~はたらくこと暮らすことに、必要な場所~

お元気ですか? わたしは今、鹿児島県薩摩川内市の甑島(こしきじま)に来ています。上甑島(かみこしきじま)の真ん中あたりにある中甑漁港を目の前にした『コシキテラス』で、一服しているところです。ここのアロエ酢サワー、とってもおすすめ。今回は、ここ甑島のちいさなお豆腐屋さんのお話です。

2016年09月01日
text & photo by Azusa Yamamotophoto by Kohei Harata

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何の気なしに、カフェの本棚にあった雑誌を手に取りページをめくっていると、工業デザイナーであった秋岡芳夫(あきおかよしお)という人の特集に目が止まった。世間が大量生産大量消費という流れにどんどん飲み込まれていくなか、この秋岡さんは「消費者より、愛用者になろう!」と、手仕事やものを大事にする暮らしを訴えたひとだそうだ。こんな文章を見つけた。
“工業技術で住宅を量産してコストを下げようと言うねらいのハウス55計画が完成する昭和五十五年には、都会に一人も職人がいなくなっているだろう。すべての生産技術がぼくらの町から遠い見知らぬ土地の工場に移り、大工も椅子も張替職人も、豆腐屋もいなくなる。近所に豆腐屋が居なくなると、毎朝の味噌汁が不味くなる。町内で椅子の張替えが出来なくなると、脚も肘もまだしっかりしていてあと数年は使えそうな椅子を粗大ゴミに出すことになる。買換えで損をする。”
『住 –すまう 日本人のくらし』玉川選書 昭和52年(『住む。』2011年秋号 No.39「秋岡芳夫の目と手と言葉」より)

アロエ酢サワーをチューと飲みながら、秋岡さんはなぜ、毎朝の暮らしを支える豆腐屋を、警鐘の対象にしたんだろう? と思い、顔をあげた。すると、目の前に、キラキラ光る甑島の海が広がっていた。

― 甑島の商店へ

島の里港のエリアにある『山下商店』。以前から周りの人たちに評判を聞いていたので、ぜひ行ってみたいと思っていた場所だ。玉石垣が連なる武家屋敷通りをぬけ、民家の間に、ちょこんと立つ小さな商店があった。店内にはおしゃれなパッケージの島の特産品が置かれ、ビールやコーヒーもいただける、ちょっとしたカフェみたいな空間だ。ここで、店主のヤマシタケンタさんに会えたことも、うれしい出来事だった。夜は、島の焼酎で乾杯。

― 豆腐をつくるということ

ケンタさんの豆腐づくりを見学させてもらったのだが、思った以上に重労働だった。大豆を炊く蒸気で室内はサウナのよう。熱気にあてられクラクラしながら、彼の動きを追う。豆をつぶし、豆乳とおからに分けて、豆乳ににがりを入れて成形。ひっきりなしに動く彼らの横で時計を見ると、午前6時半。日の出前から豆腐をつくり、この時間にはもう島のおかあさんたちが豆腐を求めにやってくる。一丁180円の豆腐ができるまでに、こんなに手間と労力がかかっているなんて。できたての豆腐を一口いただく。ほわっと大豆がかおり、やわらかくてやさしい味。『山下商店』の豆腐は、こうして島の日常を支えている。

― 島をあきらめない

ケンタさんに、こんなに大変なのに、なぜいま豆腐をつくるんですか? と聞いてみた。「島をあきらめないために、です。僕が育った家の両隣が豆腐屋で、毎週土曜日の朝6時に豆腐を買いに行くのが子供の頃の仕事でした。そこで働くばあちゃんから豆腐を買う。ただそれだけなんですけど、大人になってふり返ると、これが島の原風景だなって。あのばあちゃんの働くうしろ姿こそが、島になくてはならないもの。僕が子どもだったように、いまの子どもたちにとっても、働くうしろ姿を見せることが必要だと思うんです。今の子どもたちに『島で働く』ということを身近に示せるのは豆腐屋だと思って」

島で働き、暮らしているという姿を見せることで、後につづく子どもたちが島を出たとしても、また戻ってくる(甑島には高校がないため、進学する子たちは島外に出てしまう)。そうして島がめぐって行くことを“あきらめない”と言うケンタさんの目はまっすぐ前を見据えていた。

豆腐屋店主だけでなく、『東シナ海の小さな島ブランド株式会社』の社長として、甑島の産品を加工して販売したり、島のガイドをしたり、宿『island Hostel 藤や』を運営したりと、ケンタさんはほんとうにいそがしい人である。さらに、この11月には「次世代の漁師のイメージをつくりたい!」と言って、あたらしい参加型のお祭り『KOSHIKI FISHERMANS Fest 2016』を開催するそうだ。 それもすべて、島に仕事をつくり、育った事業は後輩たちにわたしていくためだそう。雑誌に載っていた秋岡芳夫さんの町から豆腐屋がなくなることの警鐘が、なんとなくわかった気がした。 豆腐屋は、産業も、教育も、営み全部のきっかけになるんだ。

東の浜の「フナムシ一号線」と呼ばれる堤防道へ出ると、日が沈む直前の世界が広がっていた。夢中でシャッターを切っていると、おかあさんが「綺麗ですねえ」と行きすがる。ただ、この豊かな瞬間に胸をつまらせる。
できたての豆腐を一口。この日常をつくる濃厚な作業に圧倒されている間に口のなかで溶けていた。
お世話になったお宿『island Hostel 藤や』の朝ごはん。さきほどできた豆腐をいただき、じーんとする。
◆ お知らせ

ヤマシタケンタさんの新たな挑戦「次世代の漁師のイメージをつくる」が、体験型イベントとして開催決定!漁師×デザイナーのコラボで新たな大漁旗をつくったり、イケメン漁師さんがBBQで魚とハートをこんがり焼いてくれたり、たき火を囲んで人生語ったり、海風を感じながら音楽聴いたりと、ワクワクコンテンツが盛りだくさんのようです。わたしも行こうかなとスケジュールを調整中(笑)。KOSHIKI FISHERMANS Fest 2016日時:2016年11月19日(土)場所:甑島 中甑港周辺特設会場http://island-ecs.jp/kff/

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