紙から空間へ――
表現の主戦場を広げるTOPPANの「ワークスペース×ショールーム」
印刷で培った技術を武器に、情報・素材・エレクトロニクス・セキュリティを横断する様々な事業を手がける企業へと進化を遂げた「TOPPAN株式会社」。近年は空間デザインにも進出し、自社商材を活かした独自性の高い提案で注目を集めています。
なかでもオフィスデザインの領域では、空間演出ブランド「expace(エクスペース)」が第36回日経ニューオフィス賞を受賞。歴史ある賞を受賞したことで、一躍その名を知られるようになりました。
2026年2月には、事業所の移転に伴い、ワークスペースとショールームをかけあわせた「expace office TOKYO」をフルリニューアル。旧オフィスの課題を解消し、社員の働きやすさを高めつつクライアントの想像力を刺激するオフィスへと進化しています。
今回は、「expace office TOKYO」のリニューアルを主導した大西遼さん、小林澪奈さんのおふたりに、オフィスの構築・運用の工夫を伺いました。
店舗設計施工会社を経て、2023年TOPPAN株式会社へ入社。オフィスやビル共用部、ショールーム、マンションなど、幅広い物件を担当。今回の移転プロジェクトでは経営層から担当層までの「ありたい働き方」を整理し、企画立案から全体進捗管理を担う。
店舗・オフィス設計を経て、2021年TOPPAN株式会社へ入社。オフィスやビル共用部、ショールーム、マンションなど、幅広い物件を担当。 4年前の自社オフィスリニューアルに続き、今回の移転プロジェクトでもデザイナーとして設計実務を担う。
目次
リアルなオフィスで、移転やリニューアルのヒントを提供する「expace office」
2026年2月にリニューアルした「expace office TOKYO」は、働く場であり、実装検証を通じたクライアントへの提案の場でもあるそうですね。まずは、「expace office」ができた背景とその役割について、詳しく聞かせてください。
「expace office」は、環境デザイン事業部が手がける空間演出ブランド「expace」の技術を駆使してつくったオフィス兼ショールームです。実際に社員が働いているオフィスを見学し、自社商材を活かしたサステナブルな空間演出や最新のABW(Activity Based Working)、フリーアドレスなどを体験していただくことができます。
働き方が多様化するなか、あえてリアルな空間に投資する企業の多くは、偶発的な対話や組織文化の醸成、価値観の共有といったフィジカルな場にしかない体験価値を求めています。しかし、どうすればオフィスを最適化できるのか、自社に必要な機能はなんなのか、オフィスの在り方に悩んでいる企業も少なくありません。
「expace office」を見学することで、理想のオフィスを構築するためのヒントを得てもらえればうれしいですね。
オフィス兼ショールームで自社製品やサービスに触れてもらう取り組みは他社でも散見されますが、御社ならではの強みはどこにあると思われますか。

全社で取り扱っている幅広い商材や技術を横断的に活用し、幅広い提案ができることです。また、家具や備品はブランドやメーカーにとらわれることなく選定しているため、お客さまのニーズにきめ細かくお応えすることが可能です。
単なる印刷会社から脱却し、DX・SXを推進するテック企業へとバージョンアップ
御社が環境デザインにも進出されていることを、まだ知らない方も多いのではないでしょうか。改めて、事業の変遷を教えてください。
当社は1900年創業の総合印刷会社です。紙幣の印刷に使用されていた「エルヘート凸版法」という最先端の印刷技法を活用し、証券などの精緻な印刷を手がける会社として知られるようになりました。
その後、紙の印刷と並行して、微細加工や表面処理、偽造防止といった印刷技術を他業種に転用。電子部品や建装材、セキュリティ印刷、半導体回路の原版であるフォトマスクなどの分野に事業の幅を拡大しています。
2023年には、持株会社への移行に伴って、「凸版印刷株式会社」から「TOPPANホールディングス株式会社」に社名を変更。印刷事業を担う主要事業会社である弊社も「TOPPAN株式会社」となり、社名から「印刷」が消えました。
DX・SX事業への転換とグローバルな事業展開への意思を、社名を通じて内外に示した形です。
現在は、どのような事業を展開しているのでしょう。
「健康・ライフサイエンス」「教育・文化交流」「都市空間・モビリティ」「エネルギー・食料資源」の4領域に対して、「情報コミュニケーション」「情報マネジメント」「生活・産業資材」「機能性材料」「電子デバイス」の5事業を展開しています。
提案できるサービスは、祖業である商業印刷・出版印刷をはじめ、ICカードやパスポートなどのセキュリティ印刷、ディスプレイ関連部材、精密加工技術、データ活用やDX支援、AI関連サービスなど多岐にわたります。

これだけ広い事業を扱っていると、「expace」が属する生活・産業系では解決が困難な課題でも、他事業部の技術が解決の鍵になることがあります。ただ、あまりにも領域が広く、技術の種類が多いため、社員一人ひとりがすべてを把握して最適解を見つけるのは困難です。
そこで、全社の情報や技術をとりまとめ、要望に応じて広く社内の知見につなげてくれるコンシェルジュが活躍しています。
旧オフィスの改善点を活かし、より働きやすくなった新オフィス
祖業のノウハウを活かした事業展開の歴史がよくわかりました。ここからは、「expace office TOKYO」に活かされている技術や、構築の工夫、運用ノウハウを聞かせてください。全体としては、どのように企画・設計されたのでしょう。
まずは、前オフィスの改善点を把握して新オフィスの構築に活かすため、大まかなプランをもとに管理職や若手の意見を聞く場をつくったり、全社アンケートを実施したりしました。
共創と一体感を促進する空間設計
そうした社内の声を反映して、オフィスの中心には、イベント時に社員が集まれる「EXPO Space」をつくっています。秋葉原でも月に1回は全社イベントを実施していたのですが、人数が多いので後ろの方の人はモニターが見えづらく、一体感が生まれにくいという課題がありました。

