グローバル本社への進化。塩野義製薬148年の歴史と未来をつなぐ「FACE」に込められた想い
創業の地・道修町から、梅田の新街区「グラングリーン大阪」へ。塩野義製薬が進めたグローバル本社移転は、単なる拠点の集約ではなく、働き方の変革そのものでした。25名の精鋭チームが挑んだプロジェクトの裏側と、変革の指針として掲げた「FACE」のコンセプトについて、プロジェクトを牽引した堀口さんと大屋さんに話を伺いました。
2009年に新卒でMR(医薬情報担当者)として入社。2020年より広報部(現・コーポレートコミュニケーション部)に異動し、インナーコミュニケーションを中心としたコーポレートブランディングを担当する。SHIONOGIグループのリブランディングに伴い、社内向けのブランド浸透の推進活動を担っているほか、企業CM制作やSNS公式アカウントの立ち上げ・運営にも携わる。本社移転では、移転プロジェクトのメンバーとして、社内向けの情報発信を行った。
2011年に新卒で入社後、MRとして医師への情報提供活動に従事。人事総務部、CSR推進部を経て総務部(現・コーポレートガバナンス部)に異動し、リスクマネジメントやコンプライアンス業務を中心に担当してきた。本社移転では、社内外の調整をしながらプロジェクト進行をリード。2025年より人事部グローバルHR戦略室に異動し、グローバル化プロジェクトに携わっている。
目次
創業の地と未来をつなぐグローバル本社へ。
まずは御社の事業紹介、それぞれの自己紹介からお願いいたします。
塩野義製薬は、医療用医薬品の製造販売を中心に、現在は医薬品の枠を超えたヘルスケアソリューションを提供する「ヘルスケア企業」を目指して事業を展開しています。私はコーポレートコミュニケーション部に所属しており、主にブランディングを担当。今回の移転プロジェクトでは、社内向けの情報発信をメインに担当しました。
私は現在人事部におりますが、移転当時は主幹部署であるコーポレートガバナンス部に所属していました。プロジェクトのリーダー役として、社内の気運醸成や、施工業者さんをはじめとする外部事業者との調整など、全体を統括する役割を担っていました。

御社の働き方について、その特徴を教えてください。
出社と在宅勤務を併用できる体制をとっています。具体的には、月10日以上の出社を基本としています。グローバル本社では、オフィス内はフリーアドレスを導入しており、業務の内容やその時の気分に合わせて、集中できる席やオープンなスペースを自由に移動しながら働けるのが特徴です。


塩野義製薬の本社移転とコンセプト「FACE」が示すもの
今回の本社移転にあたって、どのようなコンセプトを掲げられたのでしょうか。移転を決断された背景にある課題や新しいオフィスに託した想いについてお聞かせください。

今回のプロジェクトには、今後グローバル社会から選ばれる企業となるため、本社を「グラングリーン大阪」に移転したという経緯があります。
以前は、本社機能が4拠点に分かれていたため物理的な距離があり、部署間の連携がしづらいという課題がありました。これらを解消し、コミュニケーションを強化することが移転の大きな目的でした。また、BCP(事業継続計画)対策の強化も重要視しました。街ぐるみで防災対策が整った最新のビルを選ぶことで、不測の事態でも薬の供給を止めない体制を整えています。

そして、新オフィスを設計するにあたって「FACE」というコンセプトを掲げました。これには「Face to Faceでのコミュニケーションを活性化する」、「困難に立ち向かう」、「笑顔を届ける、自らが笑顔になる」という多義的な意味を込めています。
道修町の本社は今後どうされるのですか?
創業の地でもありますから「大阪本店」として残し、大切に継承していく予定です。グループ会社での利用や、地域とのつながりを生かした活用を計画しています。
25名のメンバーで挑んだ「気運醸成プロジェクト」の舞台裏
今回の移転プロジェクトは、どのようなメンバー(部署や役職)で進められたのでしょうか。

2024年8月に「気運醸成プロジェクト」を立ち上げ、進めていきました。メンバーは各バリューチェーンから選出された30代〜40代の若手・中堅を中心に、役職者も含めた25名です。プロジェクト内に「情報浸透」「デバイス(設備)」「イベント」「ルール」という4つのサブチームを設置し、例えば、デバイスチームが、新しい働き方を実現するために必要なオフィスの設備を検討し、情報浸透チームがその検討内容を社内に共有するというように役割分担をはっきりさせました。
道修町は大阪本店として残しながら新本社へ移るという決断を、従業員のみなさんにはどのように伝え、浸透させたのでしょうか。
単なる「場所の引っ越し」ではなく「未来へとつなぐ変革」であることを伝えるため、説明会を何度も実施し、そこでは冒頭から社長の力強いビデオメッセージを流しました。また、従業員が自分事として捉えられるよう、執務席の椅子や天板の色といった家具の選定イベントを行い、従業員に参加してもらいました。サンプルを用意し、実際に見て、体験して、投票してもらうことで、自分たちの手でオフィスを作るという意識を高めたのです。
物理的な移動の背景にある意義を理解してもらうのには苦労しましたが、折に触れてメッセージを発信し続け、オープニングセレモニーなどの仕掛けにも力を入れました。
日本らしさを体現。「静寂と活気」が共存する空間設計
経営層が描く「グローバル本社としての理想」を具体的な形に落とし込まれたわけですが、日本企業としてのアイデンティティや具体的な空間設計におけるこだわりについて改めてお聞かせください。
「グローバル本社とは何か」という議論の中で、最終的には「日本らしさを打ち出す」という方向にまとまりました。清潔感や統制されていること、また、静かであることといった日本的な美徳を強みとして示すのが良いと考えたのです。

