未来の不動産をつくるひと

何年も何十年も大切に使われてきた柱、階段、壁紙──。磨りガラスのあしらわれた洒落た黒い扉の鍵穴にレトロな鍵を差し込み、室内へ。すると美しい中庭が目に飛び込んできた。「ここはどこ?」。時代も場所も一瞬ぐらっとわからなくなりそうな空間だが、なんとここは東京渋谷・並木橋交差点にほど近い場所にある。渋谷の喧噪とはまさに別世界な『並木橋OLD HAUS』で、村井隆之さんにお話を聞きました。

2016年10月01日
text & photo by Azusa Yamamotophoto by Nozomi Ashizawa & OLD HAUS

村井 隆之 (むらい たかゆき)不動産プロデュースチーム『CityLights』代表。『並木橋OLD HAUS』を管理・運営している。さまざまな国での海外生活を経て、改装自由な物件だけを集めたサイト「DIYP」を立ち上げる。アメリカ・西部のパワースポット・セドナのベルロックに、ビーサン & Tシャツで挑んだ結果降りれなくなった、など海外での武勇伝多数。いい男なのに、写真に写るのは苦手だそう。

豊かな時間を過ごす場所

-今日はよろしくお願いします。ものすごく気持ちのいいところですねぇ。早速ですが、『並木橋OLD HAUS』ってなんですか?
村井さん ひさしぶりー!(注:ヤマモトは以前、村井さんにお会いしたことあり)郊外だったらありそうだけど、渋谷の真ん中でこの規模の古い建物ってないじゃない。ここは元々オーナーの住居だったんだけど、大事に使われていたのがわかるでしょ。そういう建物はちゃんと残さないとなって、それがはじまりです。手を入れるところと入れないところを考えて、1階は撮影や展示会のできる貸しスペースに、2階をクリエイター向けのシェアオフィスとして使ってもらっています。2階はもう埋まってるんだけどね。
-そうですか、残念。この渋谷のエリアについて村井さんは、どんな印象を持っていますか?
村井さん 街の印象とかないです。なんかそれ、あやしいじゃん!(笑)渋谷の利便性、立地のよさも大事だけど、この日本家屋には蔵があったり、蔵を囲むように中庭があったり、そこに鳥が来たり、都会の喧噪とは別次元の世界観なの。季節ごとにいろんな花が咲くのね。ムクゲが咲いて、ナンテンがそろそろで、アジサイも楽しみっていう、季節感がある。で、日本家屋だから窓を開けると風が通る。そんななか時を過ごすのは、豊かだと思うんだよなぁ。建築のもつそんな豊かさをもう一回出現させたい。
-贅沢ですよね。この空間にしても、時間の過ごし方にしても。
村井さん 海外行くとさ、ホテルやってる会社なんかだと、プールに入ってみんなでミーティングしたりしてるのよ。みんな水着着て。ここだったら、たとえば俺らも庭に出て、お茶飲みながら縁側で外国から来た友だちと打ち合わせしたりってことができる。そんな感じの仕事のスタイルもおもしろいし、そのほうがリラックスして、いろんなアイデアが出てくるってこともあるでしょ。

-なるほど。確かにアイデア出そう。このお家、見るからに歴史がありそうですけど、どんなストーリーがあるのですか?
村井さん 俺は建築屋だから、建築に必要なストーリーを大事にしてます。『もしも建築が話せたら』って映画にも描かれているけど、建物見た瞬間に、すごく大事に使われていたってわかるじゃない。そもそもの建物がしっかり造られている。柱の磨かれ方とか、古い時計が現役で動いてたり、欄間の彫刻とか。庭にしても、あんな五重塔みたいのないよ。際の部分が丸くなってるでしょ。全部手づくり。

写真中央の五重塔のような石灯篭をはじめ、この庭には職人の仕事の跡が残っている。

-巨大ですしね。
村井さん そうそう。今造ろうと思っても無理だよ。職人さんがいない。できたとしてもめちゃコストがかかる。機械でできない仕事で造り上げられてる。そして、ものすごく大事に使われていた。下の飛び石も「野面石(のづらいし)」って言って、加工されていない石を割って粗面のまま使うから、カクカクする。だけど、ここのは自然の丸みで厚みもあんだけあるでしょ。すごくいい石なわけです。石ばかりでなく細部のものもそう。だから、ちゃんと受け継がなきゃなって。どう受け継いで、どう使っていくかっていうこと。「はたらく」と「住む」だけじゃなく、どういう人がここに出入りするかってことも、とても大事だと思う。

