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企業ビジョンを体現するオフィスが変えていく、組織の今と未来―日本生命保険相互会社が示す新しいオフィスの在り方とは

明治維新後、さびれた大名屋敷跡だった東京・丸の内は、大規模な再開発を重ねて日本の近代化を象徴する存在へと変貌を遂げました。
日本生命丸の内ビルが竣工した2004年は、老朽化したビルを立て替える動きが進み、オフィスが「はたらくための箱」から「人と人、組織と社会をつなぐ場所」へと役割を変え始めた時期です。堅牢な躯体、働き方の変化に対応できる柔軟な空間、そして高い省エネ性を備えた地上28階・地下4階のビルは、「場所」を未来につなぐという新たな価値をも社会に示したといえるでしょう。

時を経て2024年、竣工から20年余りを経て動き出した日本生命東京本社のリニューアルプロジェクトでは、オフィスを「企業ビジョンを体現する場」として再定義。会社の「今」の成長を促すとともに、会社の思いを未来につないでいくことをめざしています。
リニューアルのプロセスやデザインコンセプト、今後の展望などについて、プロジェクトを主導する総務部の森崎未来さんと大木桃佳さんに伺いました。

森崎 未来
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森崎 未来
東京総務G 課長代理

旧首都圏営業本部で営業の業務推進や企画などを担当した後、育児休業を経て2025年から東京総務Gに復帰。現在は時短勤務で育児と両立しながら、働く環境の整備に取り組む。大木さんとともにリニューアルプロジェクトを主導。

大木 桃佳
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大木 桃佳
東京総務G 課長補佐(所属は取材当時)

新卒として入社後、東京総務Gに4年間在籍し、豊富な知識を生かして森崎さんとともにリニューアルプロジェクトを推進する。現在は、サステナビリティ経営推進部に在籍中。

9フロアを3年かけてリニューアル

workrary.ライター :

日本生命丸の内ビルといえば、環境配慮型ビルのロールモデルともいわれ、ロングライフビルとして知られています。まずは、今回のリニューアルに至るきっかけから教えていただけますか。

森崎さん :

ありがとうございます。
不動産部からは、「100年使えるオフィスビル」として、骨格を長く維持するために躯体を強靭にする一方、ワンフロアあたりの階高(かいだか)を一般のビルより高くとったり、共用スペースを広めにとったりして柔軟に中身を入れ替えられるようにしたと聞いています。
竣工から20余年、折々の働き方の変化にも対応しながら働き続けることができたのは、刹那的な美しさよりも恒久的な価値を重視した設計・建築のおかげだといえるでしょう。

森崎さん :

ただ、時間の経過とともに、オフィスの内部には痛みや劣化がみられるようになりました。カーペットのほつれや空間としてのまとまりのなさ、動線の悪さなど、一つひとつは「仕方ないよね」で済ませてしまいがちな問題ですが、全部が重なると著しく快適性を損ないます。
竣工時の約1.5倍まで従業員が増えたことで、物理的に空間が圧迫され、全体的に雑然とした印象もありました。

従業員がストレスなく働き、集中力を高めて企業業績に貢献する上で、心地よく働ける環境づくりが欠かせません。2024年に構想が始まり、総務部が主体となってリニューアルをすすめることになりました。

workrary.ライター :

貴社のように企業規模が大きいと、リニューアルプロジェクトの難易度も高そうです。

大木さん :

弊社はビルの上層階は賃貸オフィスとしてお貸しし、下層階を東京本部として利用しています。その中に特性の異なる多様な部署があり、ゆうに3,000名を超す従業員が働いているわけですから、効率的にリニューアルを進める工夫が必要でした。

業務への影響を最小限に抑える方法を考え抜いた結果、今回はオフィスとして利用している8階から16階までをリニューアルの対象とし、3年かけて段階的に進めることになりました。

workrary.ライター :

壮大な計画ですね。具体的には、どのように進めていったのでしょう。

大木さん :

組織の規模を考え、リニューアルの対象フロアで働いている従業員を別のフロアへ一時的に移転させて、その間に対象フロアの工事を進めることにしました。
まず、丸の内ビルの1フロア相当の所属を自社ビルに移転させ、最初の空きフロアのリニューアルに着手したのが2025年です。

workrary.ライター :

別のビルに移転する部門やリニューアルの順序は、どのように決めたのですか。

森崎さん :