その上で、静かに集中したい場所と、賑やかに交流できる場所を緩やかなグラデーションで分ける「ゾーニング」にこだわりました。予約制の個人ブースを設けるなど、多様なニーズに応える設計を今も模索し続けています。

拠点統合がもたらした「組織文化の融合」と偶発的な交流
拠点集約を進める過程で難しかったことや、スムーズに進行するために行った工夫はありますか?
拠点集約の過程で最も苦労したのはルールや文化の統一です。例えば、ドレスコードです。キャリア採用が多いIT部門は比較的ラフな服装が定着していましたが、旧本社のカッチリした文化とどう融合させるかが課題でした。そこで「カジュアルフライデー」の実施などを通じ、TPOに合わせつつも自由度の高い服装を段階的に浸透させていきました。もちろんその日の業務内容にもよりますが、今ではパーカーで執務する従業員も珍しくありません。
オフィスでの働き方に対して、従業員のみなさんからはどのような反応がありましたか? 会社として感じているメリットや効果についてもお聞かせください。
「他部署とのコミュニケーションが取りやすくなった」という声が多いです。以前のように拠点間を移動する手間がなくなり、廊下やオープンな打ち合わせスペースですれ違いざまに相談が始まるカジュアルな交流が増えています。

従業員同士の距離を縮め、業務効率を高める「デジタル × 対面」の融合
執務エリアを歩いていると、役員の方々の姿も自然と目に入りますね。
そうなんです。一部の役員室も同じフロアでガラス張りにしたことで、経営層との距離が非常に近くなりました。移動の際に必ずエリア内を通る設計になっています。社長が歩きながら従業員に声をかける姿もありますね。

物理的にも心理的にも距離が縮まったんですね。業務の進め方にも何か変化はありましたか?
はい。業務効率の面で言えば、やはり他拠点にあった部門と物理的に近くなったメリットが大きいです。これまでオンラインでしか話したことがなかった相手と対面で、しかも即座に相談できるようになったので、意思疎通がスムーズになり、業務スピードが格段に向上しました。
でも、これだけ広いフリーアドレスだと、特定の相手とコミュニケーションが取りたいとき、その人を探して回るのが大変ではありませんか?
その点はデジタルでしっかりカバーしています。「誰が今、どこに座っているか」をリアルタイムで確認できるアプリを導入したんです。

訪ねる前にアプリを見ればいいので、「席にいると思って行ったのに不在だった」というコミュニケーションの空振りを防ぐことができています。
こうした新しい環境の良さは、従業員だけでなくご家族にも伝わっています。1月に実施したご家族向けのオフィスツアーでは、ご家族のみなさんにも「こんなに素敵な場所で働いているんだ!」と驚き、喜んでいただけました。そういうご家族のポジティブな反応も、従業員自身のモチベーションやエンゲージメントを高める大きな力になっています。
継続的な改善で育てる、新本社の運用体制とこれからの施策
オフィス運用に対して、従業員のみなさんからの意見や改善要望はどのように集め、対応されているのでしょうか。

イントラサイトに意見を書き込める場所を設け、要望に対して「対応済み」「対応中」といった進捗を随時更新しています。例えば「どの扉がセキュリティカードで開くのか分かりにくい」といった地味ながらも切実な不便さも、書き込みを受けてすぐにカバーを設置するなど、現場の声に素早く対応する体制を整えています。
オフィスの運用や構築を行う上で最も大切にされた視点はどんなことでしょうか。
第一にコミュニケーションの活性化、そして、高効率です。この新本社を変革の起点とし、ここで実践した効率的な働き方の成果を各営業所や研究所へも波及させていきたいと考えています。それと同時に、グローバル本社として海外グループ従業員との連携強化も加速していきます。
今後さらに取り組みたい施策や解決していきたい課題はありますか?
グローバル展開を見据えると、現状は掲示物や周知が日本語メインである点に課題を感じているので、まずは英語表記の標準化を検討しています。ハード面の整備だけでなく、「オフィスをみんなで育てていく」というソフト面の文化作りも重要です。そのため、プロジェクトが解散した後も、有志メンバーが主体となってイベント企画やライブラリースペースの活用を検討し続けられるような新しい仕組み作りも進めていくつもりです。
では、最後にこのオフィスで働くみなさんへのメッセージをお願いします。
オフィスは完成して終わりではなく、みなさんの声でより良く変えていける場所です。小さな改善の積み重ねが、大きな挑戦を生む土壌になると信じています。

従業員一人ひとりが「変革の担い手」としての当事者意識を持ち、この新しい環境を事業の成長、そして社会への貢献へとつなげていってほしいと願っています。