建築物としての意図

村井さん 自分がいいなと思う人たちがここのシェアオフィスに入ってくれるのはうれしい。ただ場所が便利っていうだけじゃなく、こういう場所で自分の仕事のしかたが合ってると思う人が集まってくる。「どうしてもここで働きたい」って言ってさ。そういう、建築が人を呼び込むっていうのが、すごいおもしろいなって思って。
オフィスビルはオフィスビルの特製があって、利便性や効率性を追求しているわけですよ。だけど「そればかりじゃない部分を求めてる人もいる」というところに、自分としては価値を感じています。この価値が、今は都会においては埋もれてしまっているんだよね。自分がやってる「DIYP」もそうだけど、誰も見向きもしない空間でも、実は手を入れたらすごくよくなるものはある。そこにポテンシャルを感じて、改装する。

村井さんの運営する「DIYP」。ヤマモトも実際に内見した経験あり。

建てるだけが建築じゃない。使って初めて建築。キープするのも建築。そうじゃないとただの「物」になってしまう。使い方が荒いのもやっぱり「物」になっちゃう。そこにいる人たちがその建物の中にあって豊かだと思えることが、“建築物としての意図”だと思うの。だって、造るの大変だよね。建築士にしても、大工さんにしても。そうやって造られた建築物の価値をあんまり見ない人が多い。単純に入って「新しい」とか「きれい」ってことで使ってたり、ここにいるのは9〜17時までの間だけですから、って感じで。それってちょっとね、建築の人間としてはさ。
-建築物の真の価値か。この話、超いいっすね!
村井さん こっから後半、ずっと下ネタだけどいい?(笑)建物と人間の関係性、暮らしの関係性ていうのに注目して考えてみるとおもしろい。当たり前に思ってることを含めて、いっぱい発見があるんだよ。
『テートモダン』ていうイギリスの美術館があってね、ヘルツォーグ&ド・ムーロンていう人たちが、依頼を受けて、火力発電所だったところを美術館に変えたんだけど、このストーリーがすごい好きで。ダイナミズム、つまり大きな建物を造るというだけじゃなくて、ストーリーが変わってく感じが好きなんです。ここも家だったのがオフィスになったりと、空間の用途が変わる。建物と人の関係性って時間によって変わる、そこに生まれるストーリーが、おもしろいなと思っているんです。

人と建築の関係性なんだけど、これからもっとおもしろいことができる予感が個人的にはずっとしていて。単純にデザインが素晴らしいとかいうだけじゃなくて、効率的で便利だとか、経済合理性じゃなくて、なんか……もっと「なんか」ある気がすると思って。
-その「なんか」を意識したはたらき方って増えると思いますか?
村井さん ていうかね、人の目に触れてつながっていくことで、みんなもうそんなはたらき方をしてるんだと思う。でも、これは俺の視点の話だけどさ。人はそれぞれ視点を持っていて、大事なのは、そういうことをみんなで「どういう感じで生きてるの?」とか「どういう想いでここにいるの?」って、話し合えたらいいよね。
話し合ったり知らない人と出会えたり、仲よくなったりする場所=“居場所”を一緒に造っていくことを、俺は一番いいと思ってるから。
-村井さんにとって、オフィスってなんですか?
村井さん ……オフィスと言えば、OLさん?(笑) ていうか、なにオフィスって。建築上の定義はあるけど、「はたらく」って何? そもそも。「寝てるとき働いてないの?」とか「メシ食ってるとき働いてないの?」とか、友だちとアホな話してるときに、アイデアが思いつくときもある。オフィスだってさ、働かなきゃいけないわけじゃないでしょ。そもそもオフィスの意味って、俺にはわかんないや。だから、俺の知ってるオフィスのイメージは、OLさん。やっぱ制服だよね。薄いピンクとかブルーの制服着てるの(笑)。
-最後まで村井節ですね(笑)。今日は、ありがとうございました。

『並木橋OLD HAUS』の1階部分はレンタルスペースとなっているので、撮影会や展示会、小規模なイベントなどで、この空間をぜひ体験してください!◆ お問い合わせ・詳細並木橋OLD HAUShttp://oldhaus.jp

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