システムの使用量や繁忙期、出社頻度といったリニューアルに関係する要素は、部門ごとに異なります。プロジェクト側が一方的に通達するやり方は得策ではないと考え、各部署の要望を吸い上げた上で経営層と議論を重ねました。経営層とは、少なくとも7~8回は会議を行いましたね。

オフィスで働くことで、企業ビジョンを体現できる環境づくり

workrary.ライター :

リニューアルのコンセプトを教えてください。

森崎さん :

コンセプトは「企業ビジョンを体現する場」です。

新中期経営計画において、弊社は生命保険を中核としてアセットマネジメント、ヘルスケア、介護、教育などさまざまな「安心」を提供し、「安心の多面体」としての企業体になることを長期的な企業像として掲げました。
また、この企業像を実現するための指針として、「今日と未来を、つなぐ。」を新たな企業メッセージとしています。全役員、全職員がこのメッセージを胸にお客さまの今日の生活に寄り添うことで、誰もが安心して暮らせる社会をめざしています。

しかし、目の前の仕事に追われていると、いつの間にか企業としての大きな目標と日々の行動が乖離してしまうことが少なくありません。
新中期経営計画の策定と相前後してリニューアルが決まったこともあり、オフィスに企業ビジョンを落とし込み、「はたらく」ことが自然と企業ビジョンの体現につながる場づくりをすることになりました。

workrary.ライター :

企業ビジョンを体現し、浸透させる場としての在り方は、オフィスの新しい価値の発信でもありますね。
ぜひ、具体的に聞かせてください。

大木さん :

お客さまの安心に寄与し、今日を未来へとつなぐ仕事ができている組織は、一人ひとりがまばゆい輝きを放っているはずです。
そこで、均等に混ぜ合わさることによって白色の光を放つ赤、青、緑の「光の3原色」を使ってエリアをゾーニングしました。

森崎さん :

3色には、「エネルギーの赤」「集中の青」「リフレッシュの緑」の意味をもたせています。

「INPUT/OUTPUT LOUNGE(赤)」は入口を入ってすぐのスペースで、行き交う情報でエネルギーを満たすインプット・アウトプットエリアとしました。

workrary.ライター :

エレベーターホールから目に飛び込んでくる赤が印象的ですね。

森崎さん :

弊社のカラーでもありますし、ロゴを想起させるような斜めのラインも入っているんです。
こちらのエリアでは、大きめのモニターを置いてさまざまなインフォメーションを流すほか、軽い打ち合わせや気軽な対話に使えるテーブルなどを置き、自然とコミュニケーションが生まれるようなつくりにしています。

INPUT/OUTPUT LOUNGE(赤)エリア
同じ什器でも、エリアによって色や素材を変えている
森崎さん :

「COLLABO(青)」は、各フロアをつなぐ中階段の左右にあるスペースです。上下階の自由な行き来を通じたアイデアの創出に期待し、コラボエリアとしました。
ここには、Webブースとオープンスペースがあり、少し集中して業務に取り組みたいときや重要な打ち合わせをしたいとき、あるいはオープンなディスカッションをしたいときの両方で使うことができます。

リニューアル前の中階段付近(工事期間)
リニューアル後の中階段付近
オープンなディスカッションを想定したスペース
森崎さん :

最後に「REFRESH(緑)」は、業務と離れて一息ついたり、リラックスして仕事をしたりするためのスペースです。
リニューアル前にも「水屋」と呼ばれていた休憩所があったのですが、よりリフレッシュできる満足度の高い場所を目指しました。

リニューアル前(水屋)
リニューアル後(REFRESH)
リニューアル後(REFRESH)
森崎さん :

窓に沿って設けたブース席からは東京を一望でき、弊社ビルならではの立地を活かした環境になったと自負しています。

workrary.ライター :

この立地だからこそできるオフィスデザインで、とても素敵ですね!

