入社した時点で、コアタイムのないスーパーフレックス制がスタートしていました。オフィスのフリーアドレス化やサテライトオフィスも少しずつ導入され始め、自前主義を支える縦割り型からチーム共創型への転換が進んでいる状況だったと記憶しています。
さらにこの数年で、「出社して何となく働く」ではなく「目的意識をもって働く」へと視点が移り、働く場所や時間は自分で選択できるプロアクティブなスタイルが推奨されるようになりました。
では、オフィスの役割も変わっていったのですね。

そうですね。単なる作業の場から、人と人がつながることによって新たな発想や価値が生まれる共創空間へと役割が広がっています。
ただ、従来の玉川事業場は固定席が多く出社を前提としたつくりだったため、そのままでは変化に対応するのが困難でした。そこで、「Communication Hub」や「Innovation Hub」の考え方に基づいて環境を整備したりして、共創を促してきたのです。
私は入社以降、こうしたオフィス戦略の企画・実行を担い、玉川エリアを中心とした不動産最適化や働き方改革を牽引してきました。不動産最適化プロジェクトには榎さんも参画してくれています。そのときの経験と実力を見込んで、Purposeを実現するためのフラッグシップ拠点「NEC Innovation Park」プロジェクトにもアサインした形です。
Communication Hub:心を繋ぎ、可能性を引き出す
チームによるオープンで活発なコミュニケーションにより、ベクトル合わせと信頼関係の構築ができる場
Innovation Hub:社会とのつながり、未来の共感を創る
誰でも使える、外の人を呼びたくなる 組織の垣根を超えて使いたくなる場
各エリアに明確な役割を持たせ、「NEC Innovation Park」全体でPurpose実現をめざす

「NEC Innovation Park」は「あつまる・うまれる・ひろがる」というスタッキングコンセプトに沿って設計しました。高層階に顧客やパートナーとの共創フロア、中層階にオフィスフロア、低層階にNECの研究者や産学連携による実証実験に最適なラボ機能を設けたフロアとして、3層の構成としています。エントランスフロアは2階となっています。

まず、2階のエントランスは「あつまる」のコンセプトに基づいてセキュリティラインを工夫しており、ゲート前までは誰でもアクセスできるようにしました。カフェやタッチダウンスペースは、NECを身近に感じてもらえるよう、当社の社員のみならずお客さまや地域の方にも広く開放しています。
カフェやタッチダウンスペースを地域の方にまで開放するというのは、単なるおもてなしではなく、NECが社会と共にある存在でありたいという意志の表れではないでしょうか。「あつまる」というコンセプトが、建物の設計だけでなく、人と企業の関係性そのものを再定義しているように思えます。

天井高は約5mと開放感があり、入口からシンメトリーに配された6本の柱がシンボリックな役割を果たしています。柱には、90度の角度でも美しく表示できる特殊なLEDパネルを設置し、さまざまな情報を発信できるようにしました。4月7日のオープン時には、マスコミ発表に合わせて「NEC Innovation Park」の名称を表示する演出も行ったんですよ。

天井が高くて、とても開放的ですね。柱のLEDパネルも、角まで映像が続いているのが新鮮でした!そして、なんだかアロマの良い香りが漂っていますね。
これは、当社が提唱する「クライアントゼロ」の取り組みの一環で、事業部からの提案でトライアル的に設置しているAIアロマです。クライアントゼロは、自社を0番目の顧客と位置づけて最新の技術を実践し、課題や価値の検証から得られた知見をクライアントへの提案に活かす手法です。
5Fの社内サテライト/DXリファレンスオフィスは、DXの実験場としての機能を併せ持つクライアントゼロの最前線ですが、「NEC Innovation Park」全体でこうしたさまざまな取り組みを実践しています。

入退場ゲートに使われている「丸ごと顔認証」もそのひとつです。生体認証技術のパイオニアとしての知見を活かした高精度な顔認証技術で、社員証を使わず、職場のあらゆる入退場や売店レジなどを「顔パス」で利用できます。

「NEC Innovation Park」で実践しているクライアントゼロは、5Fにある「コックピット」でとりまとめ、デジタルサイネージを通じて社内に発信しています。
現在行われているのは、オフィス内にいる人の居場所の見える化、空気の質・温度・湿度といったオフィス環境の見える化といった取り組みですね。将来的な自動制御も視野に入れながら、日々壮大な実証実験が行われています。

ちなみに、研究所で開発された新しい技術や製品の実証実験や評価は、3階・4階に設置した実証実験・外部連携フロアでの実施を想定しています。このフロアは、高耐荷重、高天井、空調電気設備の補強などを行ったほか、セキュリティレベルの高いエリアも設けており、クローズドな環境が求められる産学連携などにも対応が可能です。
2階エントランスフロア壁面には、AI、生体認証、量子コンピューティングなどの研究開発で世界最高水準の成果を挙げてきたNECの受賞記念プレートを、ウォールアートとして展示しました。来訪いただいた方にNECのことを知ってもらいたいという仕掛けでもありますが、もう1つ社員の目に留まる場所に置くことでエンゲージメントを高め、モチベーションを上げてもらう狙いもあります。
プレートがアートとして飾られているのは、なんだかかっこいいですね。毎日通るたびに目に入るというのも、さりげなくていいと思いました。