そこで今回は、中心に大きなLEDビジョンを設置し、LEDビジョンに正対するスペースにはあえて段差をつけています。

これによって、後ろの人も映像が見やすくなり、共創スペースとして活発なコミュニケーションが生まれやすくなりました。

視線をあげたときに自然と目に入る高さに、グループ理念「TOPPAN’s Purpose & Values」の核となるパーパスを掲げているのもこだわりのひとつですね。

テクノロジーを『発見』できる、ショールーム型の仕掛け
ところどころにある「!」マークも気になりますね。

これは、当社の商材をつかった仕掛けがあるポイントです。
例えば、エレベーターを降りて最初に目に入るエントランスの壁。ここには、「ダブルビュー・ヴィジョン」というディスプレイシステムが使われています。壁面の一部がディスプレイとして機能するので、インテリアの上質さを維持したまま文字や動画などのデジタルコンテンツを映し出すことができるんですよ。

オフィスツアーにいらしたお客さまには、各所にある「!」を探して、実際に技術を体験していただいています。
アンケートで見えた「本当に仕事がしやすい環境」
旧オフィスで特に多かったのが、照明に対する意見です。
秋葉原では、スペースによって照明にメリハリをつけ、一部をカフェのようにムーディな照明にしていました。気分を落ち着かせ、リラックスして仕事に臨めるようになる効果に期待していましたが、全体を見たときの暗さが気になるとの声が多かったんです。
移転後はオフィスらしい明度を確保したため、仕事がしやすくなったと好評ですね。

サンプルを置いているスペースでは、時間帯別の明るさや照明の加減による建装材の見え方を検証してもらえるよう、明るさを調整できるようにしています。
基本の設定では、朝は明るい白色で、夜にかけて徐々に暖色に落ちていくようにしています。

打ち合わせのスペースも改善しました。以前は、参加人数や会議の性質によって場を区切れるよう、スライド式のパーティションを設置していたのですが、実際にはあまり使われていなかったんです。
今回はカーテンで区切れるようにしたところ、使い勝手がよくなったのか、打ち合わせの前にさっと引いて目線を遮断する人が増えています。

偶発的なコミュニケーションが生まれる仕掛けを随所に
出社の促進や、出社したときのコミュニケーションについては、今回のオフィスではどんな工夫をしていますか。
秋葉原事業所内に企画・設計・施工した「expace office」は、コロナ禍でで人が減ったオフィスに再び活気を取り戻すことを目的に、「出社したくなるオフィス」「出社したときにコミュニケーションが取りやすいオフィス」をめざしていました。
今回も同じように、出社、および出社後の対話を増やす工夫を随所に凝らしています。
そのひとつが、階段の踊り場のスペースです。
今回のオフィスは、駅から少し距離があり、歩くことをネガティブに捉える方もいました。そこで、5階と6階をつなぐ階段の踊り場に近隣のマップをつくり、おすすめのランチスポットやお店などを紹介できるようにしています。「今日は何かあるかな」「カフェの情報があるといいな」というように自然と足が向くスポットに育て、出社の楽しみのひとつになればうれしいですね。
また、この場所をきっかけとして、部署をまたいだ偶発的なコミュニケーションが生まれることも期待しています。

階段の活用には、フロアごとにコミュニケーションが分断されるのを防ぎたいという思いもありました。少しでも一体感が増すようにとの狙いから、5階と6階は共用部であるエレベーターフロアに同じ柄のパネルを使い、建材の仕上げを統一しています。
また、エレベータホールからつながる廊下はアートに触れるギャラリーのような空間として設計しています。ここには、TOPPANが推進する「可能性アートプロジェクト」の作品を展示しています。

このプロジェクトは、障がいを持つアーティストの作品を弊社の特殊印刷技術で製品化し、自立支援につなげる試みです。
単なる装飾ではなく、こうした社会課題への想いや「無限の可能性」というテーマに触れることで、社員が自分たちの技術の価値を再認識したり、新しい視点を得たりするきっかけになればと考えています。
継続的な改善で、複合的な機能のさらなる進化をめざす
本日はありがとうございました。最後に、オフィスの今後の活用について、展望をお聞かせください。

今以上に出社したくなるオフィスをめざしたいですね。共創スペースでのイベントや、社員同士で趣味などを共有できる仕組みの構築など、コミュニケーション機会の増加につながる取り組みの企画を進めています。
秋葉原時代から、オフィス向上委員会を設置し、各本部からの意見を取り入れてよりよいオフィスを目指してきました。直近では、スペースやモニター席の予約をよりわかりやすく、スムーズにするための新システムを導入します。
単なる業務空間ではなく、お客様への提案の場として、また社員のコミュニケーション活性化と企業文化の発信拠点として機能するよう、継続的な改善に取り組んでいきたいと思います。