窓からの景色
大木さん :

大枠のコンセプトが決まったところで、若手社員の意見を聞く機会も設けました。というのも、これからこのビルを長く使っていくのは若手層だからです。
デスクの配置や必要な什器、そのレイアウトなどに細かい意見をもらって反映しているので、「私たちの意見が活きたオフィス」として愛着を持ってくれるといいなと思っています。

若手社員の要望でフロアの一角に設置された集中ブース

グループアドレスの導入で、上席との距離も近づいた

workrary.ライター :

新しいオフィスの運用についてお聞きします。従来のオフィスから変わる点があれば、その意図と合わせて教えてください。

大木さん :

先述したとおり、全体としては出社に回帰する部門が増えていますが、在宅勤務を定期的に行っている従業員も少なくありません。雇用形態によっても出社頻度は異なりますし、上席の中には、出社はしていても1日の多くの時間を会議で離席しているケースもあります。

こうした自然体の業務運営の中で生じるデッドスペースを有効的に活用するため、
従来のように全従業員に1席ずつ用意するのではなく、部署ごとに指定したエリアの中で自由に席を選ぶグループアドレス制を導入することになり、部署間のパーテーションも取っ払い、目に見える境界線をなくしています。
業務の性質や目的、活動の内容にあった場所を選んで働くABW(Activity Based Working)の考え方に沿って、3つのエリアと部署のエリアをうまく使い分けてほしいですね。

workrary.ライター :

あらゆる役職の方々が同じスペースで働くことで、偶発的な会話から関係性が深まったり、経営判断がスピードアップしたりする効果が期待できそうですね。

森崎さん :

実は、導入前に課題を発見するため、総務部だけ移転前にグループアドレスを導入したんです。
出社して座ってみたら、隣が部長で驚いたこともありました(笑)。が、意外とすぐ慣れるものですね。上席との物理的な距離が近づくと目線も近くなるので、企業ビジョンを自分ごととして捉えるためにも良いことだと感じています。

大木さん :

私たちが先にグループアドレスを実践したことで、他部署からの疑問や不安の声にも実体験をもって「問題ないですよ」と応えることができました。新しい取り組みを受け入れるのには時間がかかりますから、先に実証しておくメリットは大きいと思います。

workrary.ライター :

グループアドレスの導入によって、個人の荷物の管理方法なども変わりそうですね。

大木さん :

グループアドレスの導入後は、個人のデスクの隣にあったワゴンを廃止し、個人ロッカーで荷物を管理する方法に切り替えています。
これをきっかけに紙を削減したい狙いもあり、個人ロッカーの容量は他社での活用の状況や声をヒアリングした上で、意図的に減らしました。ファイルボックスでいうとワゴンは10個、個人ロッカーは4個が目安です。

リニューアル後の執務スペース。パーテーションもなくなり、フェイクグリーンでおおまかに区切られている
workrary.ライター :

各エリアのコンセプトや使い方、個人ロッカーのルールなどについては、どのように周知しているのでしょう。

森崎さん :

まず、若手層とのミーティングで出た質問や、総務がグループアドレスを実践するなかで感じた課題、他社さんの事例などをもとによくある疑問を洗い出してQ&A集を作りました。

ただ、総務に問い合わせが集中すると、日常業務に支障をきたす恐れがあります。
そこで、総務の若手社員と社内副業中の社員がチャットボットを作成し、従業員が自己解決できる仕組みを構築してくれました。チャットボットなら時間を問わずすぐに回答を返せますし、ナレッジの属人化も防止できて安心です。リニューアルを進める過程でチャットボットもブラッシュアップし、最適化していくことになると思います。

自由で制約のない場所から、会社の成長につながるつながりを生み出したい

workrary.ライター :

お話を聞いている私も、プロジェクトの完結が楽しみになりました。最後に、リニューアルしたオフィスの活用について、展望を聞かせてください!

森崎さん :

企業ビジョンを一人ひとりが体現すると、お客さまの満足度が上がり、結果として会社の収益が向上します。
リニューアルプロジェクトに携わる私たちの願いは、自由で柔軟な働き方を通じて部署や役職を超えたつながりが生まれ、はたらくことで自然と会社の成長に貢献できるオフィスになっていくこと。
コピー機の置き場を集約したり、各フロアに人気コーヒーチェーン店のコーヒーサーバーを入れたりして人が集まる仕掛けをつくっているので、ちょっとした会話が新しいアイデアのきっかけになるような流れを期待したいですね。

大木さん :

はたらく目的にあわせて、自分の意思ではたらく場所を選べるのが新しいオフィスの特徴です。執務スペースは可能な限り制約をなくすなど、今後20年を見据えた工夫もしました。
この先も生き続けるロングライフビルを目指すとともに、働き方のトレンドに応じて形を変えるサステナブルなオフィスとして生き続けてほしいなと思います。

取材先:

日本生命保険相互会社

https://www.nissay.co.jp/ 公式サイト