~よく遊び、よく遊べ~

夜である。われわれはたき火にあたっている。火というよりも、煙。痛くて目が開けられない。「乾燥していない木を入れたらダメなんだぜ!」トム・ソーヤが言う。「リンゴを焼こう!」ハックルベリー・フィンがどこからか枝にささったリンゴを持って来た。「それ、そのまま火に入れたらだめなやつー!」と思うが、時すでに遅し。またも周囲は煙に包まれ、咳き込む少年たち。──トム・ソーヤとハックルベリー・フィンの冒険物語を思い出さずにはいられない、北海道・京極町の少年たちと、少年の心をもち続ける大人たちのお話。

2016年09月01日
text & photo by Azusa Yamamoto

― 子どもが触っても、たとえ食べてしまっても大丈夫な建材

「今日は一日泥まみれになって遊んでいい日です!」と宣誓したのは、北海道を拠点に全国で活躍する左官職人の野田肇介さん。この日は、羊蹄山の麓に建つ築80年の古民家の「土壁をみんなで塗ろう!」とワークショップが開催されていた。 ここは、北海道の西に位置する虻田郡京極町(きょうごくちょう)。スキーのシーズンになると国内外から人が集まるニセコのお隣の町だ。穏やかで悠々とした景色が広がる。

札幌から京極へ。どんどんと北の大地らしい景色に。
施主・横田武志さんと佐智子さん。
横田家の外観。

施主の横田武志さんと佐智子さん。長男の侃人(かんと)くんと長女・颯(そう)ちゃんとの4人家族だ。家づくりの話を聞くと、ここまでの道が壮絶。「築80年と言っても、ほとんど住める状態じゃなかったしね。でも、ここを見に来たときに、『ここだー!』って佐智と二人でなっちゃったんだよね(笑)」当時を振り返る“ヨコちゃん”こと、武志さん。ヨコちゃんが初めてこの家と出逢ったとき、床は抜け落ち、建物の躯体が傾いていた。どんな状態であったとしても胸に宿ったのは「ここに住みたい!」だった。そこに立ち上がったのは『Apollo Company』の“ひでさん”こと藤井英樹さん。大工であり、ログハウスビルダーであり、遊具職人でもあるひでさんが入って、工事が始まったのが2016年2月。真冬の北海道。地面が凍るなか、基礎をうつために床を解体し、直径70センチほどの穴を深さ80センチまで掘った。それも25個の穴! ひたすらに。「もう辞めたいと思ってたんじゃないかなー!」当時を振り返っても、あっけらかんとしているひでさん。
この解体によって、80歳の家から出てきた本畳。化学繊維のまじらぬ藁ばかりの畳をつかって、「これを土壁にしよう!」アイデアを出したのが、左官職人・野田さんだった。

この家の解体からリノベーションをすべて請け負った棟梁・ひでさん。
左官職人の野田さん。この人の加入で、内装の方向性が固まった。

「野田さんもやり口って、こんなだったの。『まず藁を取りに行ってください』て言うもんだから、トラックで藁をフレコン※2袋分を取りに行った。やれやれってそれで終わりだと思うじゃない? そしたら『次は、土を1.5トン。なるべく粘度質なのを』『そしたら藁を5センチ幅にカットして』『今度は土は砕いて乾燥させて』って、ぜんぶ指示が小出しなの!(笑) 最初に全工程聞いてたらきっとやらなかったと思うもん」とは、奥さん・佐智さんの談。
※フレコン……粉末や粒状物の荷物を保管・運搬するための袋状の包材のこと。フレキシブルコンテナバッグという。

これが、直径70センチの穴+深さ80センチ×25か所!
寒風吹きすさぶ中(北海道の寒風!)、断熱材になる発泡スチロールをきれいに洗ったのは、長男・侃人。
乾燥中の土壁。ストーリーを聞くと、感謝が湧き起こる。

こうして、手を動かし続けて得た畳、地の藁・土を使って土壁の材をつくった。そんな大切な土壁をご近所のみなさんが集まって左官をするという、とっても記念すべき日に立ち会わせてもらったのだ。
「手で塗ってかまわない」という野田さんの指導のもと、一斉に土壁塗りがスタート。最初軍手をはめて塗っていた子どもたちは、素手に変わり、手で塗り込んでいたと思えば、スパイダーマンのごとく、壁に投げつけるスタイルに変化。そして、早々に仕事を切り上げ、外で鬼ごっこが開始された。
残ったのは、大人たち。飛び散った土壁を収めながら「いやー、まずったよね」とか「最初に壁に投げたの俺らだしな」とか、まるで自分たちが叱られたみたいにしょんぼりと作業をしていた。

手で塗り込んでいく。木の間から本畳がひそんでいるのがわかりますか?
次の瞬間には、もう外で遊んでいた。
ここには、退屈している子どもは一人もいなかった。

そして、完成した横田さんちの壁。たくさんの老若男女が家に触れた。人びとが笑う、家も笑う。「ここの前の家主はさ、50代で早期退職して家のことを全部やっていた人なんだって。奥さんが働きに出ていたんだそう。馬を飼ったり、実のなる樹が植わっていたり。生活を楽しんで、大事にしてたことが家から伝わってきてね」ビールを飲み、ご機嫌なヨコちゃんが教えてくれた。

入口の扉も遊び心がたっくさん詰まっている。
モルタルで固めた形状は、このため。
ここが横田さんちの見せ場。まぶしいくらいのお家になりました。
― 遊び方を知っていますか?

ここの大人たちは、「危ないからやめなさい」と言わない。たとえ、屋根に乗っていようが、そこから飛び降りようが、年上の子が下の子を見る、という暗黙のルールがあるだけ。そのルールがくずれそうになった時だけ、注意をする。「足場が不安定になってるよ。お兄ちゃんたち、注意してね」と。ここの大人と子どもの関係性が特別なように思えるんだけどと、ヨコちゃんに聞いてみた時も、返って来たのはこんな答えだった。「子どもを子どもと思ってない。一人の人としてつきあってるからねえ」
北海道で何を見て来た? と問われたら、きっとわたしは「全力で遊ぶ人たちを見て来た」と言うだろう。
お昼も夜もフル稼働していたピザ釜。これは初めて家を見に来た野田さんが左官で造ったそうだ。「あの人は、遊び方を知ってるよね」とヨコちゃん。ここでは、“どう働くか”よりも“どう遊ぶか”が話題にあがる。
使われない建材を使ってDIYで家を増築している人、山を開いて子どもだけで遊べる公園を造ろうとしている人、樹の声に耳を傾けながら森を健全な方向に導く人、自分の家にスケートボード場を造る人──。ここは、皆が本気で遊んでいる。そういう現役のトム・ソーヤやハックルベリー・フィンたちと、わたしもまた思い切り遊ぼう。

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