工夫を凝らした空間設計で、「あつまる・うまれる・ひろがる」のコンセプトを形に
6階から10階の中層階と、11階と12階の高層階についても詳しく教えていただけますか。

6階から10階が「Communication Hub」の役割を担うオフィスエリアであるのに対して、11階と12階は顧客やパートナーとの共創を意識した「Innovation Hub」の位置づけです。
特徴的なのは、中層階から高層階にかけての吹き抜け構造と内階段ですね。組織を超えた偶発的なコミュニケーションを誘発するため、人の流れが生まれやすい設計にしました。


また、吹き抜け階段付近には、可動式のテーブルと椅子で構成された「Anchor」ゾーンを設けました。コラボスペースとして、レイアウトや姿勢をフレキシブルに変えながら活用してもらいたいと思っています。
各組織のショーケースとして、棚やサイネージを利用した情報発信も推奨し、人だけでなくアイデアや技術の交流を生む場所としての効果にも期待しています。
設計上の工夫に加え、電源を最小限にしてモバイルバッテリー中心の運用にしたことも、固定席化を防いでコミュニケーションの促進につながっているようです。もっと電源がほしいという声もあるのですが、働き方を変える取り組みとして継続していく予定です。

このフロアは、社外にも開かれているのですね。
事前に登録したお客さまであれば、コワークスペースとしてご利用いただけます。玉川N棟16階にも同じような使い方ができる「Innovation Hub」があり、「NEC Innovation Park」でも同じ運用で導入しました。
こだわりのドリンクや健康を意識したお菓子などもご用意しており心身のリフレッシュや、対面での偶発的なコミュニケーション機会創出を狙っています。


広々としたイベントスペースも印象的です。
165インチの大型ビジョン2面、その周囲にもディスプレイを設置しており、100名規模のイベントが開催できます。オープン時の記者会見もこちらで行いました。会議室以外には極力壁を設けていないので、フロア内はもちろん下の階にも吹き抜けを通じて音が聞こえます。
「何かやっているな」と気づいて足を運んでもらえれば、そこから新たな発見や共創が生まれることもあるでしょう。NECのグローバルな研究開発ネットワークを生かし、世界各地にいる当社の研究者やビジネス開発メンバーの知見を共有する場としても活用していきたいですね。

外部にも開かれているエリアでは、来客の誘導や社内のゾーニングを明確にする案内表示も重要な要素ですね。
フロア案内には、目的のエリアや施設への移動をスムーズにすることだけでなく、オフィスデザインの一部として企業イメージを訴求する役割があります。洗練された印象とわかりやすさを両立するデザインを追求し、人の視線の動きを考慮して表示する高さや位置、大きさもこだわりました。

サーベイを通して改善出来る部分についても検討し、「社会価値の創造」に貢献できるオフィスに育てたい
オープン後に感じている課題があれば、教えてください。
各部門のフロア担当者などを通じて、うれしい感想も、改善を求める意見も、少しずつ上がってくるようになりました。
入居ユーザーに向けたサーベイも実施予定です。良い声も嬉しいですが改善を求める声についても真摯に受け止め出来ることは運用とセットで対応していきたいと考えています。

今回、ビル1棟の内装という大きな規模のプロジェクトに参画できたのは貴重な経験になりましたし、非常にやりがいのあるプロジェクトでした。ただ、オフィスは構築して終わりではありません。重要な経営資源であるオフィスの価値をより高められるよう更なる改善やブラッシュアップに取り組んでいきたいと思います。
今日はありがとうございました。最後に、Purpose経営の成功に向けた拠点づくりの集大成として、これからの「NEC Innovation Park」に期待することを教えてください。

「NEC Innovation Park」には入居組織以外も利用できる場所が沢山ありますので、まずは「NEC Innovation Park」に来て活用してほしいと思います。「NEC Innovation Park」に用意されたスペースについて、どんな風に活用できるか社員のみなさんも自主的に考えて、上手く活用いただければと思います。
クライアントゼロの取り組みがしやすいように作ってあるので、ビルの至る所でNECの新しい取り組みを推進していけたらと思います。
企業やアカデミアなど多様なイノベーターとの交流を通じ、社会価値の高い新たな事業を継続的かつスピーディに創出していくことが「NEC Innovation Park」の使命です。安全・安心・公平・効率という社会価値をひとつでも多く創造し、企業価値の向上と持続可能な社会の実現に貢献できるオフィスに育ってほしいと思います。